第23話 幼い頃からずっと運命的な
真美さんの威圧感が急上昇した。ヤンデレのようなハイライトの消えた目をして。
俺を真っ直ぐ見据えた真美さんが、スッと静かに立ち上がった。
「俊くん……万里小路さんの手料理を食べたんだ?」
「た、食べてません! 俺が作りました」
「えっ! 俊くんが手料理を食べさせたんだ? それって極刑だよね?」
逆効果ぁああ!
俺が食べさせた方がダメだったのか!?
てか、何で俺は真美さんと食事をしている時に、別の女子の話をしてしまったんだ。しかも真美さんと仲が悪い瑛理子先輩の話を。
ダメダメすぎだろ。
「俊くん……」
真美さんは俺の隣の椅子に座る。
「俊くんと万里小路さんって、どこまで進んでるのかな?」
「どこまでって……」
「キスしちゃったの?」
真美さんの目がマジだ。次に対応を間違えたらあの世行きかもしれない。
「し、してないです……」
「ホント? でも、部屋に上がったよね?」
「部屋に上がって、料理を作って、あと腕を組んだりとか……」
「料理を食べさせるのは懲役3年、執行猶予5年。腕を組むのは懲役20年。部屋に入るのは無期懲役。刑罰加算で極刑ね♡」
「厳罰過ぎる!」
真美さんの法律、通称真美法(今命名)は、めちゃくちゃ厳しかった。凛の姉法より厳しいかもしれない。
くっ、あんなに傍若無人で無茶苦茶な凛より厳しいだなんて。
凛って実は優しかったのか?
その真美さんだが、箸を片手に迫ってくる。
「悪い子の俊くんにお仕置きしないと♡」
「真美さん、その箸は何に使うのでしょうか?」
「えへへ♡」
「ううぅ……うぐっ」
ヤンデレ目で迫る真美さんに、俺は何も抵抗できず目をつむるだけ。何をされるのかと身構えていたが、口の中に出汁と醤油の味が広がり目を開けた。
「あれっ、美味しい」
「はい、もっと食べてね♡ あーん♡」
極刑かと思っていたら、まさかの『あーん』だった。
真美さんは箸で肉じゃがを掴むと、俺の口に持ってくる。
「はい、お仕置きは私に『あーん』で食べさせられるです♡」
「び、びっくりした」
いつもの優しい真美さんだ。
一瞬だけドS女王の片鱗を覗かせたように見えたけど。
「真美さん、驚かせないでよ。怒ったのかと思っちゃった」
「もうっ、俊くんったら♡ 私が俊くんに酷いことする訳ないでしょ」
「で、ですよね」
やっぱり真美さんは優しくて可愛い俺の理想のお姉さんだ。
でも『あーん』は恥ずかしい。
「あの、真美さん」
「何かな?」
「あーんで食べさせられるのは恥ずかしいのですが」
「だーめ♡ 私と一緒の時は全部『あーん』だよ♡」
今度はピーマンの肉詰め、次はポテトサラダだ。次々に『あーん』を受け続けていると、もうこのまま真美さんに甘えてしまいたくなる。
「真美さん……」
「うふふっ♡ これからはずーっと私が食べさせてあげるね♡」
ずーっととか言ってるけど、たぶん今日だけだよな。
今は素直に甘えておこう。
「ほら、あーん♡」
「あーん。もぐもぐ」
それからずっと『あーん』が続いた。まるで新婚さんみたいな甘々プレイが。
これってもう付き合ってるみたいだよな。
◆ ◇ ◆
「じゃあ、ちょっとここで待っててね♡」
そう言って真美さんは部屋を出てゆく。
食事が終わった俺は、真美さんの部屋に通されていた。女の子らしいインテリアの部屋だ。
小さい頃に入ったはずなのに、あの頃とは違った感覚がある。
「真美さん……あんなに甘々なプレイを。もしかして瑛理子先輩に妬いてるのかな? そ、そんなはずないよな」
軽く深呼吸をすると、良い匂いが胸いっぱいに広がる。
「真美さんの匂いが……って、変態か! いかんいかん、変なところを見せたら真美さんに嫌われちゃうぞ」
そう思っているはずなのに、どうしてもベッドやクローゼットが気になってしまう。
「このベッドで真美さんが毎晩……。あのクローゼットの中には真美さんの下着が……」
いけないと思えば思うほど見たくなってしまう。
「ちょっとだけ……」
クローゼットの引き出しに手を掛ける。少しだけ引けば、真美さんの肌に密着しているブラやパンツを手に取れるはず。
「ゴクリッ! 真美さんのGカップ(推定)のブラと、あのムッチリしたお尻を包むパンツが……」
ガチャ!
