第33話 それはタオルじゃありません
体育祭の開会式も終わり、各競技が始まった。
俺はというと、校庭隅にある木陰に移動したところだが。
「暑くなってきたな。もう夏も近いか」
ベンチに腰掛け、雲一つない空を見上げながらつぶやいた。
「しゅ~んくん♡」
「うわっ!」
突然、目の前に真美さんの顔がアップになり、俺は腰を抜かしそうになる。
「ま、真美さん。ビックリした」
「ふふっ♡ ドッキリ成功」
そう言って真美さんはおどけたポーズをする。
お茶目な人だ。
こっそり背後から近寄ってきたのだろう。
「もうっ、驚かせないでよ……って」
俺はとっさに目を逸らした。今日の真美さんも刺激的だったから。
「た、たた、体操服が……」
「ん? どうしたのかな?」
真美さんが体を捻ると、タイトな体操服が体に張り付き、Gカップ巨乳(推定)がグイッと強調される。
ちょっと待て! これ体のラインが出すぎだぞ!
体操服って、こんなにエッチだったっけ?
「ねえねえ、どうしたの、俊くん♡」
真美さんが巨乳を前面に押し出してくる。グイグイと俺の顔目掛けて。
こんなの偶然とは思えねえぞ!
「ほらほらぁ♡ どうしたのかな? しゅ~んくん♡」
「ああ、真美さん、ち、近いぃ」
「ちょっと真美、話があるんでしょ」
もう限界だと思ったその時、背後から凛の声が聞こえた。
「あっ、そうだよ凛ちゃん。お弁当の話だよね」
「そうそう。もうっ、真美ったら」
真美さんは俺から離れて、凛と話を始めた。
助かったぁああ! あとちょっとで真美さんの胸が俺の顔に……。
「でも、凛ちゃん。止めるのがちょっと早いよぉ。もう少しだけ、俊くんにおっぱい責めしたかったのに♡」
「しー! 声が大きいって!」
「はぁん♡ 俊くんの顔に私のが密着ぅ♡」
「だから声! ここ校庭だから」
二人は何を話しているんだ? またアップルパイの話かな?
「ところで姉ちゃんは何しに来たんだよ?」
「俊、あんたねえ! 毎回私が止めてるんだから、感謝しなさいよね」
「何の話だよ」
相変わらず凛は変な女だ。
そう言えば、さっきお弁当ってワードが聞こえた気がするけど。
もしかして、真美さんの手作り弁当かな?
「真美さん、さっきお弁当って」
「あっ、そうそう、お弁当作ってきたの。お昼一緒に食べよ♡」
「はい」
やった! 真美さんの手作り弁当だ!
「期待してね、俊くん♡ 腕によりをかけて作ったから」
「はい、嬉しいです」
「うふふっ♡」
真美さんのお弁当、楽しみだな。
凛は一人でオロオロしているけど。
「ちょっと真美、その弁当ってもしかして……?」
「ん、どうしたの、凛ちゃん?」
「ほら、もしかして腋で……」
凛が真美さんに耳打ちしている。
「うん、もちろん腋とお尻だよ」
「えええぇ……」
「凛ちゃんも食べるよね?」
「わ、私は……」
「食べるよね」
「は、はい……」
凛の顔が死んでいる。どうしたドS姉よ。
「ああぁ……真美ぃ……。これさえなければ本当に良い子なのに……。何故、天はこの子にこんな欠点を……」
今度は神に祈り始めたぞ。うちの姉ちゃん、本当に変な女だ。
「じゃあ俊くん♡ 私は出場競技があるから行くね♡」
「はい」
「また後でね♡」
真美さんは手を振りながら、ぐったりしている凛を連れて戻っていった。
「よし、俺も競技を見に行こうかな」
クラスの応援席に戻ると、ちょうど女子の競技が始まったところで、周囲は大いに盛り上がっていた。
俺は長瀬に声を掛ける。
「戦況はどうなってるんだ?」
「おっ、大崎、凄い盛り上がりだぜ、胸が」
「は?」
グラウンドに視線を移すと、全てを理解した。
真美さんが走っているところだ。
奇跡のGカップ(推定)が、バルンバルンと揺れ、周囲の男子の視線を釘付けにしている。
「おお、やっぱり望月先輩が最高だな」
「あの胸、あの可愛さ、あの神々しさ」
「揺れまくってるぜ」
「たまらねえ……」
イラッ!
周囲の男子からの噂に、俺の中に強烈な嫉妬が湧き上がる。
俺の真美さんをエロい目で見るんじゃねえ!
まあ、俺もエロい目で見てるけど。
「おい、大崎、目がマジだぞ。殺意を隠せてねえぜ」
長瀬にツッコまれた。
俺、そんな目をしてたのか。
「くそっ、どいつもこいつも真美さんをジロジロ見やがって」
「お前が付き合えば良いじゃねえか」
「つ、つつつ、付き合えるわけねえだろ!」
「脈ありだと思うがな」
脈なんてあるわけないだろ。真美さんは、ただの幼馴染だぞ。
パーン!
