第13話 先輩が近すぎて意識しちゃう
次の日の放課後、俺は瑛理子先輩に借りたノートパソコンを抱え、文芸部の部室前に立っていた。
「昨日の今日で緊張するんだよな……」
まさか先輩女子の部屋にお邪魔したばかりか、一緒にホットケーキとコーヒーを飲みながら語らってしまうなんて。
しかも隣に座り肩を寄せ合い……。
「ああぁ、めっちゃ良い匂いがした」
「何が良い匂いなのかしら?」
「うわぁああああ!」
突然、後ろから声をかけられ飛び上がる。
「って、瑛理子先輩じゃないですか? 何で後ろから」
「お、お花を摘みに行っていたのよ」
「お花? ああ、トイレですか」
「それは言わなくていいのよ」
先輩は俺を追い越し部室に入ってゆく。
すれ違い際に黒髪がフワッとなびき、バラのような何とも言えない良い匂いかした。
「やっぱり凄く良い匂い……」
部室奥のテーブルまで歩いた先輩は振り返る。
「さっきから何のこと?」
「えっと、その、先輩が」
「私? 特に何もつけていないわよ」
香水とかじゃないのか。シャンプーの香りかな?
それとも瑛理子先輩には、男を惑わすフェロモンでも出ているのだろうか。
「さすが容姿端麗、完全無欠の女王、私立丸木戸学園一の美少女。料理はド下手糞だけど」
「あなた、褒めてるのか喧嘩を売ってるのか、どっちかしら?」
「もちろん褒めてます」
冗談はこれくらいにして、俺も椅子に座りパソコンを開いた。
ドアの前では緊張していたけど、先輩と話すと冗談が言い合える。楽しい。
「瑛理子先輩、昨日少しだけ書いてみたんですよ」
俺がパソコンの画面を向けると、先輩は立ち上がって近づいてきた。
「さっそく使っているのね。良いわね。キャラ設定とあらすじが……異世界ファンタジーかしら」
先輩がパソコンを覗き込む。必然的に距離が近いのだが。もう綺麗な黒髪が顔にかかるくらいに。
「ち、近いですって」
「えっ?」
「そんなにくっつかれると意識しちゃいます。俺だって男なんですから」
顔が熱い。俺がこんなに意識しているのに、先輩はキョトンとした顔をしている。
「瑛理子先輩って、クラスの男子にもそうなんですか? 心配になるんですけど」
「何を言っているのかしら? 私が男子に近づくはずないでしょ」
キッパリと言ってのける瑛理子先輩。
「でも、小説や執筆の話になったら周りが見えなくなりそうですよ」
「小説の話をするのは大崎君だけよ」
それって、俺だけ特別って意味かな?
「心配しなくても私が不特定多数の男子に近づくはずないじゃない」
「そうなんですか」
「でも不思議ね」
そう言って先輩は俺の肩に手を置く。
「私、男子とは距離をとっているのだけど、大崎君は大丈夫なのよね」
「先輩は初対面からボディータッチが多かったですよ」
「きっとアレね。一目見た時にビビッと感じる……」
まさか一目惚れ!?
「足を舐めさせたいって思ったのよ」
「ですよねー」
やっぱりそっちか!
この先輩はぁ……たまにドキッとさせられるんだよな。無意識にやってるのだろうか。
ガラガラガラ!
突然、扉が開いて入ってきたのは、背が高く金髪が輝くムチムチ美少女だった。
「やあやあ、遊びにきたぞ」
今日も元気なメアリー先輩だ。
「メアリー先輩、水泳部はサボって大丈夫なんですか?」
「はははっ、問題無い。あたしの○力じゃなかった、実力を舐めるなよ」
凄い自信だな。さすがメアリー先輩だ。
何か下ネタ発言をした気がするけどスルーしておこう。
「もぉ~っ! ホントはあたしに会いたかったんだろぉ♡ 俊~♡」
メアリー先輩がウザ絡みしてきた。全身で抱きつくように。
肉の圧力が凄い。まるで大型犬にじゃれつかれているみたいだ。
「せ、先輩、マズいですって!」
「いいじゃないかよぉ。ちょっとくらい癒させろぉ」
「お、おっぱ、当たる! 当たってる!」
ガシッ!
