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行き倒れな少女と命の灯火、司令官な俺

司令官殿視点です。

「あら、おじさま。そんな怖い顔なさってはフォルミル、恐ろしくて声が出せませんわ。どうか、わたくしを笑わせてくださいまし」


 真っ白な空間に縫い付けられた可憐な少女は、儚く微笑む。

 戦場から帰還し、いくばくかの日にちが過ぎた頃。ようやく見舞いに訪れた自分に、かけられた第一声。静かで愛らしい声とは裏腹な、からかう口調に喉が詰まった。

 肉など一切ついていない細い腕。握れば即座に痕がつくような、真っ白な肌。久方ぶりに顔を合わせた姪は、十七の少女とは思えない容姿だった。特に、功績をあげた俺に纏わりついてくる、着飾った令嬢たちとばかり顔を合わせていたのもあるだろう。

 日差しさえ毒だと引かれたカーテン。薄暗い空間の中、ベッドに横たわる肉体は、俺とさほど変わらぬ年などと、だれが信じられたか。

 幼いのか老成しているのか、判断がつかない、病に蝕まれた身体。けれど、俺と同じ金色の瞳には、確かに命が宿っていた。

 なのに、どうして――。


 俺は生まれ持った魔力や能力ゆえ、歩き始めた頃から既に周囲から一線を引かれていた。世界で最も美しいと称される魔法の都――花の都フィオーレでも有力な家柄もあいまって。

 ただ、母や姉の配慮だろう。陰口こそ絶たなかったものの、顕著な差別を受けているだとか、羨望の眼差しに晒されていたという記憶はない。上の姉以外の兄弟は年齢自体が離れていたこともあり、大した確執もなく育った。

 それも、全てに愛されるような容姿と性質を併せ持った姉のおかげだろう。

 三つ上の姉は、どういうわけか、化け物と揶揄される力と忌まれる瞳の持ち主である俺を大層可愛がってくれた。


「人に見えぬものが見えるというのは、幸せなのよ?」

「どうして? だって、みんな気持ち悪いって。あたまがおかしいって、笑ってるのしってる」

「あら。アストラは花精霊とおともだちになりたくなかったとも、存在しなければよかったとも、思っているの?」


 ぐっと膝を握った俺の額をついた姉は、どこか怒ったように唇を尖らせていた。隣に咲いていた花の精霊が困ったように笑っているのが見え、思い切り頭を振った。

 それでも、情けないことに零れる涙は止まってはくれなかった。花の精霊がちょこちょこと周りを飛んでいたのを覚えている。あいにく、俺は精霊の言葉までは理解出来なかった。後になって知るのだが、同じ瞳を持つオクリースは、精霊言語まで理解可能らしい。見えるだけで不幸面していたのかと、鼻で笑われたのは良い思い出だ。……たぶん。

 それはさておき。泣く俺の鼻を摘んだ姉は、にやりと笑った。初めて見る姉の笑みに、あっさりと涙が止まった。


「女神の祝福を授けられたのはもちろん。それより、なにより。見えぬ人がどんな気持ちをぶつけてくるのかも、見える立場の者がどう思うのかも知りえるんだもの。アストラは、とっても優しい瞳を持てる機会チャンスをもらえてるのだし、実際、そうなれるって姉様は確信してるわ」


 本来であれば女性が引き継ぎ、聖女と崇められる能力。であるのに、男子が宿した。恐らく、国広しと言えども、男子でこの瞳を持つのは、俺とオクリースくらいだろう。

 我が家唯一の女子である姉が、どんな想いで俺を抱きしめてくれたのか。その時の自分は知る由もなかった。ただ、姉の言葉が嬉しくて、謝りながら泣いていた記憶は鮮明だ。


 それから数年後。母上が亡くなった際、無我夢中に俺を抱きしめてくれたのも姉だった。

 騎士となるべく学院へ通っていた俺に、母が危篤状態であることが知らされたのは、まさに亡くなる数時間前だった。それまで、母が病魔に蝕まれていることさえ知らなかった。当時の俺は、そんな母の様子に気付けずにいた。今になって思えば、たまに行事で顔を出した際も、俺をわずらわせないようにと気丈に振舞っていただけなのだろうが。

