フラワーファイター
昼過ぎの屋敷の中、何となくぶらついてると、リビングに二人分の気配を感じた。
中を覗くとシルビアとアマンダさんがいた。
二人は手元に視線を落としてる、みた感じ、シルビアが何かをしてて、アマンダさんがそれを指導してる、って感じだ。
「よう。何をしてるんだ」
「ルシオ様――ひゃっ」
おれが現われた事で喜び顔になったシルビアだが、直後眉をしかめて小さい悲鳴を上げた。
「どうした」
「針が……指先に刺さってしまいました」
「針」
真横に立ってのぞき込む。どうやらシルビアは何か針仕事をしているようだ。
型紙があって、それに沿って針と布で衣装を作ってる――って所か。
「薬箱をご用意します」
「ああいい――『ヒーリング』」
立ち上がりかけたアマンダさんを制して、魔法でシルビアの指を治してやった。
「ありがとうございますルシオ様」
「それよりもいきなりどうしたんだこれ」
「実は、昨日の夢の中でこんな服を着てたんです。お花がそのまま服になった、というか……それをアマンダさんに話したら、作ってみようか、って事になったんです」
「なるほど」
型紙を見る、確かにそれは花をモチーフ……というより花そのものな服だ。
「でも難しいです」
「そりゃ普通の服じゃないからな」
「それに夢の中にでてきた物ですから。現実にある物なら参考になるような物もあるのですけど」
「参考になるもの、出してやるよ」
☆
庭で待つことしばし、シルビアが小走りでやってきた。
「お待たせしましたルシオ様」
「それがモチーフの花か?」
「はい!」
シルビアが持ってきたの小さな、黄色い花びらの花だった。
名前は知らないが、道ばたに慎ましく咲いてるのをよく見る花。
「これをどうするんですか?」
「見てな――『フラワーファイター』」
呪文を唱え、魔法の光がそれを作り出した。
一言で言えば巨大な顕微鏡みたいな機械だ。
おれはレンズの下を指して、シルビアにいった。
「ここにその花を置いて」
「はい」
「そのすぐ上にある青いボタンを押して」
「こうですか」
言われた通りボタンを押すシルビア。
レンズがカシャッ、カシャッて音を立てて、花が光に包まれた。
やがて、それは小さな人形に姿を変えた。
シルビアそっくりの人形だ。
しかし姿がそっくりというだけではない、人形が着ている服は元になった花をあしらったような物。
黄色い花をモチーフにした、魔法使いのような衣装をきたシルビアだ。
「わああああ」
それを見たシルビアは目を輝かせた、自分そっくりの人形を手に取った。
「かわいい。すごいですルシオ様」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
「こういう魔法もあるんですね」
「本当は使い道違うんだけどな。ベースになる花を持ってきて、それをボタンをおした人間と同じ姿の人形に着せる。そして、戦わせる」
「戦わせる?」
「こんな感じに」
おれは足元から雑草を抜いて、同じレンズの下に置いてボタンを押した。
光が雑草を包み込み、おれそっくりの人形を作る。
草色のはねつき帽子をかぶって、弓矢をもったおれの人形ができた。
二体作ったことで、機械の前に光のリングが出来た。
シルビアの手から取り上げて、二体の人形をリングに並べる――と、人形がまるで命が吹き込まれたように動き出し、戦いだした。
「わああああ」
「こんな感じだな」
「すごい、すごいです」
「ふむ、シルビアの方が強いな」
人形同士の戦いは、シルビアがおれを圧倒した。
弓矢を持つおれと魔法使いのシルビア、遠距離同士の戦いは、最終的に花びらが舞うエフェクトの魔法を放ったシルビアの勝利に終わった。
「すごい」
「ま、こんなもんだ。人形としての出来はいいから服作りの参考に――」
「みんなも呼んで来て、一緒に遊んでいいですかルシオ様!」
瞳を輝かせておれに聞くシルビア。
最初の目的を軽く見失ってるみたいだが。
「ああ、呼んでおいて」
嫁が喜んでるんだから、水を差すおれではなかった。
☆
「ココトーの花見つけてきたよシルヴィ」
「わたしはこれ」
「おー、ドロクバじゃん。シルヴィのイメージぴったりじゃん」
「どうなるかな」
二人はわくわくした顔で、順番に機械に花を入れてボタンを押す。
ナディアのはカボチャっぽい頭巾をかぶったキャラに、シルビアは青と白をベースにした鎧すがたになった。
何故か鎧なのに背中が大きく開いている。