続いて200メートル走が始まった。
こちらは一方的な展開だ。
スタートダッシュを決めたメアリー先輩が、二位以下をぐんぐん突き放して、ぶっちぎり一位でゴールした。
「あの人、水泳だけでなく、スポーツ全般が得意だよな」
日本人離れした180センチ近くある長身、長くしなやかな脚、程よく筋肉質な体。まるで異世界アニメに登場する女戦士みたいだ。
◆ ◇ ◆
「ごくごくごくっ」
校庭の水飲み場で水を飲んでいると、背後から近づく肉の威圧感を感じた。
「えいっ!」
ブシャァァァァー!
「ぐああっ! ゲホッ! ゲホッ!」
いきなり蛇口を全開にされ、俺は勢いよく飛び出る水で咽てしまう。ちょっと気管に入っちゃったぞ。
こんな子供っぽい悪戯をするのは、すぐに誰か察しはつくけどな。
「メアリー先輩、何してくれてるんですか」
「あははっ、ごめんごめん」
顔も髪もビショビショのまま振り向くと、予想通りそこに立っていたのは天然金髪が眩しいメアリー先輩だった。
「もうっ、濡れちゃったじゃないですか」
「ほら、こうすれば乾くだろ」
何を思ったのか、メアリー先輩は俺の顔を引き寄せ、自分の体操服で拭き始めたのだが。
「ちょ、な、何してるんですか!?」
「拭いてあげてるんだよ」
「わぷっ! ちょっと、タオルじゃなく体操服で拭くとか! って、汗で湿ってるし!」
「ぬふふぅ♡ さっき全力疾走したからね♡ あたしの臭い付きだぞぉ」
本人が臭い付きと言うように、メアリー先輩の体操服は汗臭かった。女の子特有の甘い香りと汗の臭いが混じった、何ともいえないエッチな感じだが。
「もうっ、メアリー先輩は、もうちょっと恥じらいを持ってください」
「何だとー! あたしだって乙女の恥じらいはあるんだぞ。それを上回るムラムラがあるだけで」
どんなムラムラだよ!
「何だよぉ、俊も好きだろ? 臭い責め」
「ギクッ!」
「ほら、あたしの上履きを嗅がせた時とかさあ」
「あ、あれは忘れてください」
自分でも認めたくないが、メアリー先輩のマニアックなじゃれ合いは嫌いじゃない。むしろ好きだ。
こんなの誰にも言えないけどな。
「こういうのは男子が誤解しますよ」
「大丈夫さ、俊にしかしないから」
「俺が誤解しますって!」
相変わらずメアリー先輩は、よく分からない人だ。スキンシップが過激というか。
本人は冗談のつもりなんだろうけど。
その時、水道の反対側でたむろしている男子の笑い声が聞こえてきた。
「やっぱ彼女にするなら望月真美だろ。あの巨乳はたまらねえよな」
「俺も俺も! あの体はエロすぎるぜ」
「俺は大崎凛だな。美人なのに気さくで話しやすいし」
よくある『彼女にするなら』って話だ。大抵、面白半分でやる男子のネタなのだが。
ただ、真美さんの名前が出てイラっとした。
相変わらず凛も人気みたいだけど
「万里小路瑛理子はどうよ。めっちゃ美人だろ」
「あれは無い。不愛想だし変人だし」
「見た目だけは最高だけどな」
イラッ!
次に瑛理子先輩の話になり、俺の中でイライラが増した。瑛理子先輩の良さを何も知らないくせにと。
「じゃあさ、黒森芽亜莉は? 体はエロいよな」
今度はメアリー先輩の話になった。すぐ近くに本人がいるのも知らず。
「体はエロくて最高だよな」
「セ○レにするには良いんじゃね?」
「お前サイテー」
「だってデカいじゃん。隣に並ばれたら最悪だって。俺がチビに見えるだろ」
「だよな。エッチだけなら良いけど、付き合うのはナイわー」
「やっぱセ○レだよな」
「「「ははははっ!」」」
その男子たちはメアリー先輩のネタで爆笑している。
奴らの心無い言葉に、俺はイライラが止まらない。
「あの、メアリー先輩……」
「あははぁ、よく言われるんだよね。ほら、あたしって色々エロいから。見た目も派手で遊んでそうに見えるし」
メアリー先輩は冗談っぽく笑った。ただ、顔は笑っているのに、どことなく寂しそうに肩を落としている。
その瞬間、俺は気づいた。メアリー先輩は十分に恥じらいのある乙女なのだと。
心無い言葉には傷つくし、肩幅が大きいのを気にしたり、可愛い服が好きだったりするのを。
「あいつら……」
俺の中で、沸々と怒りが湧いてくる。
余計なことに首を突っ込まない主義だけど、何故か俺の足は勝手に動いていた。
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