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影の実力者

「アマンダさん、みんなの事しらない――」


 ドアを開けた瞬間おれはそのまま固まった。

 屋敷の中、嫁達もココマミもいないから探してるうちにアマンダさんの気配を感じた。

 それでドアを開けて中にはいったら、アマンダさんが着替えていた。

 白い下着にガーダーベルト、半脱ぎのメイド服。


「旦那様」


 ――殺される。


 おれは一瞬にして覚悟を完了した。

 だってアマンダさんだ。アマンダさんの着替えを見てしまったんだから。

 もう、助からない。

 おれはまな板の上に乗った鯉の気分になって、地面に正座した。


「露とおち、露と消えにし、わが身かな――」

「何をなさってるのですか旦那様」

「辞世の句だ。さあ、ひと思いにやってくれ」

「なんの事かは分かりかねますが。奥様方ならご一緒に出かけられました」

「……へ?」

「ですから、ご一緒に――」

「いやそうじゃなくて。いいのアマンダさん」

「メイドが奥様の行動を制限する道理はございませんが」


 いやそうじゃなくて……。

 ……いいのか?

 いいのか。

 いいんだ。

 …………たすかったぁ。

 おれはそそくさと立ち上がった、変にこじれる前にさっさと出ていこうとした。


「ありがとうアマンダさん」

「いえ――旦那様」


 振り返った瞬間、アマンダさんに呼び止められた。

 ここで振り向くおれじゃない、そんな地獄に自ら足を突っ込んでいくほどバカじゃない。

 バカじゃないけど。


「二度目は、ありませんよ」


 とっくに手遅れだったらしい。

 おれはコクコクコクと必死に首を縦にふって、慌ててその場から逃げ出した。


     ☆


 自分の部屋に逃げ込んだおれは魔導書を読み始めた。

 忘れよう。あれは事故だったんだ。マンガでも読んで忘れてしまおう。

 そう思って、マンガに没頭しようとした。

 図書館から持って帰った新しい漫画を読む。ゲーマーだった男がひょんな事から異世界に行って、魔王のロールプレイをして奴隷といちゃいちゃするマンガだ。

 すごい面白い、しかもシリーズ物だから読み応えがある。

 マンガをに没頭してる内に、さっきまでの事を忘れつつあった。

 コンコン。

 部屋がノックされた。

 この家でノックする人は……アマンダさんだけ。

 一瞬どきっとした。


「ど、どうぞ」

「失礼いたします」


 やっぱりアマンダさんだった。

 ドアをあけて中に入ってきたアマンダさんは台車を押していた。

 台車の上にお茶とケーキが載ってる。


「お茶をお持ちしました」

「あ、ああ」

「失礼いたします」


 アマンダさんは無言で給仕をした。

 いつもと同じ無表情だが、給仕自体は完璧。

 ……怒ってないのか。

 怒ってないよな。

 というか気にしてないように見える。

 よかった。

 ……ビビリとか言うなよ、アマンダさんだぞ。

 あのアマンダさんの着替えを偶然とはいえ見てしまったんだから、死を覚悟するのは仕方ないだろ?

 給仕が終わって、一礼して外に出ようとするアマンダさん。


「アマンダさん」


 思わず呼び止めてしまった。アマンダさんは振り向いておれをみる。


「なんでしょうか」

「……ありがとう」

「恐縮です、失礼いたします」


 アマンダさんはもう一回ぺこっと頭をさげて、それから部屋をでた。

 きにしてないんなら、おれも気にしない様にしよう。

 アマンダさんが入れてくれたお茶とケーキを楽しみつつ、マンガを読んだ。

 マンガを読み進めた。気が楽になったからか、マンガをより楽しめた。

 すごく面白い漫画だ、カップルを容赦なくぶっ殺す主人公が突き抜けてていい。

 それを読破すると。

 コンコン。

 またドアがノックされた。


「はい」

「失礼いたします」


 またアマンダさんだ、そしてまた台車を押してる。

 今度はお茶とサンドイッチだ。


「お食事をお持ちしました」

「ありがとう」


 給仕をするアマンダさん、うん、やっぱり完璧メイドだ。

 給仕姿はみててほれぼれする。

 新しいお茶とサンドイッチを置いて、さっきのカップとケーキの食器を回収する。


「失礼いたします」


 そういって、部屋から出て行った。

 お茶とサンドイッチを楽しみながら、マンガを読んだ。

 コンコン。


「え?」


 サンドイッチを完食したのとほぼ同じタイミングでまたノックされて、アマンダさんが台車を押して入って来た。

 今度はお茶と、焼き立てっぽいクッキーだ。


「失礼いたします、お食事をお持ちしました」

「え? 今食べ終えたばっか――」

「お持ちいたしました」

「う、うん……」


 なんかものすごい迫力が。

 これって……まさか。

 前の食器を回収して、新しいのをおいていくアマンダさん。

 部屋からでていったあと、お茶とクッキーを見つめる。

 流石にちょっと胸ヤケがしてきた。これはたべなくても――。


「――っ!」


 瞬間、ぞっとした。

 背筋が凍る恐怖を覚えた。

 慌ててまわりを見る、部屋の中にはおれしかいない。

 いないんだけど……。


「た、たべよう」


 マンガを読む余裕はなくなった。

 おれはクッキーを食べた。

 美味しい、メチャクチャ美味しい。

 焼きたてだから香りもよくて味もいい。

 美味しいけど……空腹の時に食べたい。

 そんな素晴しいクッキー。

 それをなんとか完食すると。

 コンコン。

 アマンダさんがまたまた台車を押して部屋に入ってきた。

 今度はプリンとお茶だ。


「お食事をお持ちいたしました」

「……」

「お食事をお持ちいたしました」


 うん、分かった。

 やっとわかった。

 怒ってる、怒ってるよアマンダさん!

 やっぱりというかすごくおこってるよ!

「ね、ねえアマンダさん……」

「作りたてですので、温かい内に召し上がってください」

「う、うん」


 おれは頷く事しか出来なかった。

 アマンダさんは前のを回収して、出て行った。

 残されたおれはプリンを見つめる。


「げっぷ」


 胸やけがした、食べるのがつらかった。

 ふう、ここは魔法で――。


「――っ!」


 そうおもった瞬間またぞっとした。

 背中をさす圧倒的な恐怖。

 ああ、魔法はダメだ、ダメなんだ。

 おれは、観念して、プリンを食べた。

 コンコン。


「失礼いたします」

「ごめんなさいアマンダさん!」


 最高に美味しそうなパンケーキを持ってきたアマンダさんに、おれは超高速土下座を決めたのだった。

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