 侯爵の末の息子など、所詮、憚られる存在。承知はしていたが、生母の死を隠されていたとなれば、別問題だ。

 子どもだった俺は、ただひたすらに父や兄上たちを責めた。同じ王都にいながら、なぜ寮生活を強いたのか。侯爵家の息子である自分ならば、他と違い自宅からの通いが許されたのにと。せめて一言、病について告げていてくれたら、もっと孝行できたのにと。

 父や兄は何も言わない。弁解もしなければ、気付かない俺が悪かったのだと罵りもしなかった。

 せめて、あまったれな俺が悪いのだと、嫌悪してくれればよいものを。


 あとは、まぁ。典型的な放蕩息子に落ちた。それまで豪語し振りまいていた笑顔も信条も、なにもかもどうでもよくなった。今語る命に、未来に。どれほど意味がある。たわいもない幸せに、どれほどの価値があるのだ。になど、意味はない。

 だれも、命について語らない。ただ、目の前にあるのは母国への忠義と立場。騎士とはなんなのだ。魔法とは何を守れるのか。わからなかった。


 そんな折。隣国との関係が悪化し戦場に駆り出されたのは、まさに救いの手だった。最前線で繰り広げられる命の遣り取り。強い者が生き残るという単純な理屈。全てが心地よかった。ただ、命を狩る日々。あぁ、心地よい。力こそが全て。個が抱く感情など、関係ないのだ。


 学院時代からの親友であるオクリースとの連携もあり、俺は戦勝を重ねていった。命が行きかう戦場でなお、死神と呼ばれるほどに。

 死に急ぎ、喜んで命を狩られる人間に同情は沸かなかった。死にたいのならば死ぬがいい。俺が、そうであるように。人は死ぬために生きている。そう思わずにはいられなかった。ただ、死ぬために戦う戦場が、自分の、人の居場所だと思った。


 時間が過ぎるほどに、がむしゃらにただ力を振るった俺は英雄と称された。たくさん、人を殺した。ただの人殺しなのに。

 死神に射止められるならと笑って逝った人間。掲げる信条と逆に見苦しくあがいた少年。醜く、裏切りを企んだ男。正直、だれもどうでもよかった。うるさい。ただ、耳鳴りを誘う煩い虫だと煩わしかった。死にいく感情を、無責任に俺へぶつけるなと。

 愛する人を守り、精霊をあがめ、安寧を願っていたのに。どうだろう、今の俺は。

 賞賛の声を浴び、歓迎の花を受け、華々しい己。


 へどがでる。その喝采の裏でどれだけの命が散ったと知るか。命を犠牲にしたのか。自国の兵士だけではない。全ての命を見ぬ者よ。俺が一振りで切り捨てた者にも、慈しみ育てた親や待つ恋人はいたやもしれん。俺には、そんな者いないというのに。

 だが、俺は死にたくないと思った。からっぽなのを理解しながらも、生きたいと思った。


 帰国後、俺はひとつの騎士団を任される立場におかれた。王いわく、庶民の立場を見、いかなる自体にも対応可能な騎士団という名目だ。年若いながらに賢明な王は嫌いではない。学院時代の学友でもあるあいつの心持ちは、だれよりも理解しているつもりだ。

