無双命令
次回節目の100回目で、その前振り回です。
「よく来てくれた、余の千呪公よ」
王宮の謁見の間、おれは久しぶりに国王にココに呼び出された。
「お久しぶりです、王様」
「うむうむ、余の千呪公よ、変わりはなかったか? なにか生活に不便はないか? そうじゃ、これから寒くなる、王宮が所蔵している暖石半分ほどわけてやろう」
「陛下、王宮が所蔵している量の半分ですと、公爵様のお屋敷がまるまる埋まってしまいます」
横にいる大臣がツッコミを入れて、国王の暴走を止めてくれた。
相変わらず良いコンビだ、と思いつつ話を進める。
「ありがとう王様。ちょっとだけもらって良いかな。みんなと使ってみて、良かったらまたもらいに来るね」
「そうかそうか。うんむ、いつでも待ってるぞ」
「陛下、そろそろ……」
横から大臣が国王をせっついた。
いつも通り目尻下がりっぱなしの国王と違って、大臣はちょっと……いやかなりの真顔だ。
何を頼まれるんだろう、おれは気を引き締めた。
「さて、余の千呪公よ。卿を呼び出したのは他でもない、是非ともやって欲しい事があるのだ」
「うん、王様の頼みなら。何をすればいいの?」
「討伐じゃ」
「討伐?」
「そうだ。ゲルニカの事を覚えているか」
「うん、もちろん」
ベロニカの出身だ、忘れる訳がない。
小国ゲルニカ。財政難を原因に、ちょっと前に王国に臣従してきた国だ。
臣従してきた直後、その財政を立て直すため、国王はおれを派遣した。
いろいろあって、おれは地上じゃなくて海にも鉱脈が埋まってるという当たり前の事を思い出して、魔法で100トンもの金を採掘して、ゲルニカにおいてきた。
ちなみに金の値段はこの世界でも同じくらいのもので、帰った後に思い出して計算してみたら、四兆から五兆円くらいの価値があることが分かった。
それはまあ、余談。
おれにとって一番重要なのはそこでベロニカと出会ったこと。
おれの大事な大事な、可愛い嫁のベロニカ。
彼女と出会って、連れ戻ったのがあのゲルニカで一番の収穫だ。
金の採掘なんて、彼女と海底の散歩デートの副産物でしかない。
「そのゲルニカがどうしたの?」
「先日ゲルニカ領内にあるミ・アミールという街に賊が現われた、ゲルニカ王は2000の兵を差し向けて、これを鎮圧したのだ」
「2000人も? そんなにすごい賊だったの? ……ってちょっと待って、違うよねそれ」
「うむ、流石余の千呪公、よくぞ気づいた。そう。ゲルニカは我が属国、臣従してきたときに兵権は全て剥奪しておる。余の許しがない限り兵を持つことは許されぬ、ましてや動かすなど言語道断」
「もちろん、許しはないよね」
あったらこんな話をしてない。
国王は頷いた。
「うむ。すべて独断だ」
「なるほど」
「しかも賊の討伐後、そのままミ・アミールに駐在していると聞く」
「……それもまずいよね」
「実質反乱でございます」
大臣が横から口をだした。
だよな。兵権がないくせに兵を集めて動かして、その上街を「占拠」してるんだ。
大臣の言うとおり、実質反乱だぞ、それ。
「というわけで余の千呪公よ。ミ・アミールに出向いてゲルニカ兵を殲滅してくれまいか」
国王はおれをそこで言葉を切って、おれを見つめた。
いつになく、真面目な顔で。
「単身で赴き、余の千呪公の力を見せつけてやるのだ」
ものすごい無茶ぶりをされた。
1人で2000人の兵に無双してこいって命令された。
普通に考えたらあり得ない命令、死んでこい、って言われた方がマシだけど。
おれの場合、そして国王の場合。
無茶ぶりでも死んで来いでもない、言葉通り、おれという人間を自慢したくて、あえて一人で行って来いという命令だ。
「うん、わかった」
だからおれは頷いた。国王の言うとおり一人で行くことを承諾した。
さて、2000人か。
どういう魔法がいいかな? と、おれははやくも頭の中で魔法の検索をはじめたのだった。




