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魔術騎士団の推しポイント②


「さて。先ほどのお話ですが」


 皆さんがメモに書き込んだタイミングを見計らって、姿勢を正す。


「新設されたばかりの魔術騎士団はいくら王直属とはいえ、騎士団や魔術師団よりも予算が少ないと伺いました。調べたところ、各団である程度ファングッズ的なものや簡単な魔法薬の収益は許容されていると」


 司令官付を雇ったとはいえ、業務整理があると言われ入団から数日は割と時間を持て余していた。

 計画採用だったのでは? と疑問を抱いたりもしたが、まぁ、雇った臨職の適正を見てからというのもあるだろうと納得したのは1週間前。

 ならばと、雑用が終わってからは、自分に求められているのはなんだろうと試行錯誤しながら、とにかく団内の隅々を見て回った。


「建物自体は新しく快適な環境ですが、備品や訓練用の武器や魔術具などは多くないとお見受けしました。予算や出納帳を少し拝見して、実績云々に関わらず圧倒的に諸々不足していますよね?」

「確かに、ヴィッテが言うように、騎士と魔術師の両方が所属している割に、訓練場やシミュレーション施設が貧相という印象はありましたわ」

「新米王直属の組織だからこそ、というのあります」


 オクリース様のおっしゃることはもっともだろう。

 フィオーレは大国だ。ただでさえ臣下の意見は重いだろうし、現王であるシレオ様はかなり難しい立場からの即位であるのは、私の耳にも入ってきている。


「だからこそ、古い貴族の後ろ盾が少ない分、敷居が低くて庶民に受け入れてもらいやすいのもありますよね」


 アストラ様が「まぁな」と頬を撫でた。


「ネガティブな意味とは違うのです。もちろん、そういった貴族へのアプローチも必要ですが、まずはどこを目的にするのか定めるか考えた時に、とにかく資金源と思いまして」

「目的、ですか」

「はい。特に魔術騎士団は身分に関係なく入団が可能です。ということは、入団希望者のハードルを下げることと、歴史ある魔術師団と騎士団とは異なる層の支援基盤を固める必要があるかと。こういった点で雑用団と呼ばれる現状を利用しつつ、騎士と魔術師の特性をアピールして―」


 わくわくとメモ帳を広げて説明しているところで、はたと我に返った。

 やややってしまった! 家業の時は私の普段の様子とギャップを把握しつつ暴走を止めてくれる人がいたけれど。いま、みんな呆気に取られているよ!



「もっもちろん、団の方針にもよります。あくまでも外からの意見というか、案の羅列ですので」


 浮いていた腰を椅子に戻す。ついでに、ストローを無意味に吸い上げてしまうよ。噛み潰されたストローよ、ごめんなさい。

 ひたすら身を縮める私をよそに、アストラ様とオクリース様、それにフォルマはメモ帳を眺めている。いっ居たたまれない!


「日頃から一般訓練の公開や施設案内はしていますが、イベントとして模擬試合や手合わせを実施するのは交流とアピールの場になりそうですね」

「それでいて、魔術騎士団の実力を示すことができますわね」


 あれ? 思いのほか、オクリース様もフォルマも乗り気だ。

 瞬きを繰り返していると、アストラ様がふはっと笑みを零した。なんだろう。


「この『団員の趣味』というのは、どのように使用するつもりなのだ?」

「えっと。筋肉隆々の騎士様が育てた花とか、真っ黒魔法衣を纏った魔術師様の激甘スイーツとか。個々の特技がたくさんある魔術騎士団ならではの特徴をいかすのもありかと」


 コミュ障ではあるが、仕事と思えば割と話せるもので。施設を廻りがてら、休憩をとっていらっしゃる騎士様たちとコミュニケーションをとってみたのだ。

 もちろん訓練に勤しんでいる皆さんだが、合間の時間は割と自由がきくようなのだ。趣味の延長線上で魔術研究をしている方もいれば、敷地内の環境に目を向けていらっしゃる方もいて、面白い。


「なるほど。団員にかけあってみましょう。フォルマ、手伝ってくれますか?」

「もちろんですわ、オクリースお兄様。それと、領地と繋がりのある経営者に連絡をとってもらいましょう」


 空気に和んでしまい、思わず祖国での親友との語りレベルで色々話してしまった。

 しまったと口元を押えたが、時遅し。

 オクリース様とフォルマは和気あいあいと、渡り廊下に姿を消してしまった。


「えぇっと。どうしましょう。私の軽い発言で、魔術騎士団が不利益を被ることになってしまったら」


 滝汗を流してしまう。きっと顔面は蒼白だろう。


「どうもないだろう。決めたのはオレたちだし、あの二人なら大丈夫だろう」

「でっでも、アストラ様」

「さて。ようやくヴィッテに視線をあわせて貰えるようになったことだし。司令官室に戻ったら書類整理を手伝ってもらえるか?」


 立ち上がったアストラ様は、にかりと笑った。

 私が口ごもっていると、手を引き上げられた。そのまま手を握られて、廊下を歩くことに。


「ちょっ! アストラ様、手が! 手を!」

「うん? だって、こうでもしないとヴィッテはオクリースとフォルマを止めに向かうだろう? 司令官である俺の相手を差し置いて」

「しませんって! だから、手を離してください! ちゃんと司令官室まで行きますので! って、レクトゥス様、微笑ましさをたたえて通り過ぎないでください!」


 どうして、すれ違う人みんながあったかい視線を送ってくるのか!

 私は「違います! 手を繋いでいるのではなく、連行で!」と慌てるほど、「司令官殿がお元気そうで何よりです」と微笑まれる。あまつさえ「その調子で甘やかしっぷりを発揮してください」とまで言われるしまつだ。


「皆さん、私のことを幼子だと思っていらっしゃいますよね。そんなに喋り方が拙いのでしょうか」


 きょとんと瞬くアストラ様。力の抜けた表情に反して、握られる手には力が込められた、気がする。

 喉を詰まらせると、近づいた顔。思わず踵が浮くものの、さらに体温が近づく。


「ヴィッテの話し方は母国語並みに完璧だぞ?」

「ありがとうございます、はい」


 つまりは、私への視線というよりアストラ様に向けられている感情なのだろう。フォルマに対しても似たような対応だから、これがアストラ様の通常運転か。

 というか、どちらかというと『幼子』を肯定して欲しかった。


「あっ。ヴィッテが仕事もデキて、料理がうまいのも知っているぞ。もし良ければ、今日か明日、また行っても良いか? とっておきの酒を持ってくぞ!」

「私はいつでも歓迎なのですが。狭いのが心苦しいです」

「俺はヴィッテ宅の雰囲気が好きだぞ。落ち着くし、料理を手伝わせてもらえるのも楽しい」


 アストラ様こそ子どものような純真な心を持っていらっしゃると思うのだ。

 もちろん、先の戦争で死神とまで呼ばれた方なのは知っている。けれど、ここまで無邪気にされると、可愛いとさえ思ってしまう。


「……それでは、本日は定刻であがって、料理を作りながら飲みましょうか。仕込んである揚げびたしを出しますね」

「それは楽しみだな! ヴィッテと一緒に帰れるように、張り切って仕事を片付けねばな」


 アストラ様は離した手をあわせて、肩を鳴らした。


 


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