 だが、現実は違う。

 騎士団に対して詳細は省くが、つまりは体の良い雑用団体だ。剣術だけではなく、魔法を扱える、有能だが扱いに困る人間の集まり。

 それでも、俺が前向きになろうと考えたのには、姪がいたからだ。

 一番上の兄上の娘は、俺とさして年の差のない少女だった。が、生まれついた病気から、常に白いベッドでの生活をよぎなくされてきた。

 それでも、姪は笑ってくれていたのだ。今思うと、青白い肌にまっくろな隈、死人のような目つきを、よく怖がらずにいてくれたと思う。


「おじさまは、英雄なのでしょう? ぜひ、命あるお話を」


 弱々しくも、穢れを知らぬ柔らかな指に触れられた時、俺は不覚にも泣きそうになった。まだ、穢れなき存在に許されているのだと。

 だが、本当は気付くべきだったのだ。少女の言葉の裏に。命あるの、意味に。


 それから毎日。どんなに騎士団の仕事が忙しくとも、俺は姪の元に通った。俺がおどけて見せるたび、贈り物を持っていくたび。彼女は喜んだ。自分も淑女であると実感できるのだと。ドレスを贈った時など、髪飾りや宝石はないのかと怒られ、二・三日口をきいて貰えなかった。

 それでも、俺は嬉しかったのだ。己の行動に色を浮かべてくれる存在が。己の膿んでいる傷を隠すための隠れ蓑だと承知していながらも。


 そんな矢先だった。姪の親である長兄の自室に、珍しく呼び出されたのは。正直暗い予感しかしなかった。だが、その時の俺は、兄が自分を呼んでくれたという事実に酔っていたのだろう。どの可能性も予測出来なかった。ただ、兄に呼ばれた。それが嬉しくて。

 静かな執務室で葉巻を吸い始めた兄。俺は兄が己の気持ちを静めているのさえ、把握出来なかった。


「アストラ。あの娘はな」


 兄から紡がれる言葉は、文字以外の何者でもなかった。

 だから、だからなんなのだ! あの子は余命一ヶ月というのに、どれだけの意味がある。 あの子自身は、命への希望を断っていないのに。どうして、親である兄が諦めているのか。俺には理解出来なかった。あの子も、死など望んでいない。ただ、それだけを信じていた。

 そして迎えた日。ただ、寝て、食べて。義務のように繰り返してきたのに、残酷にもあの子への死刑宣告は訪れた、不平等だ。寝ているだけで一日がすぎる人間もいるのに、どうして明日が来ない娘がいるのか。俺は姪の手を握り、泣き続けた。


「おじさま、泣かないで。わたくしね、やっと死ねるの」

「え……?」


 静かな少女の囁きに、自分だけではなく兄や、親友も息を呑んだのがわかった。医師が音もなく立ち上がり、部屋を出た。風が入らぬようにと重厚に作られた扉が、重々しく鳴いた。

 少女は死に目に立つ人など見えていないように、ただ嬉しそうに語る。可憐に微笑む。美しく、儚く、俺にではなくだれかに微笑んだ。


「わたくし、ずっと、死にたかった。見たかったのは、現世ではなく、死の向こう。わたくし、ようやく死ねるのね。あぁ、やっと女神の迎えが来てくれる。今の世に未練などないのです。お願い、早くわたくしの命を狩って。死神と呼ばれたおじさまのように」


 幸い。姪が逝った日に、王命により騎士を率いて森へ出た。

 戦場から生還したあと、無理矢理浮かべていた笑みはどう頑張っても貼り付いてはくれなかった。花の都と称されるフィオーレ。都と山中の境に賊がはびこっているのは把握していた。が、一気に蹴散らさなかったのも放っておいたのも上部だ。正直、どうでもよかった。

 無表情で馬を走らせ、戦略どおり、賊を捕らえる。雨が降ってきて足場が悪くなる中、どうしてか、もう少し雨に打たれたかった。

 部下に現地の処理を任せ、見回りと称してオクリースを伴って森を走る。


「アストラ、人の声が」

「あぁ、聞こえる」


 風にのってきたのは、小さな小さな声。いや、腹の音? 地響きに似た音は、鳥のさえずりをもろともせず、森に木霊していた。

 とにかく、馬を走らせた。くっと、馬の手綱を引いた下にいたのは、地味な服を身に纏った少女だった。他国のデザインだろうか。見慣れぬ刺繍が祝詞に思えてしまった。

 汚れや衰弱からして、森を彷徨って数日は経過していよう。


「おい、お前。死んでいるのか」


 地面に伏せている少女。あげた顔は泥にまみれているものの、ぱっちりとした二重の瞳をのせた小さな顔が、彼女の愛らしさをしめしていた。まどろみながらも色褪せない紫色の瞳。文句を言いたげな視線に、泣きたくなった。

