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人間コンセント

 太陽に向かって飛び続けた。

 流石に暇になってちょっと飽きてきたから、荷物の中からもってきた魔導書を取り出してよんだ。

 さえない男子高校生がある日流れ星に「彼女が欲しい」とお願いしたら、流れ星がそのまま人間になって彼女になりに来たというドタバタラブコメディ。

 願いを叶えた流れ星が一個じゃなくて一気に九個というところでものすごくドタバタ感があって楽しい。

 これでどんな魔法を覚えられるのか、そして最後はどういう話になるマンガなのか。

 それを楽しみにしながら読んでいった。


「ふわーあ……」


 伸びをして、あくびをした。

 しまった肩にバルタサルがいるから伸びをしたら――とおもったら肩に気配が感じられなかった。

 どうしたんだろ――って思ってると。


「むぐっ!」


 口の中に何かが入って来た。

 もぞもぞと、強引に入って来た。


「あが……あぐが……」


 口の中に突っ込んできたのはバルタサルだった。人形よりもちょっと小さくした彼女がなぜか尻をフリフリさせながら、おれの口の中に潜り込もうとする。

 といつめようとするも、口を塞がれて声が出ない。

 魔法で何かしようとするも――相手がバルタサルだから下手に使えない。

 つまみ出そうとしたら、尻尾でペシッとはたかれた。

 そうこうしてるうちに、バルタサルは完全に口の中に入って、中で体を入れ替えて顔を出してきた。

 唇の上に腕を載せて、その上に自分の横顔を乗せる。

 そのまま。


「すぴぃ」


 とまた寝息を立てはじめた。

 っておい! 寝るのか!? そこで寝るのか!?

「えへへ……ルシオちゃんだぁ……」


 そりゃおれだよ! おまえ今おれの中に入ってるからな!


「ふにゅ……」


 これはこまった、本当にこまった。

 転生してきた人生の中で二番目くらいのピンチだ。

 どうする、どうするおれ。


「ふわーあ……」


 ポケットの中でもぞもぞ動いた、ナディアと一緒に寝てるシルビアが起きてきた。

 顔を出すシルビアが寝ぼけた目でこっちを見た。


「……」

「……うごうご」

「……」

「うごご」


 助けてくれシルビア、この状況を何とかしてくれ。


「……るしおしゃまのおくちにまおうしゃまが」

「うごご」

「……ゆめでしゅね、これ。おやすみなさい」


 そういって、シルビアは再びポケットに潜り込んだ。

 同じポケットに入ってる、同じサイズに縮んだナディアと指を絡ませ、身を寄せ合って二度寝した。

 可愛い、二人の姿はかわいい。

 かわいいけど!


「うごご」


 状況は何も変わらない。まずいままだ!

 パチン! バルタサルのはな提灯がはじけた。


「ふみゃ……」


 いやふみゃあじゃなくて。

 八方ふさがりのおれは空を見上げた。昼間だというのに、太陽のそばをものすごい明るい流星が流れた。

 思わず流星にお願いした――って叶うわけないだろそんなの!

 心のなかでキレ芸を披露しつつ、おれは諦めた。

 そのうちおきるだろう、と諦めることにした。

 しかし、この時のおれはまだ知らなかった。

 悪夢は……うらやましがるシルビアとナディアとベロニカによって、口だけじゃなくて鼻や耳の穴まで狙われてしまうという未来を。

 今のおれはまだ知るよしもなかったのだった。

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