第22話 選択肢を間違えた?
食事会当日の夕方、俺は真美さんの家の前に立ち、インターホンを押そうとしていた。
今から真美さんと夕食を共にするのだ。しかも二人っきりで。
「き、急に緊張してきた。大丈夫だ、食事をしただけでは妊娠しないはず」
自分でもバカなことを言っていると思うのだが、男は好きな人の話になると変な言動になるものだ。
いくら俺でも食事しただけで妊娠するとは思ってないぞ。そういう雰囲気になったらどうしようという意味だ。
まあ、真美さんに限ってエッチなことなんかしないだろうけど。
「ふうっ……よし、押すぞ」
深呼吸してからインターホンに向け腕を伸ばす。
あと数ミリでチャイムが鳴ろうとした瞬間、突然ドアが開いた。
ガチャ!
「俊くん♡ いらっしゃい」
「うわぁ!」
凄いタイミングで真美さんが現れ、俺は心臓が止まるのではと思うくらい驚いた。
「ままま、真美さん! 驚かせないでよ」
「ごめんごめん♡ そろそろ来る頃かなって思って」
はにかんだ真美さんは、顔の横で手を合わせる。
それにしてもピッタリだったな。まるで俺の位置が分かってるみたいに。
「ビックリしましたよ。俺の居場所を把握してるんですか?」
「うふふっ♡ 俊くんの居場所なら何処でも分かっちゃうのです♡ 乙女の勘でね♡」
真美さんには嘘が通用しなそうだ。結婚したら浮気が一発でバレそう。
結婚とか想像して顔が熱くなる。
「ほらほら、早く入って♡」
天使の笑顔になった真美さんが手招きする。
あれっ、天国かな?
「ではお邪魔します……うわぁああっ!」
ドアを開け一歩入ったところで気づいた。
真美さんの服装が刺激的なことに。
「どうしたの、俊くん?」
「ちょ、それっ、ええっ!」
目のやり場に困った俺は、とっさに目を逸らした。下駄箱の上に置かれた木彫りの熊に。
上はキャミソールというやつだろうか。肩も腋も大胆に見えまくっている。一瞬だけ見ちゃったけど、Gカップ(推定)の谷間まで。
下はピチピチのショートパンツだ。そこから覗く白くてきめ細やかな艶肌を、バッチリ目に焼き付けてしまった。
「どうしたの、俊くん?」
真美さんが話しかけているけど、あまりにもエッチな格好で、まともに顔を見られない。
俺は木彫りの熊に話しかける。
「あの、今日の真美さんって、いつもと違いますね」
「そうかな?」
振り向くと、真美さんは体を捻り自分の姿を確かめていた。
「どこか変かな?」
「へ、変じゃないです。ちょっと露出が多いというか……」
「あっ、これ部屋着なの。どうかな?」
そう言って真美さんはポーズを決める。
腕を上げ、腋を大胆に見せつける仕草で。
「ああぁ、それは反則すぎる」
「んふっ♡ どうしたのかな? 腋が気になるの?」
「ぐはぁ!」
女子の腋が気にならない男子なんていません!
あああ、憧れの真美さんが腋を……。そんなの見ちゃったら眠れないぞ。
でも、他の男に見せたくない……。
俺の表情で何かを察したのか、真美さんは腕を降ろした。
「大丈夫だよ。外では着ないから」
「な、なら安心ですね」
って、そうじゃないよ!
自分で自分の発言にツッコミを入れてしまった。
確かに外で着て他の男たちに見られたら嫌だけど。
そうじゃなくて!
二人っきりなのにエッチな格好されたら困るんだよ!
ただでさえ真美さんのGカップ(推定)をチラ見しちゃうのに、そんなに強調されたら我慢できないだろ。
しかも腋まで!
「ほらほら♡ 上がって上がって」
「ま、真美さん、近いっ」
俺の背中をポンポンと押す真美さん。少しだけ柔らかな膨らみまで当たっているような。
きっと気のせいだ。気のせいということにしよう。
「ワンワンワン」
ポメオがとてとてと駆け寄ってきた。
真美さんが散歩させているのを何度か見ただけなので、こうして近くで触れ合うのは初めてだ。
「ほらポメオ、お手」
「ワフ」
しっぽを見せて真美さんの方に行ってしまった。伸ばした手のやり場に困る。
「うふふ♡ ポメオったら」
「あはは」
真美さんに手を引かれて入ったダイニングには、すでに料理が並べられていた。
ポテトサラダにピーマンの肉詰め、そして鍋の中から漂う醤油とみりんの香りは肉じゃがかな。
どれも手の込んだ料理ばかりだ。
「うわぁ、美味しそうですね」
「うふふっ♡ ちょっと待ってね、今ご飯をよそうから」
シュルッ!
真美さんは、椅子に掛けてあったエプロンを取る。
エプロン姿の真美さんは、更に刺激的だった。キャミとショーパンの上からだと、まるで裸エプロンに見えるのだが。
「ああぁ、もう限界だ……」
「どうしたのかな? 俊くん顔が真っ赤だよ」
「だ、だからその格好が……」
「これ? んふふ♡ 何か新妻みたいだよね♡」
どっきーん!
