【第7章】 廃村キャンプ編 50 高校時代7
50 高校時代7
「やばい。泣けてきた」
目頭を押さえる秋人に、私は卒業証書の筒を肩に乗せながら言った。
「きもい。やめて」
「ひどくない?」
三月下旬の屋上はまだ少し肌寒かった。
「・・・・・・ナツ姉が卒業とか。ぼく、明日から誰としゃべればいいんだよ」
「拓也くんがいるじゃない」
「去年、卒業したよ」
「今でも絡まれてるんでしょ」
「なんで知ってるの。ほっといてよ」
秋人は溜め息をついた。
「ねえ」
秋人の改まった顔に「なに?」と返す。
「本当にもう見えなくなったの?」
私は首を傾げた。
「なにが?」
秋人は「そっか」と呟いた。
「あんな山、行かなきゃ良かったね」
私は意味がわからず、「なんのこと?」と聞き返す。
秋人は無言で首を横に振り、明るい口調で話題を変える。
「ねえ。大学行ったら、なにかしたいとかある?」
「そうねえ」
私は別段意味も無く、校庭に目をやる。桜はまだ咲いていなかった。
「バイト、したいわね」
「バイト?」
私は秋人に目を戻した。
「ええ。まだやったことないし」
「そっかあ。コンビニとかどう?」
私は鼻で笑った。
「あんたがしてるの見てたから、それはなんかいいわ」
「なんでだよ。いいよコンビニ。おでんも食べれるし」
私は「それはあの店長だからでしょ」と笑う。
「もっと、お洒落なとこがいいな。カフェとか。純喫茶とか」
「いいじゃん。彼氏とかできるかも」
「うるせえ」
「でもナツ姉、愛想ないし私服ださいからなあ」
「黙れ」
「ごめん」
私はふっと笑った。完全に声変わりを終え、背も伸びた青年を見つめる。
こいつとの馬鹿話もこれで最後か。
「ナツ姉さ。イメチェンとかしないの。大学デビュー」
「はあ?」
私は少し想像しようとしたが、イメチェンとやらをした自分が一向に思い浮かばない。
「ほら。髪染めたり」
「ああ。姫みたいに」
茶髪か。似合うかな。私。
秋人が輝く笑顔で言った。
「金髪とか、どう?」
私は苦笑した。ないない。そもそも髪を一度も染めたことがないのに、ハードル高すぎだろ。
「絶対似合うけどなあ」
正気かこいつ。
いぶかしげに見つめる私に、秋人は笑顔で頷いた。
「うん。絶対似合うよ」




