第18話 俊くんって、たまにお仕置きしたくなるよね
俺は咄嗟に、瑛理子先輩と組んでいた腕を離した。
やましいことは何もないはずなのに。
「俊くん……」
ただ真美さんにはバッチリ見られていたようだ。真美さんの目が俺と瑛理子先輩の腕を凝視している。
「あ、あのですね、これは何でもなくて……」
俺は必死に弁解しようとするが、頭が混乱して言葉が出てこない。
瑛理子先輩とは何もないはずなんだ。
でも、真美さんの前だと後ろめたい気持ちになってしまう。
「俊くん、やっぱり万里小路さんと仲が良いんだね」
真美さんは寂しそうな顔でそうつぶやいた。
「えっと、これは、違うんです。その……」
「彼には助けてもらったのよ。しつこい男性に絡まれていたところをね」
瑛理子先輩が助け舟を出してくれた。やっぱり天使かな? 悪魔とか思っててごめんなさい。
話を聞いた真美さんは、ほっと胸をなでおろす。
「なぁんだ、ビックリしたぁ。二人が付き合ってるのかと思っちゃったよ」
「付き合ってなんかいないですよ、真美さん」
「そうよね。俊くんフリーって言ったもんね。童貞だよね♡」
どどど、童貞って言うなぁああ!
って、真美さん? 今、真美さんの口から童貞ってワードが出たような?
もしかして道程かな?
「事情は分かったけど……」
真美さんはグイッと一歩を踏み出し、瑛理子先輩と対峙する。
あれっ、前にも同じシーンを見たような?
「万里小路さんって、俊くんと距離近すぎないかな?」
「べつに普通よ。ハグしたり腕を組んだりするくらいだわ」
ちょっと瑛理子先輩! 何で張り合ってるの!?
「へ、へぇ……ハグしてるんだ……」
「そうよ」
「ふぅん、万里小路さんって悪い子なんだぁ。後輩男子を部屋に連れ込んだり、色仕掛けで落とそうとしたり」
ああ、また二人が険悪な感じに!
一体何が原因なんだ!
丸木戸学園の双璧をなす二大美女を対立させるなんて。原因となった奴をぶん殴りたい!
「私が何をしようが私の自由だわ。誰にも強制される謂れはないわね」
「そうだけど、俊くんは私の幼馴染なんだよ」
「結婚していない限りは、誰と関係を持とうが民法上の不法行為にはあたらないわ」
「民法上の不法行為になならなくても、姉法上の極刑行為になるんですぅ」
「そんな法律は存在しないわね。独裁かしら?」
ちょ、ちょっと待て! 二人がエスカレートしているぞ!
てか、姉法って何だ? うちのドS姉ちゃんじゃあるまいし。
「ま、待ってください! 喧嘩はダメですよ!」
俺は二人の間に入った。
真美さんのGカップ(推定)と瑛理子先輩の美乳が近くて目のやり場に困る。
「何が原因か知らないけど落ち着きましょう」
「大崎君、あなたバカなのかしら?」
「俊くんって、たまにお仕置きしたくなるよね」
何故か二人のジト目が俺に向けられた。
何でだぁああ!
「まあ良いわ。私はこれで失礼するわね」
やれやれといった感じに肩をすくめた瑛理子先輩は、俺の方を向く。
「大崎君、また部室でね」
ポンッ!
パシッ!
瑛理子先輩が俺の肩に手を置く。
それをすかさず真美さんが払った。
「万里小路さんって、ボディータッチが多すぎだよ。エッチだよね」
「そうかしら? 望月さんの方がエッチだわ。男を狙う女豹の目をしているわよ」
「そんなことないよぉ。狙ってるのは一人だけだし」
「ふふふっ」
「えへへっ」
最後に笑いあってから、瑛理子先輩は帰っていった。
まるで格闘技漫画の強キャラみたいに。
「はぁ~っ、無事に収まって良かった」
女子が対立するのは冷や冷やするよ。
「そういえば真美さん、よく俺の場所が分かりましたね」
「偶然だよ。たまたま歩いていたらね、前から俊くんが歩いてきたから」
偶然ならしょうがないな。
それにしても凄い偶然が重なるな。もしかして運命とか?
「それより俊くん、急用はもう良いの?」
ギクッ!
しまった。用事があるって言って、真美さんを置いてけぼりにしたんだった。
「えっと、はい、実は用事は別の日でした」
「そうなんだ。ならまだ一緒にいられるね♡」
「はい」
何とか誤魔化せたかな。
「それで、万里小路さんとはいつもハグしてるの?」
ギクギクッ!
しまった、まだ話は終わっていなかった!
「あれはですね、男性に絡まれていたから、成り行きで彼氏役を……」
「そうなんだ。特別な意味じゃないんだね」
「はい」
今度こそ大丈夫かな?