新妻という言葉で俺の胸が跳ねる。
もうこれ新婚さん生活みたいじゃないか。
「しゅーんくん♡」
裸エプロンみたいな格好で迫る真美さん。もちろん服は着ているのだが、エプロンに隠れて見えないのだ。
「ああーっ! ダメですよ、真美さん!」
とうに限界を超えていた俺は、自分のパーカーを脱いで真美さんに渡した。
「真美さん!」
「は、はい?」
「これ着ててください!」
「ふぇ」
面食らったような顔の真美さんが、モジモジと脚を動かす。
「真美さん、いくら他に男がいないからって無防備すぎです。俺だって男なんです。真美さんは可愛いから、そんな露出の多い格好をしていたら危険ですよ。気をつけてください」
しまった。俺が説教してしまったから、真美さんがあたふたしている。
俺は年上のお姉さんに何をやってるんだ。
「か、かか、可愛っ、かわいいって言ったぁ♡」
「あっ、つい本音が」
「も、もうっ♡ 俊くんったら♡ 上手いんだから。年上のお姉さんをからかっちゃダメだぞ」
真っ赤な顔になった真美さんは、指を立ててお姉さんぶる。
何だか懐かしい。昔はこうやって『お姉さんに任せなさい』ってやってたな。
「うんしょ♡」
一度エプロンを外した真美さんが、俺のパーカーを羽織った。
自分の服を着させるとかエッチなのだが。
「んっ♡ すーはー♡ 俊くんの匂いがする♡」
真美さんが俺のパーカーに顔を埋めている。
「ちょ、ちょっと! 真美さん?」
「くんくん♡ くんかくんか♡ ふぁ♡ 汗くっさぁ♡」
「ちょっと真美さん、嗅がないで! すす、すみません、汗臭くて!」
「臭くないよ♡ 俊くんのなら大歓迎だよ♡」
恥ずかしい。何で俺は自分の服を貸しちゃったんだ。しかも毎日着ている未洗濯のやつを。
つい、ラブコメでよくあるやつを真似てしまった。
「って、前よりエロい……」
パーカー姿の真美さんが、余計にエロくなっている。
何故かファスナーが下乳のところで止めて胸が飛び出してるのだが!
しかも、下はショーパンが隠れちゃって、何も穿いてないみたいなのだが!
ノーパンみたいなのだが!?
「すびません……鼻血が出そう……」
俺は知った。人は興奮すると、本当に鼻血が出そうになるのだと。
漫画の表現だけじゃなかったんだ。
「うふふっ♡ 俊くんったら♡」
「ホントすみません。すぐ落ち着きますから」
「しょうがない俊くんだな♡ くんくん♡ 肉じゃがもよそうね。すーはー♡」
慣れた手つきで真美さんが料理をよそっている。普段から料理をやっているのかな。
ただ、ちょっと息が荒い気がするけど。
ご飯と肉じゃがな並んだところで食事になった。
向かい合って座った真美さんが手を広げる。
「はい、召し上がれ♡」
「いただきます」
先ずは肉じゃがを食べてみた。
出汁の利いた甘じょっぱい味が、ジャガイモに染みていてめちゃくちゃ美味しい。中までホクホクだ。
「美味しい! これ、めっちゃ美味しいです! 一口でご飯三杯はイケそうです」
「良かった。お気に召したようで」
俺の食べっぷりを見て、真美さんも満足げだ。
「真美さんって、料理が得意だったんですね。凄いな、真美さんって何でもできちゃう」
「うふふ♡ 褒め過ぎだよぉ♡」
「おっ、この肉詰めも美味しい! ポテサラもクリーミーで最高だ!」
「えへへぇ♡」
真美さんの料理は本当に美味しかった。お店で出せるレベルだぞ。
「こんな美味しい料理を食べられるなんて、真美さんと結婚する人は幸せ者ですよね」
って、ヤバっ! つい口が滑った!
真美さんが茹ダコみたいに真っ赤になってるじゃないか!
「えっと、あの……」
「も、もうっ♡ 俊くんのバカっ♡」
「あはは……」
「誰と結婚するのかな? ねえねえ♡ 俊くんはぁ、誰と結婚したいのかな?」
真美さんがテーブルに身を乗り出してきた。
「えっと、それは……」
言えない! 真美さんと結婚したいなんて!
ああぁ、真美さんが眩しすぎて直視できないぞ!
「ほらほらぁ♡ 俊くんはぁ、誰に料理を作ってほしいのかな?」
「ううっ、もう勘弁してください」
「えへへぇ♡ 俊くん可愛い♡」
うぎゃああっ! もうドキドキし過ぎて心臓が飛び出しそうだ!
今日の真美さん、ちょっと積極的なのだが!
ダメだ、これ以上は俺のハートが持たない。話題を変えないと。
「そ、そういえば……料理で思い出しました。瑛理子先輩って、完璧超人みたいな見た目で料理がド下手なんですよ。ホットケーキが爆発しそう……って、あれっ?」
ピキピキッ!
いきなり俺は間違えた。
俺の不用意な発言で、真美さんの威圧感が急上昇したのだが!




