第31話 私の恋の物語1
恋は呪いだ。全身に染みわたったそれは、私の心と体を蝕み続ける。
一度その呪いにかかったら、もう二度と抜け出せない、病にも似た状態に陥ってしまうのだから。
他の何を犠牲にしてでも、あの人を欲してしまうくらいに。
「大崎君……」
私は、彼が出ていったドアを見つめている。
彼の胸に抱きついた時の温もりを感じながら。
『先輩が修羅の道に進むのなら、俺は何処までも一緒に行ってやる! 永遠に一緒に!』
今でも彼の言葉が胸に残っている。永遠に一緒だという言葉が。
「それってもう告白みたいじゃない。本当にバカね」
バカは私だ。素直になれず、踏みたいとか茶化しちゃうなんてね。
踏みたいのは本音だけど。
「はぁ、これって運命かしら」
柄でもない言葉をつぶやいてしまう。
だってそうよね。あの時の少年が私の前に現れて、再び私の背を押してくれただなんて。
『誰にも人の夢を邪魔する権利なんかないです。何作も小説を書いているなんて本気ってことですよね。夢に向かって頑張ってるって凄いと思います』
あの時の言葉が、私の原動力になっている。
高校一年生くらいの頃だったかしら。小説家になりたいと思った私だけど、周囲からは否定的な言葉ばかりを投げかけられて。
『そんな夢みたいなこと言ってないで、真面目に有名大学に進みなさい』
『まだそんな子供みたいなことを言っているのか。くだらない』
馬鹿にされ、否定され続け、私の心は折れかけていたのよ。
そんな時だった。書店で出会ったあの少年が……。
私は本棚から一冊の本を抜き、ジッと見つめる。
何度も読んで擦り切れた表紙の本を。
小説の書き方入門――――
偶然会っただけの少年。真面目でお人好しそうな顔をした。その、少年の言葉で私は進むと決めた。
まさか、あの少年が、大崎君だったなんて。
「以前は男女の心の機微に疎かったのに、今では痛いほど分かるわ。これが恋なのね」
ふと、あのストーカー女……望月さんの顔が思い浮かんだ。
彼女もきっと、こんな気持ちだったのかしら?
どんな手を使ってでも彼を手に入れようと、あの手この手で。
「で、でも、変なものを食べさせるのはダメよ! 腋パイって言ってたわよね? 何よそれ! 気になるじゃない!」
好きな相手に自分の臭いや体液を混入させた物を食べさせるだなんて……あの女やるわね!
それって最高にSMみたいじゃない! 素質あるわ!
「コホンッ、いけないいけない」
私は一つ咳払いして、邪念を振り払った。
「今は先に進むことを考えましょう。エトワール書院のコンテスト受付は閉め切っちゃったから、それは次回に出すとして……」
不思議ね。さっきまで、あんなに悲嘆に暮れていたのに、大崎君と話したら元気になったわ。
そんなことを考えている自分に驚いてしまう。やっぱりこれが恋なのかしら。
今は、この溢れるような感情を物語にしたい。
「そうね、久しぶりにファンタジーや恋愛ものも良いかもしれないわね。大崎君と一緒に小説投稿サイトに載せて、WEBコンテストに応募してみるのも……」
次々と未来への展望が開けてくる。
これも大崎君効果かしら。
「大崎……俊君♡ はぁ……って、私は何を!」
顔がカーっと熱くなるのを感じた。
「あああぁ! 明日からどんな顔して会えばいいのよ! これじゃバレバレだわ! そ、そうね、あえてビシビシと足で躾けて……って、それじゃ嫌われちゃうわ。ま、まって、ご褒美とか言ってたわよね? これで正解なのかしら」
自分で自分が分からなくなる。踏んで躾けたいというゾクゾクする欲求と、普通の恋人同士みたいにイチャイチャしたい願望が、私の中で混在しているなんて。
「きゃあああぁ♡ 恥ずかしくて顔を合わせられないわ! お、落ち着きましょう! このリビドーを執筆に向けるのよ!」
私はパソコンを開き、執筆ソフトを立ち上げる。
カタカタカタカタカタカタカタカタ!
「凄いわ! こんなに筆が乗るなんて! これも俊君……お、大崎君のおかげね!」
湧き上がる想いを指先に込めてキーボードを叩く。リズミカルに踊るように。
私の想いは飛び立つわ。
異世界へと、はたまたラブコメの世界へと。
そう、これは私の物語。初めて恋を知った孤高の女王、万里小路瑛理子の物語。
呪いにも似た想いに身を焦がし、共に修羅の道を進まんとする私と彼との。
これで第一章完結になります。次回から第二章に入ります。
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