二人のキャラはリングの中で戦う。一方的な展開になって、ドロクバ・シルビアがかった。
「負けた」
「バルもひろって来たのよ?」
「はっちゃん、それ花じゃなくてキノコ」
「……? キノコは、だめ?」
「うーん、だめ?」
ナディアは首をひねって、おれに水を向けた。
「植物ならなんでもありだ。なにが出てくるのかは保証できんが」
「じゃあいれる」
機械に入れて、ボタンを押す。
光がキノコを包んで、でてきたのはオーバーオールを着た――。
「てぃっ!」
光の速さでそれをつかんで空の彼方に投げ捨てた。
「……? どうしたの?」
「いまのは忘れてくれ」
「……? うん、ルシオちゃんがそう言うならそうする」
聞き分けが良くて助かった。最強法務部は敵に回したくない。
「ルシオ、これは大丈夫かしら」
今度はベロニカだ。持ってきたのは紫色の花だった。
「大丈夫じゃないのか?」
よく分からないからとりあえず頷いた。
「ベロちゃんベロちゃん、それはやめといた方がいいとおもうよ」
が、ナディアからNGがでた。
「どうしてですの?」
「だってさ、いままでの傾向見てると、使った花の特徴にあわせて人形の動き変わってたじゃん?」
「ええ、そうですわね」
「だからやめた方がいいと思うよ?」
「訳がわかりませんわ。とりあえず作らせて頂きますわね」
ベロニカは紫色の花を機械に入れた。ナディアは「あーあー、しーらないっと」といった。
なんだろう?
光の中から生まれたのは、紫のナイトドレスを着たベロニカだった。
いまのベロニカというよりは、元の、オリジナルベロニカににた妖艶なたたずまいだ。
「あら、いいんじゃありませんの」
「そうだな」
ベロニカの雰囲気にも合ってるし、あとは強さだけだな……と思った次の瞬間。
どこからともなくミツバチが一匹とんできて、それがベロニカ人形の前を通ったと思ったら。
パックン。
ベロニカ人形の口から舌が音速の如く飛び出して、ミツバチを捕らえて口の中に引っ張り込んだ。
捕食してしまったのだ。
唖然とするベロニカ。
「あーあー、だから言ったのに」
ナディアが苦笑いして言った。
「あの紫色の、綺麗だけど先っぽのねばねばで虫を捕って溶かして食べる花なんだ」
「……食虫植物だったか」
ベロニカはわなわな震えた、涙目になって叫んだ。
「――っ! つ、強ければいいんですわ!」
と、半ばやけくそのようにさけんだ。
ちなみに食虫ベロニカは騎士シルビアに負けた。
そうして、嫁達はいろんな植物を見つけてきては、人形にして、戦わせた。
意外と最初期に見つけてきた騎士姿のドロクバ・シルビアが強くて、ほとんど無敵状態で連戦連勝を誇っていた。
他の嫁達がそれに挑み、シルビア自身も新しい花でそれに挑む、と言う形になった。
「ルシオちゃん」
「お、次はバルタサル、か……」
振り向いたおれは思わず言葉をうしなった。
戻ってきたバルタサル。萌え袖は大量に花を抱えていた。
「それは?」
「バル、頑張って集めたのよ?」
「いや頑張ったのは分かる」
「れっつごー」
バルタサルはなんと花をまとめて機械に入れて、ボタンをおした。
レンズがいつも以上にカシャカシャ、カシャカシャと音をならす。
「だ、大丈夫なの?」
「こ、壊れたりしませんよね」
怖じ気つくベロニカ、おそるおそるおれに聞くシルビア。
さあ、この場合どうなるんだ?
いつもより大分時間がかかったあと、バルタサル人形ができた。
全員が――バルタサルを除く全員が一斉に息をのんだ。
バルタサル八世――と畏怖を込めて呼びたくなる存在がそこにあった。
まず嫁バルタサルじゃなくて、大人版の魔王バルタサルがいた。
その体を包むというか、守ってるというか、植物の触手で出来た物がうねうねしていた。
まさに異形、まさに畏怖。
そんな物ができあがってしまった。
「わー、すごーい」
当のバルタサルは大喜びした。
「こんなのが出来るんですのね」
「なんか、イレギュラーっぽいです」
「イレギュラーだな。いやある意味あってるのか」
バルタサル魔王だからなあ、これも似合ってるっちゃにあってる。
「あ、ドロクバのシルヴィが触手につかまった」
「これは――お子様お断りなシーンですわね」
「バル、りょーじょくも得意なのよ?」
「きゃあああ! 見ないで、みないで下さい!」
平和的なエグいシーンを鑑賞する嫁達(結婚してるので大人)。
マルティン家は、今日も一日平和だった。




