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魔法を使えるようになりました!





「ああ、こんなことになるとは思わなかったなぁ」




ハティシュタイン侯爵家の端っこにある、大きな樹の根元に腰掛けながら私は木漏れ日の気持ちよさに目を細めながら、息を吐く。


私の周りには可愛いらしい精霊達が一緒に日向ぼっこをしている。


可愛い……。


じゃなくて!

ふるふると頭を振りながら溜息を吐く私に、精霊達は顔を見合わせ、首を傾げている。


くっ…!あざとい!!


精霊達の一挙一動に私は悶える。

そもそも無邪気な彼らは外見は当然、仕草や行動すらも愛らしい。

表情もコロコロと変わって感情豊かな様は自然とこちらの頬が弛むものである。


花の精霊以外にも樹の精霊や土の精霊、水の精霊に風の精霊と多種多様。


そんな様々な精霊達と何故寛いでいるのかというと、やはりというべきか、私の思いつきによる行動の産物である。


早い話が、日向ぼっこしながら、手のひらに魔力を集めただけだ。

花に魔力を込めて花の精霊が現れるのならば、宙に魔力を込めれば風の精霊でも現れるのではないか、という考えのもと実行した。

それが予想を超え、目に映る自然を司る精霊達が現れるだなんて誰が想像出来ようか。


それからというもの、度々この大樹の元で午後の穏やかな時間を過ごすのが日課となっている。

精霊達は私が認識したからなのか、それとも私という人間に慣れたからなのか、何もせずとも私の周りにいることが多くなった。

四六時中、彼らを目にすることが出来るようになったのだ。


眼福である。

いついかなる時も彼らの愛らしさは失われない。


多少慣れたので、最初の頃ほど「萌え死ぬうううう!!!」とベッドの上で転がりまくることはないが。

一応、枕に顔を押し付けながら叫んだので、周りの人には気付かれていないと信じたい。


「こんなところにいたのか」


いつの間に近付いて来たのか、呆れた表情でこちらを見ているレイシアがいた。

私は慌てて、膝の上にあった魔導書を横に置き、身を整えながら立ち上がる。


「レイシア様、ごきげんよう。それにしても何故こちらに?今日は用事があったはずでは?」


いつもの婚約者同士の交流日であった筈の今日だが、ティクール夫人が用がある為、無しになった筈だ。

ティクール夫人であるナーリィ様と私のお母様は仲が良く、私とレイシアが会う日はお茶会をしているのだが、レイシアが一人でこちらに来ることは今までなかった。


「一人で行動出来るように訴えた。あの親は過保護過ぎる」


苦々しく言うものだから、思わず笑ったら、睨まれてしまった。

ナーリィ様はとてもお優しいのだけれど、そんなナーリィ様に可愛がられているレイシアを想像すると笑える。

だっていつも無表情とか呆れた顔とか顰めっ面をしているから、笑顔が想像出来ない。

ナーリィ様に子ども扱いされるレイシアとか、やばい、見たい。


「そのにやけた顔をどうにかしろ」

「あら、それは失礼致しました」


にやにやとしてしまったようで、表情を引き締める。

淑女たるもの、表情は作らないといけません。

それに微笑みはいいけど、にやけた顔はあまり良くないよね。


「それで、魔法の調子はどうだ?」

「魔法ですか。そうですね……えっと」


レイシアの言葉に私は思わず言い淀めば、レイシアが怪訝な顔で私を見ている。


実は魔法を使えるようになったのだ。

精霊が見えるようになってから、私が魔法の練習をしようとすると精霊達が嬉しそうに私に近寄ってくるので、不思議に思っていた。

よくよく注意して見てみれば、私の魔法に変換されるはずの魔力が精霊達に吸収されているのがわかって驚いた。

確かにレイシアが精霊のせいかもしれないとは言っていたが、自分の魔力を吸われていたとは。

さて、精霊が嬉しそうにしているのはとても可愛らしいし、私にとっても嬉しいことだが、そのせいで魔法が使えないのは悲しい。

なので、ダメ元でお願いをしてみたのだ。

「精霊さん、私、風を起こしたいのだけれど、お願い出来るかしら?」と。

満面の笑みでこっくりと頷いた精霊さん。

突如突風が巻き上がる。

髪の毛とドレスがぶわりと広がり、少しだけ体が浮いて気付いた時には私は尻餅をついて精霊を見上げていた。

一瞬の出来事であったが、呆然としていると、精霊はてへっと言いそうなウィンクとぺろっと舌を出していた。

似合っていて可愛いけれど。

次からはもっと具体的にお願いしようと強く思った。


それ以降も魔法の練習を精霊達と共にしている。

なかなか順調である。


そんなことがあったのだけれど、果たしてこれはレイシアに言うべきかどうか。


ちらりと見やれば、冷ややかな視線でこちらを見ているレイシアと目があう。

何を隠している。言え。

と、目が言っているのがわかる。


「えっと、魔法はですね、レイシア様の言う通り精霊のせいでした」

「ほう?」

「以上です」

「ほう……」


私の言葉に続きを促す相槌に、続きを話さず話を締めれば、唸るような低い声が漏らされた。


「わかりました!きちんとお伝えします!」

「当然だ。そもそも魔法を教えろと言ってきたのはお前だ」

「レイシア様のお教えで魔法を使うことは出来ませんでしたけれど」

「それが教えを請うた後の態度か。いい度胸だ」

「う。申し訳ございません」


確かにお願いしたのは自分だし、それで魔法が使えなかったとしてもレイシアのせいではない。




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