 容姿云々ではなく、その薄れぬ命の光に、美しいと息を呑んだ。

 もっと自分を映して欲しいと願う。けれど、すぐに瞼が落ちていってしまった。

 近くに投げられた荷物からして、旅行者だろう。山賊に襲われた人間かもしれないと、ようやく思い至った。


「死……たい」

「そうか。お前も、死にたいのか」


 あぁ。こいつもか。命の灯が消えるのに立ち会うのは飽きた。先ほどの光は、単なる俺の願望だったのか。うんざりとした呟きも、オクリースは咎めることはない。軽く溜め息をついただけだ。

 興奮する馬を落ち着かせ、地面に下りる。馬の嘶きを理解しているのか。少女がわずかに上体をあげた。手に握り締めたのは、手紙だろうか。


「死ぬ……たべ……たい、きれ……」

「お待ちなさい。アストラ、耳を寄せて」

「オクリース、なんだ。この少女は、きっとあの山賊どもに襲われたのだぞ」


 振り上げた剣を止める親友の手。わずらわしい制止に、苛立ちを返す。少女の着衣や様子から、それはなかったとわかるが。

 眉をひそめたオクリースに、舌を打つ。死にたいと願う者に死をあたえて何が悪い。


「チョコレット、オムレット、ステェキ、チーズ蒸し、ひよこ豆のスープ、鳥のフライ、極上のヴィヌム」


 って、待て。おい。脳を揺らした掠れた声は、何を紡いだ。心なしか、少女の口の端に涎が流れているようにも思える。顔だけ切り取ってみれば、極上の夢を見て寝言をもらすようにしか思えない。

 あっけに取られた俺の視界に、少女が握り締める紙の文字が見えた。とても綺麗な文字なのがわかる。が、紙の隅などに愛らしい落書きを認めた。おい。あれは、明らかに食べ物だろう。


「おい、今、食べ物を羅列していたか」

「少なくとも、私には、メニューに聞こえました」


 冷静な音が耳を鳴らす。オクリースの声色が、さっと自分の中でくすぶっていた醜いすさみを通り越していく。さすが俺の参謀、とどこか他人事のように頷く。

 沈黙が襲う。少女を見下ろしていると、彼女はなおも涎なのか雨なのか不明な雫をたらす。

 散々考えたあげく。腹の底から笑いが溢れてきた。苦しい。苦しい。腹がよじれて痛い! こんな死に際に願ったのが食か。しかも、ご丁寧にリストなどを用意して。世を恨む声色ではなく、噛み締めるような声調。味を想像しているのか、じゅるりと吸い上げられた喉の渇き。


「死に際に!! 食べ物!! いや、戦場での飢えは、俺にも、理解出来るが!! まさか!!」

「アストラ……笑う気力が沸いたのは喜ばしいことですが。煩いです」


 目の前の年頃の少女が、死に際に食べ物を欲したのがやけにおかしくて。森に爆笑がこだました。ひーひーと呼吸を乱す俺に、珍しくオクリースが微笑んだ気がした。

 が、すぐさま耳を摘まれた。痛い。ものすごく痛い。痛みどころか、ちぎれそうだ。こんな心地よい痛みを感じたのはいつぶりか。己の肉体を苛めるように繰り返した訓練でさえ、感じなかったのに。