「おまたせ俊くん♡」
「うわぁああっ!」
引き出しを数センチ開けたところでドアが開く。アップルパイの皿を持った真美さんが顔を覗かせた。
「どうしたの、俊くん?」
「な、ななな、何でもありません」
「あれっ、引き出しが開いてたのかな?」
真美さんは俺が開けた引き出しに視線をやる。
「ここは下着が入ってるの。恥ずかしいから見ちゃダメだぞ♡」
意味深な顔で真美さんが言う。
バレてない……はずだよな。
「そ、そうなんですね。ははは……」
「どうしても見たいのなら……着てるのを見せてあげるけどぉ♡」
「えっ?」
「な、何でもないよ♡」
何か凄いことを聞いた気がするけど、これ以上はツッコんじゃいけない気がする。
ふと横を向くと、机の上にある写真立てに目が留まった。
「あっ、これ小さい頃のですよね」
それは俺が幼い頃の写真だった。
小学生低学年くらいの俺と、得意げな顔で胸を張る凛、そして優しい笑顔の真美さんが一緒に写っている。
凛と真美さんに挟まれている小さな俺が、何とも気恥ずかしい感じで。
「小さい頃の俊くん可愛かったなぁ♡」
遠い目をした真美さんがつぶやく。
「そんな、小さい頃の俺なんてダサかったですから」
小学生の頃から根暗になった俺は、非モテ路線まっしぐらだった。
中学の頃なんて髪もボサボサで、いかにもコミュ障で非リア充といったイメージだからな。
「そんなことないよ」
真美さんは写真立てを手に取る。
「俊くんはカッコよかったよ♡ あの頃の私ね、男子にイジメられてたの。大人しくて言い返せなかったからなのかな」
「えっ?」
俺は息を呑んだ。
「そんなある日ね、私が男子にイジメられているところに、俊くんが駆け付けてくれたの。お姉ちゃんをイジメるなって。あの時は嬉しかったなぁ♡」
夢見心地の真美さんを見た俺は自問自答する。そんな大層なことをしただろうかと。
あの頃の俺は、真美さんが大好きだったんだよな。だから真美さんにちょっかいを掛けてくる男子を嫌っていて。
あの男子どもも、きっと真美さんが好きだったんだよな。好きな子にイジワルするクソガキみたいな。
「大したことはしてないですよ」
「ううん、違うよ♡ 俊くんは私の運命なの♡」
ん? えっ? 何か凄いことを言われた気がするけど? 気のせいなのか?
「ほら、食後のスイーツを食べよっ♡ 甘いものは別腹だよね♡」
真美さんに促されてベッドに腰かける。
「あの、真美さんのベッドに座るなんて……ん?」
手を突いた時に、布団の中にあった布状の物を触ってしまった。
「これは……Tシャツ?」
「きゃっ! だ、だだだ、ダメぇええっ!」
圧し掛かってきた真美さんに、掴んでいたTシャツを奪われてしまった。
「今のは?」
「な、何でもないよ。はうぅ♡」
真美さんはTシャツを背中に隠してしまった。
何となく俺が部屋着にしていたTシャツに似ている気がする。
まあ、それはないか。俺のTシャツが真美さんの部屋にある訳ないし。
「ほら、食べよ♡ あーん♡」
アップルパイを手に取った真美さんが、俺の膝の上に迫ってきた。
「ちょ、近い、近いです。真美さん」
「私の下着やTシャツを漁る悪い子の俊くんにはお仕置きです♡」
バレてる! クローゼットを漁ろうとしたのがバレてる!
「違うんです! あれは出来心で」
「うふふぅ♡ 俊くんのエッチぃ♡」
「あーっ、すみません……んっ、もぐもぐ……美味しい」
真美さんのアップルパイは最高に美味しかった。甘酸っぱいリンゴとサクサクのパイ生地が絶妙のハーモニーだ。
何となく真美さんの味がする気がする。
「これ美味しいですね。さすが真美さん。ケーキ屋を出せそうですよ」
「うふふっ♡ 褒め過ぎだよぉ♡ このこのぉ♡」
上機嫌の真美さんが、何やらブツブツつぶやいている。
「ああぁ♡ 俊くんが私のパイを食べてるぅ♡ 私の腋で捏ねて汗とエッチなエキスを注入した特性パイをぉ♡ はぁ♡ はぁ♡ ダメぇ♡ もっと食べてぇ♡ 私の全てを食べてぇ♡ もう私と俊くんは一心同体だよね♡ ぶつぶつぶつ――」
真美さんが自分の世界に行ってしまった。小声で何かつぶやいているけど、詳しい話は分からない。
たぶんアップルパイのレシピかな?
「もぐもぐ……ホントに美味しいです」
「もっと食べてね♡ はい、あーん♡」
「あーん……美味しい」
「んふふ♡ んふふふっ♡ 俊くんが……私の腋パイを♡」
腋パイと聞こえたけど気のせいかな?
まあ、さっき見たキャミソール姿の腋と横乳は最高だったけど。腋パイ最高!
「本当に美味いな。これはまた食べたいかも」
「良かったぁ♡ また作ってあげるね♡」
「はい」
真美さんのパイは本当に美味しかった。中毒性がありそうなくらい虜になる。
いくらでも食べられそうだ。
やっぱり真美さんの味がするような? フェロモンでも入ってるのかな?
よし、真美さんのパイだから『真美パイ』と名付けよう! 決して『真美パイGカップ(推定)』じゃないからな。
真美パイ……腋パイ……?
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