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引き分け

スローペース更新でごめんなさい。


それから、数ヶ月が経った。


私が精霊にお願いして使える魔法を精霊魔法と呼ばれていることをレイシアに教えてもらってから、魔法の仕組みとか精霊との関係性とか色々な講義をしてもらい、私は精霊魔法を向上させるために日々、試行錯誤している。


でもさ、ちょっと待って?

レイシアさん、なんでそんな事知っているんですか。

ガチ、あいつ何者状態なんですけど。


さり気なく、恒例となっている交流会でレイシア以外に魔法について聞いてみたが、興味がある程度のもので、それを詳しく話すようなことはなかった。

魔法の仕組みをちらりと話題にしてみたが、みんなきょとんとしてたよね。


ルーファスはそのきょとん顔をすぐに取り繕って、今その勉強をしているところだって言ってたけど。


彼、案外可愛いんですよ。


最初、典型的な傲慢で理不尽な貴族ってイメージが強くて苦手だったけど、仲良くなろうと決めてから、色々話してたらどうやらあっちにも気に入ってもらえたようで。

私が知らないことを聞くと自分を優位に立たせたいのか、次会うときにはどや顔で答えてくれるんだよね。

きっと、すごい調べたり勉強したりしてるんだろうなぁ。

見当違いな答えが返ってくることもたまにあるけど、それが逆に面白かったり。


まあ、疑問に思ったことは私も自分で調べたりレイシアに聞いたりするから、ルーファスに答えてもらう時には疑問は解消されているし、質問するのもルーファスがどんな風に考えてるのかなってちょっと聞いてみたくなったり、意地悪で聞いてみたりしてるだけなんだけどね!


だっーて、あの動揺した顔とかどや顔とか、なんか微笑ましくってね。

かーわいい!ってなるよね。


あんまり子どもらしい子がいないから余計にね。

レイシアさんは当然有り得ないし、ティオも大人びちゃってるし。

つまんないのよね。

ルーファスみたいな、俺が一番だぜってわがままたっぷりの子どもと、ティナみたいな甘えたな子どもが子どもらしくていいと思います。


ティナはもう姉妹みたいに仲良しです。

妹って感じ。

会ったらまず抱き着いてきて、近況報告してきてくれる。

お菓子食べながら、おいしいね!ってにこにこ笑顔って言うからもうまじこの子天使!!って思いながらデレデレしちゃう私です。

ティオは私に対して複雑な感情を抱いてそうだけど、あんまり顔に出さないのよね。

ふとした時に微妙な顔してるから、私がルーファスを構うのが不満だとか、ティナが私に懐いてるのが気に食わないのか。

まあ、普通に話してくれるし、そんなに気にしてないけどね。


そんな様子を最初はぶち壊しにしてくれたルーファスだけど、私が笑顔でねちねちと嫌味を言ったら、大人しく見ているだけになりました。


頭ごなしに言ったら多分あっちも素直になれないから、飽くまで笑顔で。

なんでそんなことするのかとか。

ならどうすればいいのかとか。

どうして怒るのかとか。


質問責めで行きました。

たじたじのルーファスかわゆす。


なんか扱いがわかってきちゃったよね。


ティオが出てきそうもんなら、私が目で牽制して口出しすんなって睨めば大人しくしてくれるしね。

ティナは最近ルーファスを気にしなくなりました。

何かあればすぐべそべそ泣いてたのに、最近は気にせずお菓子を頬張ってます。


私がいれば安心とでも思ってるのかしら?

図太くなられて嬉しいやら悲しいやらお姉さんは複雑な心境です。


レイシアは相変わらず我関せず、の姿勢を崩さない。

前はみんなに話しかけられたりしてたけど、一言二言ですぐに会話終了。


ルーファスが一度癇癪を起こしていたけど、大人な対応を取りつつ、絶対零度な空気にルーファスも黙りこんだのには賞賛の拍手を心の中で盛大に叩いてしまった。


レイシアさんには誰にも敵いません。


これ、私の中で常識になりつつある。

おかしいな、一応前世の記憶がある私の方が精神的には上だよね?

あまりにも冷静で賢いレイシアに私の方がお姉さんなのよ、ふふん、なんて出来る筈がない。


やばい、私がただの馬鹿な子に見える……!



「お前は顔の変化が激しいな」

「顔じゃなくて表情と言って下さい。造形は変わらないはずですが」


本を読んでいたはずが、ついつい自分の世界に入っていた私に、同じように本を読んでいたレイシアがこちらに顔を向けていた。


落ち込む原因をじろりと睨めば、彼は冷めた表情でこちらを見返してくる。

私はそっと視線を逸らした。


「なんでレイシア様はそんなに色々なことを知っているのですか」


ぽろりと出た、日頃の疑問。

何となく聞いちゃいけない気がして、今まで聞いたことなどなかったのに、無意識に口から滑り落ちていた。


まずい、と口を抑えたが、この際だから聞いてしまえと意を決して彼を見た。


そして息を呑む。


どきり、なのか、ずきり、なのかわからないが、私の心が音を立てた気がした。


彼は暗い表情に悲しそうな目をしていた。


目を瞠っている私に彼は小さく息を吐いた。


「書物を読み、人に聞き、自分の目で見て、経験をしていれば自然と知識は蓄えられるものだ」


それは正しい。

最もな意見だと思う。


だが、それは私の意図する質問の答えではない。


つまり。


「言いたくない、ということですか」

「……お前こそ、なんだ?」


ドキッと肩が上がる。

なんだってなんだ。

確かに私だって秘密くらいあるけど、立派な人間ですよ!淑女ですよ!

まるで人間じゃない何者かみたいに言われたことに対してドキッとしちゃった自分が悲しい。


態度でもろ反応してしまった私を彼はじっと見つめている。


「どういう意味です?」

「わかっているんだろう?」


質問に質問で返さないで頂きたい。


「なんだなんて言い方は失礼だと思います。もっと違う言い方はないのですか」


批判するように言えば、レイシアは仕方がないと言いた気にぞんざいに言う。


「お前こそ何を知っているんだ」

「何をと仰られましても」


前世を、だなんて信じられないですよね。

それがさらにこことは違う文明の発達した世界だとも。


「お前は俺と同い年だったな?」

「ええ。いつもの交流会に集まっているのは全員同じ年だからこそですから。私とレイシア様も例に違わず七歳でしょうね」

「普通の七歳とお前がどれほど違うのか考えたことがあるのか?」


あーあーそうきましたか。

そうですよね。

おかしいですよね。

わかってますよ。

でもね?


「その言葉、そっくりそのままお返しさせて頂きますわ」


にっこりと笑って返す。


たじろぐ様子もなく、ただ黙ってこちらを見ているレイシア。



この勝負、今回は引き分けと致しましょう。





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