「さいご、人、笑ってくれたなら、よかった」

「なんだ? 遺言か?」


 ぽつりぽつりと、降ってきた雨。激しくなってく雨音と逆に、少女の優しい声が胸をくすぐる。

 てっきり足に縋ってくるかと思ったのに。少女は泥にまみれた頬を、柔らかにあげた。


「ありがとう」

「は?」

「ありがとう。最期に笑ってくれて。あなたを笑わせて……死ねるなら……幸せ。笑い声を……聞かせてくれて……ありがと」


 はっと息を飲んでしまった。そんな俺さえ受け止めたように、少女は微笑んだ。ともすれば、女神を連想するような慈愛の笑み。けれど、そんな高尚ではなく、ただ傍にいてくれるような親しみのある微笑み。

 笑ってくれてありがとう。笑い声を聞かせてくれてありがとう。

 少女から絞り出すように紡がれた想いに、やるせなくなった。少女の声は、涙交じりで。確かに、感情のある人間だと知らしめてくる。

 どうして。死に際に己を笑った失礼な人間に礼を述べるのか理解出来ない。見知らぬ人間に笑われたのだぞ。

 気がつけば、泥に膝を突き、少女の頬に触れていた。一瞬、少女はびくりと身体を跳ねた。硬くなった身体に悲しくなり、逆の手で髪を撫でた。藍色を含んだ黒髪は、滑らかに指をくすぐる。

 戸惑う俺の心情を汲んだかのように、少女は笑った。


「いつも……楽しそうに……笑ってた、母様は……父様は……死ぬ間際……ただ……微笑んでた、だけだから。おもしろみのない……私は……声をあげて、笑わせて……あげられなかった、から。死神さん、ありがと。こんな……どうしようもない……価値のない、私でも……最期に、笑ってもらえたなら……笑ってくれて、ありがと」


 この瞬間の俺には、少女の囁きが頭に入ってこなかった。文字の羅列。

 ただ、隣に膝をついたオクリースが、物言いたげに俺をみつめていたのはわかった。からかうのではなく、嘲笑するのでもなく。ただ、嬉しそうに微笑んでいた。

 頬を伝う熱い雫に、唇を噛んだ。あぁ。この少女も望んで死ぬのかと。気がつけば、剣を抜いていた。オクリースは止めない。ただ、静かに見てくる。暮れる日に、剣先が光る。


「でも……私、まだ……死にたくない!」


 それまでの儚さを拭い、少女は土を掴んだ。力の限り。

 死に際とは思えないほど、強く、凜となった声。ぐっと噛まれた歯。立ち上がろうとする身体を支える細い指先。そのか弱い身体に、どれだけの生命力が宿っているのかと思えるほどの、力。


 あぁ、女神よ。女神。


 無性に泣きたくなった。声をあげて、みっともなく感情をぶちまけてもいいのかと、暗い森に震えを零す。

 まだ、俺の前でいきたいと願ってくれる存在がある。地面に落ちた剣。気を失ってなお、地面をひっかく少女に、涙が止まらなかった。

 死しかもたらさなかった自分。消えていく命を漫然と受け止める灯火。死を望んだ姪に縋られた己。

 そんな俺の前で生きたいと願ってくれる少女の声色が、胸をえぐった。生に、食に執着する、今にも壊れそうなほど儚い少女が放つ煌き。俺の願望であるかもしれないのだが。自分の中にある『何か』を消さないために生きたいと願うように、思えた。自分の意思でだけでなく、己の中に宿る想いを散らさぬように生きたいと紡いでいる気がした。

 ずっと出されていた言葉は陳腐なのに。意識を失う直前に呟かれた言葉が、胸をえぐった。


 君はどんな子なんだろう。どんな顔で笑うんだろう。怒るんだろう。泣くのだろう。どんな光を俺に向けてくれるのだろうか。俺を、拒絶するのか、受け止めてくれるのか。結果などどうでもよかった。

 ただ、知りたいと思った。


 生きたいと、願ってくれるのだろう彼女が、愛しくてたまらなかった。


 膝を突き、雨に打たれる。縋るように。嗚咽交じりに握りつぶす加減で、意識を失った少女の手を包む。両手で掴んだ少女の手が、怖いほど優しく握り返してくれた気が、した。

 笑って、と。生きたい、と。



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