表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/120

トリックオアトリート

「おお、ここにいたのか余の千呪公よ。探したぞ」


「王様」


 王立図書館の中で魔導書を読んでると、国王がやってきた。


 両手を広げて、オーバーリアクションでおれに近づいてくる。


「久しぶりだぞ余の千呪公よ、元気だったか」


「うん。おかげさまで。ありがとう王様、また魔導書を増やしてくれて」


「なんのなんの。余の千呪公の為ならこれくらいの事は。それに魔導書も読めるもののところにあった方が幸せというものだ」


「うん、ありがとう」


「それにしても手狭になったな、この図書館。そうだ、近いうちに増築をさせよう」


「お願いします」


 おれは素直にそう言った。


 結構暴走がちな国王だが、今日は珍しくまともだ。


 この世界で魔法を覚えるためには魔導書を読む必要がある。その魔導書は何故か中身がマンガになってる。


 更に何故か、この世界の人は読める人が少なくて、読めても年単位の時間が必要なのがほとんど。


 でもおれは普通に読める、マンガなんて長くても一時間あれば読めてしまう。


 そのおかげでおれはこの世界でたった一人だけバシバシ魔法を覚える人間になって、国王と会ったときは四桁の魔法を覚えてたから、公爵の爵位をもらって千呪公って呼ばれるようになった。


 ちなみに今は五桁行ったけど、相変わらず千呪公のままだ。


 その名前をつけてくれた国王はおれの事をものすごく気に入って、世界各地から魔導書を集めてくれた。


 その魔導書が図書館に入りきらなくなってきたからの増築話だ。


「余の千呪公よ、今はどのような魔導書を読んでいるのだ?」


「トリックオアトリートだよ」


「トリックオアトリート?」


「しらないの?」


「うむ、初めて聞く言葉だな」


「そうなんだ」


 手元のマンガはハロウィンをネタにしたマンガだ。だからこの世界にもハロウィンはあるんだと思って国王に「トリックオアトリート」って話したけど、それを知らないって言われた。


 知らないだけなのか、そもそもないのか。


 ……まあ、それはいい。


「魔法を使ってみようか」


「うむ。余の千呪公の魔法を是非みせてくれ」


     ☆


「『トリックオアトリート』」


 国王に魔法をかけた。


 魔法の光が全身を包み込んで、カボチャベースの服装にその姿をかえた。


「おお、服飾がかわったのだ」


「うん」


「外見を変える魔法なのか?」


「ううん、それはおまけだよ。この魔法をかけられた人は、10分以内にかけた人にお菓子をあげないといたずらされちゃうんだ。いたずらはいろいろあるけど、何をされるのかランダムだね」


「ほう」


「魔導書のなかだと、子供達がこの服をきて、いろんな人にお菓子をおねだりするんだ。そういうお祭りなんだ」


「なるほど。お菓子をくれないと悪戯する。うむ、お祭りだし子供相手ならお菓子を惜しげもなく与えるな」


 国王はすぐにハロウィンを理解した。


「じゃあ王様、トリックオアトリート」


 今度は魔法じゃなくて、単なるおねだりのセリフ。


 悪戯のランダム性はパル○ンテレベルのヤバさだから、お菓子をもらわないとな。


「おおそうだ。待っているが良いよの千呪公よ、今すぐこの国のお菓子を全て集めさせるぞ」


「えええ、そ、そんなに食べきれな――」


「待っているが良い!」


 とめる間もなく、国王は図書館の外に飛び出した。


 相変わらず極端な国王、本当にこの国にあるお菓子を全種類集めてきかねないな。


 シルビア達でも呼ぶか。お菓子はみんなで食べた方が美味しい。


 と思ってると。


「おお、ルシオや」


 今度はおじいさんがやってきた。


「さっきそこでエイブにあったが、すごい勢いで走って行ったのじゃ。なにかあったのか?」


「えっと」


 魔法の事をおじいさんに説明した――ちょっと悪い予感を感じながら。


「なんと、そのような魔法が。ルシオや、それをわしにもかけるのじゃ」


 やっぱり来た。


 なにかにつけて張り合う二人、国王がやってるって聞いたらおじいさんも絶対やるって言い出すと思った。


 そして、止めるのも無駄だと思った。


「わかったよ、『トリックオアトリート』」


 おじいさんもカボチャベースのハロウィン仮装になった。


「おお、これはなにやら楽しそうじゃな」


 おじいさんはのんきに自分の格好を見た。


「おじいちゃん、お菓子を取りに行かないと悪戯されちゃうよ?」


「それなら大丈夫じゃ。ほれ」


 そういって小さな包みをとりだす。おれはそれを受け取って、ひらく。


 中は色とりどりなあめ玉が入っている。


「どうしたのこれ?」


「わしが作ったのじゃ。暇つぶしに作ったのじゃが意外と出来が良くてのう、だからこれを渡しに来たのじゃ」


「なるほど」


「待たせたな余の千呪公よ――むっ、ルカではないか」


「遅かったなエイブ。今回はわしの勝ちじゃ」


「なんと!」


 国王は近くにやってきて、おじいさんとおれが持ってるあめ玉を交互に見比べた。


「くっ、卑劣なりルカ」


「時間をかけた方が悪いのじゃ」


 得意げに鼻をならすおじいさん、ぐぬぬ……ってなる国王。


「よし」


 ぐぬぬをやめて、なにやら決意をする国王。


「おかしは渡さぬ」


「なに?」


「お菓子では遅れをとったが、こうなったら悪戯されるまで」


「……くっ! その手があったか」


 悔しがるおじいさん。いやどの手だよ。


「みているのだルカよ。これが! 余の千呪公の! 悪戯だ!」


 まるでなんか必殺技を繰り出すような感じで、国王が両手を天に突き上げる。


 次の瞬間、光が国王を包む。


 十分、魔法のタイムリミットを迎えたのだ。


 直視出来ない程のまばゆい光が、やがて徐々に弱まっていく。


 どんな悪戯をされるんだ? 『トリックオアトリート』の悪戯はランダム効果、使ったおれにも把握出来ない。


 ゴクリと生唾を飲んで、なりゆきを見守る。


 光が収まったあと、国王は変身してしまった。


 八重歯の可愛い、ツインテールの美少女に変身してしまったのだ。


「なんだ、こうなったの。ふん、こんなの悪戯にもならないわ」


 そう、女体化国王はいったが。


「……ぽっ」


 隣からなにか嫌な音が聞こえてきた。


 ちょっとおぞましい、正体を知りたくない音。


 勇気を出して横を向いた。そこにいたのは赤面してるおじいさん。


「可憐だ」


「え?」


「わしと付き合ってくれ-」


 おじいさんはいきなり国王に飛びついた。


「きゃあああ!」


 女体化国王はその場に押し倒されてしまった。


 やっぱりおぞましかった、ちょっと見てられなかった。


 見てられないから、おれは頑張って、性的な悪戯をされそうな女体化国王からおじいさんを引き離したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