千呪公、国王代理になる
国王に呼び出されて、謁見の間にやってきた。
「おお、来たか余の千呪公よ」
おれを見た国王はいつも通りテンションが上がった――かと思いきや。
「おおおおお、余の千呪公よ、行かないでおくれー」
なんといきなり泣き出した。
……え? 泣き出した? ちょっとちょっと、いきなりなんなんだこれは?
玉座に座ってて直前まで威厳たっぷりだった国王がいきなりめそめそし出した。
これがデレデレだったらいつものことだから慣れてるけど、泣かれるのは初めてだ。
「陛下、どうかお気をしっかり持って」
横にいる大臣が国王を宥めた。
「卿は余の千呪公が離れてもいいというのか」
「しかし公爵様でなければどうにもならないのも確か」
「それは分かっておる! 余の千呪公を舐めるでないわ」
国王が逆ギレした。
……なんなんだ、一体。
「王様、ぼくにもわかる様に説明してほしいな」
「ううう……」
「わたくしから説明いたしましょう」
国王が使い物にならないと判断したのか、大臣が代わりに切り出した。
表情が若干呆れ気味だ。
「先だって、南方の小国ゲルニカが王国に臣従を申し出ました」
「しんじゅー?」
「毎年の朝貢に、王子を王都ラ・リネアに人質として差し出し、いわば属国になったと思っていただければ結構でございます」
「そうなんだー」
知らない所で国同士で大きな話があったんだな。
「そのゲルニカは様々な問題を抱えてる国。属国にしても最低限の安定を維持してもらわねば話になりません。そのため王国から人間を送って、問題を解決するという話になりまして」
「なるほど……ってまさか」
あまり興味のない話だから聞き流しかけた。
「ぼくにいけって事?」
「左様でございます」
「えええええ、無理だよそんなの。ぼく国の運営なんて何も知らないよ?」
「そんな事はございません」
大臣はきっぱり言い切った。
「公爵様は千の魔法を自在に操る大魔道士」
そろそろ一万超えるけど。
「内外に知られる陛下の秘蔵っ子でもあり」
なんかやたら気に入られてるのは確かだな。
「かわいい奥方をおもちですし。しかもお二人」
「それは関係ないよね!」
思わず突っ込んだ。
「いいえ、ございます」
大臣ははっきり言い切った。
あるのか? なんで?
「そういうわけで、ゲルニカ再建のため、能力的にも王国の本気度を示すためにも、公爵様こそが最適の人選でございます」
なるほど。話はわかった。
「余はいやじゃ。余の千呪公をあの様な僻地にいかせとうない」
「王様……」
「うおおおお、千呪公が……余の千呪公がいってしまう……」
めそめそ泣く国王。どうしたらいいんだこれ。
「陛下。考えようによっては、これは千載一遇のチャンスでございますぞ」
「むっ? どういう事だ」
「属国で小国とはいえ、ゲルニカはれっきとした国。そしてわが王国から送り込む人間は陛下の名代、あそこでは必然的にトップ。つまり……」
「王!」
国王は目をカッ! と見開いた。
「左様でございます。ゲルニカに赴いた公爵様は実質一国の王。千の魔法の公爵ではなく、千の魔法の国王となるのです」
「おお、おおおおお」
「さらに!」
大臣が力説する――かなりわざとらしく芝居がかってる。
「公爵様のお力ならば無事立て直すことは必然。であればこの一件で、その勇名が世界中に轟く事は必然」
「世界!」
「陛下が公爵様を思う気持ちは痛いほどわかります。しかし、これは公爵様の名を世界にとどろかす千載一遇の好機」
「うむ、卿のいうとおりだ」
あっ、なんか洗脳が完了した。
「余が間違っておったわ。余の千呪公は世界に羽ばたくべき存在。余の手元につなぎ止めておくなど言語道断。余は決めたぞ」
「陛下のご英断、感服いたします」
大臣は頭を下げた。
下を向くその顔は疲れ果てて、ため息を吐いてる。
……結構苦労してるんだな、この人。
「話は聞いての通りだ余の千呪公よ。どうかゲルニカに赴いてくれぬか」
「えっと……」
おれは考えた、現状を頭の中でまとめた。
つまり、買収した子会社の経営状態が良くないから、本社から新しい社長を送り込んで経営再建をしろってことか。
国王はキラキラ目でおれを見つめている。
大臣は「なにとぞ」とすがる目でおれを見つめている。
しょうがないな。
「わかった、王様のために働いてくるよ」
「おおお、さすが余の千呪公じゃ」
こうして、おれはゲルニカを立て直すため、国王代理として行くことになった。
新章スタート、もちろんかわいい嫁達と一緒に行きます。
そして次回――早速(面白い意味での)衝撃展開!




