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精霊さん

 



「レイシア様、光る虫をご存知ですか?」


 レイシアは訝しげに「光る虫?」と此方を見、「いや、知らんな」と答えた。

 昨夜、私は蛍を見たのだ。

 なかなか寝付けず、窓から庭を見ていた時に、花壇の中をふよふよと光るものが見えたのだ。

 蛍を久しぶりに見たなぁ、綺麗だなぁ、といつの間にか眠気に支配されていた頭でぼんやり思いながらベッドへと戻り、朝までぐっすりと眠ったのだ。


「もしかしてあれ、精霊だったのかしら」


 蛍は前世の生物であり、この世界に存在しているかわからない。綺麗な川辺に生息する虫がこの辺りにいるだろうか、と考えていると、隣で私を見ているレイシアが映る。


「光るものを見たのか?」

「ええ、昨夜花壇の辺りで」


 恐らく、精霊だろうなと呟くレイシアが溜め息を吐いている。

 不思議に思いながら見ていると、此方を呆れた表情のまま顔を向ける。


「精霊を虫扱いか」

「!?え、いえ、そういうわけではなく!」


 よくよく考えてみれば、確かに精霊に失礼な話だ。だけども、蛍だって素敵な虫だ。なんせ夜にふわふわと漂う光は幻想的だ。まぁ、明るいところで見ればただの虫なのだが。

 とにかく、蛍と精霊を同等に扱ってはいけない。

 精霊とは神秘的な存在である。

 愚弄するのは愚か者のすることだ。


 慌てて弁解しようとする私を、レイシアは片手で制し、どうでもいいと意思表示をした。

 全く、あんたも大概だ。


「で、その後どうしたんだ?」

「寝付けなかった時にたまたま見ただけで、その後は寝てしまいました」


 そうか、とレイシアは頷く。

 黙るレイシアを見て、花壇へと視線を移す。

 そこには花が咲いているだけで、光る精霊らしきものは見当たらない。


 精霊……うーん、視えないなぁ。


 花壇を見渡しながら、私はゲームを思い出す。

 リラネイアが精霊と話す様子はゲーム中に見ることはなかった。

 勿論、主人公にも精霊の類の話は出てこず、精霊が実在することすら本当なら疑わしいのだけど、前世で有り得ないと思っていた魔法が存在するので、完全否定など出来る筈もない。


 花壇の前に座り込み、花を覗きみる。

 薄紫の花。中心が濃く、花びらの端に移るにつれ、薄く色付く花はとても可愛らしい。

 思わず手を伸ばし、花に魔力を込めたらどうなるのだろう、なんてほんの出来心でその花に、力を込めた。

 宝石を魔石にするように。特にどうなるとか考えず、ただ思い付いたからやってみた。


 急に現れたそれは、一体いつの間にいたのか。

 私が触れていた花に抱きつくように、茎の部分に腕を回した状態で、ぱちくりと此方を見ていた。

 私もぱちくりと一つ瞬きをして、その子と目を合わす。


「え?えーと、え?え?」


 徐々に混乱する私。慌てて花に隠れようとして、隠れきれてない小さなその子。


 花は小さく、まだ七歳の私の手のひらと同じくらいの茎の高さしかなく、花は指二本分くらいの大きさしかない。

 そして突然現れたその子は、その花とほぼ同じくらいの大きさしかなかった。


 透けてみえる体、花びらを模したその子の背中から生えている羽。淡い桃色のゆるくウェーブがかった髪の毛。クリクリと驚きながら此方の様子を伺うその様はまるで妖精とか精霊の類のようで……。


 まさか?


「精霊さん?」


 隠れていた精霊は恐る恐る私の前に姿を現し、ふわふわと私の左右に飛び、色んな角度から私を観察し始める。

 私は黙ってその様子を見守っていると、最後に私と目を合わせた彼女はふわりと笑った。


 ぐっ……可愛いすぎる!!


「精霊か?」


 レイシアが驚いた様子で此方へと近寄る。

 精霊は慌てて私に隠れた。


「そのようですね」


 隠れた精霊を振り返れば、こてんと首を傾げられる。


 やばい、これ鼻血もんですわ。


「こんなところでお目にかかれるとはな。やはり、お前は精霊と相性がいいのか」

「私がですか?」

「精霊は滅多に姿を現すことはない。が、お前の前に姿を現した。それが答えだ」


 相性の問題だろうか。

 明らかに原因は、私が花に魔力を込めたからだと思うのだけれど。


 それをレイシアに言うか、少し悩んだが、とりあえず相性がいいということにしておこう、ということにした。



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