その時突然、瑛理子先輩がメアリー先輩の腕を掴んだ。
メアリー先輩は含みのある顔をする。
「どうしたんだい、瑛理子?」
「どうしたのかしら……」
そうつぶやいた瑛理子先輩が首をかしげる。
自分で自分の行動が分からないかのように。
「これはアレだね瑛理子」
「何よ」
「妬いてる?」
「妬いてないわ」
妬いてないと言うわりには、そわそわと落ち着かない様子だ。
手を離した瑛理子先輩は、一度離れてからスマホを持って戻ってきた。
「脱いで、黒森さん。体を撮影させてもらえるかしら?」
瑛理子先輩の突拍子もない発言に、俺もメアリー先輩もポカンとする。
「おい俊、瑛理子が変なのだが」
「瑛理子先輩はいつも変です」
「人を変人みたいに言わないでちょうだい!」
全力で変なのを否定する瑛理子先輩。自覚はなかったのか。
「瑛理子先輩、百合に目覚めたんですか?」
「違うわよ。黒森さんの肉体が理想的だから、資料用に撮影したいのよ」
かがんだ瑛理子先輩が、メアリー先輩のスカートを捲った。
「この肉感的な太もも、素晴らしいわ。女王様の描写に役立つわね」
スカートを捲られたメアリー先輩が顔を赤くしている。
「ちょ、ちょっと俊、瑛理子を何とかしてくれないか」
「こうなった瑛理子先輩は止まりませんよ」
「くぅ~っ! 何であたし、同性にパンツ見られてるの」
メアリー先輩、俺には見せつけてきたのに、瑛理子先輩に見られるのは恥ずかしいんだ。
そんなこんなで、部室内でメアリー先輩撮影会が開かれることとなった。
目をギラつかせた瑛理子先輩が、シャッターチャンスを逃すまいとスマホを構えている。
「さあ、黒森さん、脱いでちょうだい」
「さすがに下着姿は恥ずかしいんだけど……」
「何を言っているのかしら? 全部脱ぐに決まってるでしょ」
「鬼畜すぎるよ!」
さすが瑛理子先輩、とことん容赦ない。
でも、俺が居たらマズいよな。
「メアリー先輩、俺は出てましょうか?」
「いや、俊は見ててくれ」
「何でですか!?」
「むしろ俊には見せつけたいんだ」
「変態だよ!」
こうして、メアリー先輩の裸を見たい瑛理子先輩と、俺に裸を見せつけたいメアリー先輩と、見たいけど見ちゃいけない俺との間で折衷案がまとめられた。
間を取って体操着で撮影という内容だが。
「俊、着替えるところを見ていてくれ」
「見ませんよ」
俺は後ろを向く。
ブラウスを脱ぎかけのメアリー先輩が、ジリジリと俺の視界に入ろうとしているが気にしてはいけない。
「どうかな、あたしの体操着姿は? 体育で汗かいたから恥ずいけど」
「俺は気にしませんよ」
「むしろ俊には嗅がせたい!」
「だから何でですか!?」
変態っぽいメアリー先輩はスルーしたいところだが、その肉体からは目が離せない。
伸縮性のある体操着が、メアリー先輩の肉圧でパツパツに張っている。特に胸や尻の部分だけど。
めっっっっちゃエッチなのだが!
「くっ、何だそのエッチな漫画のヒロインみたいなムチムチボディは」
つい本音を漏らしてしまい、メアリー先輩の顔がニマニマと緩む。
「ぬへへっ♡ 俊、エッチな気持ちになったかい?」
「なってません」
「またまたぁ、ホントはエッチしたいくせにぃ」
胸を揺らしながらグイグイ来るメアリー先輩に、俺の我慢と体の一部が限界だ。何か色々とぶっちゃけてしまいそうになる。
この人……瑛理子先輩と違う意味で距離感がバグってるんだよな。
「ほら、大崎君! 邪魔よ!」
瑛理子先輩が俺を押す。八つ当たりみたいに。
「ちょ、瑛理子先輩、危ないですって」
「いつまでも密着していたら撮影できないでしょ!」
「先輩、怒ってます?」
「怒ってないわ。ただ、何故か二人が密着しているとイライラするの」
まさか、嫉妬してる…………無いか。
どうせ犬が取られたって感じかな。
パシャ! パシャパシャ!
カメラマンみたいな体勢になった瑛理子先輩が、メアリー先輩を激写している。
ローアングルから舐めるように。
「良いわ! 理想的な肉体ね! 私の目に狂いはなかったわ!」
傍から見ているとコスプレイヤーを撮影するファンみたいだが、それは言わないでおこう。
「良いわね、一枚脱ぎましょうか?」
「脱がないよ!」
脱がそうとする瑛理子先輩に、メアリー先輩は必死に抵抗している。
やっぱり瑛理子先輩は、創作のことになると周りが見えなくなるみたいだ。
何となく瑛理子先輩と仲良くなった気がする今日この頃。そんな俺が、とんでもない関係になるなんて、この時は知る由もなかった。