「えっとね♡ それでね♡ わ、私もハグ……ごにょごにょ」
「どうかしましたか、真美さん?」
真美さんが挙動不審だ。体をクネクネさせ悶えている。
「だ、だからね、だ、だだ、抱っこ……はぅ♡」
「えっ? ラッコ?」
ドスッ!
「ぐえっ!」
ええっ!? 今、真美さんにエルボー入れられたような?
「あっ、ごめんね。肘が入っちゃった」
「大丈夫ですよ。痛くないので」
「ホントにごめんね。ナデナデで癒さないとだよね。すぐにホテル行こ」
「えっ、スワローテイルがどうかしましたか?」
ドスッ!
「ぐえっ!」
えええっ! またエルボー入れられたんだけど?
「俊くん? それわざとやってるのかな? 悪い俊くんはお仕置きしちゃうぞ」
「ひぃいいいいっ」
ゾクゾクゾクッ!
腰の奥がゾクゾクと震えた。
一瞬だけ、真美さんがドSっぽく見えたんだけど。
もしかして真美さんも……?
「じょ、冗談だよ♡ 私が俊くんに痛いことするわけないでしょ♡」
「そ、そうですよね」
だよね。真美さんは優しいもんね。
「でもでもぉ♡ 俊くんが痛いの好きならぁ♡ お姉ちゃん頑張っちゃうけど♡」
「真美さぁああぁん!」
マズい、真美さんが誰かの悪い影響を受けている。きっと凛のせいだろ。あのアホ姉めぇ!
「嘘だよ♡ 冗談冗談♡」
ドSっぽくなった真美さんだけど、すぐに元の優しい雰囲気に戻った。
「もう、ビックリしたじゃないですか。冗談キツイですって」
「ごめんごめん♡ 俊くんが驚いてるのが可愛くって」
「もうっ、真美さんったら」
もういつも通りだ。いや、いつもより甘々な感じがする。
俺の胸元に入ってきて距離も近いし。
「真美さん、そんなに近づくと……あっ」
ギュッ!
しまった。まだ抱きしめてしまった。
わざとじゃないんだ!
真美さんのGカップが近くて危険だったから、肩を持って止めようとしただけなんだ!
「おっ♡ おっ♡ おおぉ♡」
また真美さんの様子がおかしい。
肩を小刻みに震わせて体をひくつかせている。
「あ、あの、真美さん?」
「んっほぉおおおおおおおおぉ~ん♡」
また真美さんが気絶した。
疲れているのかな?
◆ ◇ ◆
帰宅した俺は、すぐに部屋に向かいノートパソコンを開いた。
今日一日で色々あって、創作のアイデアが浮かんできたのだ。
「よし、キャラ設定を追加しよう。ラブコメ要素も入れたいよな」
ヒロインは二人だ。黒髪ロングの魔法使いエリーゼと、天使の笑顔で敵を瞬殺する女剣士マリー。
エリーゼは暗黒魔法を使う怖い女だけど、たまに見せる笑顔が可愛くて守ってあげたくなる。
マリーは主人公に優しく献身的で、でも敵には容赦しないっと。
敵キャラも追加しよう。
領主の息子オーウェン。金の力を使い、ゆく先々で主人公を邪魔するっと。
「やった、これでプロットは完成かな。第一話を書いてみよう」
思ったより筆が乗っている。まるであの頃のように。
中学の時の情熱を取り戻したようだ。
これも瑛理子先輩のおかげかな。
あの人の暴走するような情熱に、俺まで影響されたようだ。
カタカタカタ!
一息つこうとしたその時、ドアの向こうが騒がしくなる。
きっといつものアレだ。
ガチャ!
「お祭りの定番お菓子といえば、正解はち○ち○焼き! ピンポンピンポン!」
ドアを開けて入ってきたのは、いつものように卑猥なワードを口にしながらふざけている姉、凛である。
「姉ちゃん、そのチ○○への異常な執着は何なんだよ? もう学校の皆に教えてやりたいぜ。家の姉はチ○○大好きだって」
俺の返しにも動じない凛は、ズカズカと俺のところにまで来て胸を張る。
「ち○ち○焼きは日本中で愛される名菓でしょ! ち○ちこち○やぞ!」
「普通にベビーカステラで良いような?」
「それじゃ面白くなぁい! うら若き乙女が話すのに、少しの羞恥と背徳感があるのが良いんでしょ!」
言われてみれば……。
このアホ姉、実は天才か!?
「ところでデートはどうなったのさ?」
何だ、それを聞きに来たのか。
「べつに、喫茶店に行って、良い感じになって……。あっ、偶然抱きしめちゃって、そうしたら真美さんが気絶した」
「は!?」
「あと瑛理子先輩と偶然会って、真美さんと険悪な雰囲気に」
「はぁああああぁ!?」
何故か凛が頭を抱えている。
どうしたんだ?




