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キャンプをしたいだけなのに【2巻発売中】  作者: 夏人
第4章 ずっと側にはいられない
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【第4章】 星空キャンプ編 5


 5


 そこから、長野県の宿泊施設につくまで、あっという間だった。


 トイレ休憩後はランプも一旦落ち着いたようで、他の映画の話になった。

とはいえ、ランプは原作小説派。春香はあまり本を読まないし、それに対し、ランプは映画をそこまで観ていなかった。だから、ランプが原作を読んでいて、映画化されたものの中から、春香が観たことあるものを探すゲームみたいになった。

 一方的に語られるのは正直キツかったが、お互いにうろ覚えのタイトルや内容を言い合って当てっこする遊びは、やってみるとかなり楽しかった。

 美和子さんの映画コレクションがこんなところで役に立つなんて。

 ありがとう美和子さん。勝手に観たことがバレると確実に怒られるから、直接お礼は言えないけど。でも、ありがとう美和子さん。


 2台のバスは高速道路を降りた後、しばらく国道を走った。どんどん景色が緑に染まっていく。目的地は「青少年自然の里」という宿泊施設だった。宿泊施設といっても、ホテルや旅館とは違い、野外活動や大人数での合宿や研修会に利用される施設らしい。今夜泊まる予定の宿泊棟もあれば、二日目の夜にテント泊するというキャンプサイトもある。食堂から、運動場から、体育館まである巨大な施設だ。

 木々に挟まれるような長い山道を経て、バスが施設の入り口に到達する。背丈2メートルはありそうな銀のフェンスがバスの前に立ち塞がっていた。それを出てきた職員さんがエッサエッサとフェンスを押してゲートを解放する。この暑い中、ご苦労なことである。

 見たところフェンスは両側にどこまでも伸びていた。きっと施設全体を囲っているのだろう。おそらく動物よけなのだろうが、バス2台が通過した後にすぐに後ろで閉められるゲートを見て、まるで私たちが閉じ込められるようだと春香は思った。

「まるでショーシャンク刑務所みたいね」

 同じように思ったのだろう。ランプが小声でつぶやいた。さっきまでの作品当てゲームから、映画「ショーシャンクの空に」からネタを出してきたのがすぐわかった。スティーブンキング好きだなあ。ランプちゃん。

「壁にリタ・ヘイワースのポスター貼らないとね」

 そう返した春香に、ランプは満足げに頷いた。流石に数時間ぶっ通しでおしゃべりしていただけはあり、春香もランプが気に入りそうな返答がわかるようになってきていた。

「さあ、降りるわよ! 忘れ物のないようにね!」

 すずの号令により、子ども達は次々にバスを降り立った。春香もランプと一緒に駐車場に降り立ち、自分の荷物を求めてトランクルームに集まる子ども達の群れに加わった。駐車場のアスファルトの上に放り出される荷物の中から、自分のバッグを探す。

「班ごとに移動しまーす。荷物を取った人から自分の班のリーダーのところに移動しましょう」

 リーダーの声が聞こえる。見つけたボストンバッグをよいしょと肩に背負い、「いこうか。ランプ」と振り向いて声をかけようとしたところで、

「ランプ! さびしかったよー!」

 人混みをかき分け、ランプに半ば抱きつくように少女が突っ込んで来た。春香はどんっと勢いよく押しのけられ、バッグの重みでふらついてこけそうになる。

 コネ娘である。

 コネ娘こと社長令嬢ことマッチは嬉しそうにランプに頬ずりする。

「マッチ。離れて。暑い」

 ランプはそう言って無理矢理マッチの顔を押すように引き剥がす。

「つれないなあ。あたし、何時間もさびしかったんだよ」

「すぐそばにいたでしょうが」

「通路挟んでたじゃん。あの微妙な距離がより寂しさを増長させたんだよ」

 マッチはそう笑ってランプの二の腕をとった。まるで恋人のようだ。ランプも辟易した表情を見せながらも、そこまで嫌がる様子もない。いつものことなのだろう。

「ほら。行こ!」

 マッチがランプを春香から引き離すかのように引っ張った。

 ああ。私が邪魔なのか。

 春香は理解した。そりゃあ、ズルをしてまで隣に座ろうとした友達が、他の子と仲良くしてたら気にくわないだろう。

 ランプは「はいはい」とマッチに引っ張られるがままに、人混みを進み始めた。

 春香はそのままその場に突っ立っていた。二人を黙って見送る。

 うん。空気を読もう。もう少ししてから、距離を開けて付いていこう。

『いいのかよ』

 シズカが春香に問いかける。

『いいんだよ』

 春香は答える。

 ランプとせっかく仲良くなれた感じはしたが、所詮はバスで隣だったからだ。それもほんの数時間。同じ小学校で、一緒にキャンプに参加するほど仲のいいマッチとは比べるべくもない。

 変に付いていっても、マッチは嫌がるだろうし、ランプも迷惑だろう。結局、自分が惨めになるだけだ。

 良いじゃないか。自分にはシズカがいる。


 そこで急に、ランプが振り向いた。距離を開けて突っ立っている私を見て、眉をひそめる。

「スピカ。何してるの。行くわよ」

「へ?」

 春香は変な声を出してしまった。マッチも「ランプちゃん?」と驚いたようにランプを見る。

「えっと・・・・・・。一緒に、行っていいの?」

「はあ? だから何言ってるの」

 ランプは腰に手を当ててため息をついた。

「もう、友達でしょ」

 春香は数秒、黙り、ランプの言葉の意味を考えた。ともだち? トモダチ・・・・・・ 友達!

「ほら。行くわよ」

 我に返った。春香は「うん!」と叫ぶと慌てて走り出した。

 二人に追いついた春香をマッチが苦虫をかみつぶしたような顔で見る。

「マッチ。この子、スピカよ。映画に詳しいの」

「・・・・・・よろしく」

 マッチは舌打ちでもしそうな顔でそう言い、ぷいっと前を向いた。

 春香は「よ、よろしく」と返しながらランプを見た。ランプも前を向いていたが、すこぶる上機嫌なようだった。足取りが軽い。

 春香はボストンバッグのベルトをぎゅっと握りしめ、二人の後を付いていった。春香の足取りも心なしか軽かった。


 春香に初めて、友達が出来た。





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