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経験値貯蓄でのんびり傷心旅行 ~勇者と恋人に追放された戦士の無自覚ざまぁ~  作者: 徳川レモン
第二章

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50話 女王に捕まる戦士


 バンッ。王子が勢いよくドアを両手で開ける。


「何事ですかヒュンケル。王子なら礼儀をわきまえ――」

「母上! アンナを助けてくれた者達へ褒美を!」

「待ちなさい。話が突然すぎます」


 王子が飛び込んだのは女王のいる謁見の間だ。


 玉座には煌びやかな姿をした女王が、臣下と話し合いをしている最中だった。

 部屋の中はざわつき、臣下や騎士達は脇へと下がる。


 遅れて入室した俺達は非常に居心地の悪い状態だった。


「それと、ここでは陛下と呼べと何度言ったら分かるのですか」

「しまった。そうだった。すまない母上」

「言った傍から!」


 女王は椅子から立ち上がり、王子の頭を扇子でパシンッと叩く。


 だが、王子は意に介した様子はない。

 叩かれ慣れているのか待ちの姿勢で平然としている。


「どうしましょ、頭を叩きすぎてバカになったのかしら」

「安心してください母上。元からです」

「そうでしたね。我が息子は以前からこうでした。何も安心できませんけど」


 女王は諦めたように玉座へと戻る。


 彼女は軽く手を振り、部屋から騎士以外の者を下がらせた。

 それから俺達に観察するような目を向けてきた。


「どこにでもいる冒険者のようね。アンナを助けるには上級解毒薬が必要だったと思いますが、それを彼らが手に入れてくれたのかしら」

「さすがは母上! 察しが良い!」

「はぁぁ、単純な話でしょうに。どうしてこの子は、はぁぁぁ」


 額を手で押さえうなだれる女王。

 深い溜め息に心労が窺える。


 どうでもいいがそろそろ帰りたい。


 褒美があるならさっさともらいたい気分だ。


「ではその者達に百万ずつ渡しなさい。それでこの話は終わりです。わたくしは今、大変忙しい身、そのことは貴方もよく分かっているでしょうに」

「それとこれとは別だ母上。国の一大事も、アンナの一大事も、同じくらい僕には重要なことだ。百万などとは言わず、一人一千万は出さなければ、加えて未来の王妃の命を救ったことを称え勲章を授けるべきだ」


 おいおい、勲章だって?

 そんなもの受け取るわけないだろ。


 たまたま手元に薬があって渡しただけなんだぞ。


 女王はすでに頬杖を突いて不満そうな顔だ。

 息子のバカな発言を黙って聞くのはこれが初めてではない、そんな雰囲気をひしひしと感じる。


「貴方の主張はよく理解しました。で、そこにいる者達の紹介はまだなのかしら」

「おおっ、そうだった! トール、自己紹介をしてくれたまえ!」


 いきなりこちらに話が振られる。

 非常に面倒だがここは名乗ることにしよう。


「漫遊旅団のトールだ。こっちがカエデ、そっちがフラウ、それからこいつがパン太だ。今は旅をしながら観光をしている」

「漫遊旅団……最近噂になっているあの?」


 呟いた女王は俺の腕輪を見てハッとした様子だった。


 彼女は口元に指を当てて黙り込み、それから何かを思いついたのか笑みを浮かべる。

 それからすぐに服装を正し、姿勢もきっちりと正した。


「よくお見えになられた漫遊旅団の方々。義理の娘となるアンナを助けてくれたこと、一人の母親として感謝をさせていただきます」

「大したことはしていないのだが……」

「ところで話は変わりますが、貴方方はこの後どのように過ごされる予定でしょうか。やはり冒険者らしく割の良い仕事とか、お探しではないのですか?」

「それはまぁ」


 女王の目が光った気がした。


 嫌な予感がする。

 面倒事が舞い込んでくる匂いだ。


 慌てて「用事があったのでこれにて」と退室しようとすると、騎士によって扉が閉め切られ閉じ込められた。


「お噂はかねがね聞いておりますよ。魔王直属の配下を二人も倒したと。ぜひ三人目も倒していただけませんか。もちろん報酬ははずみます」

「ちょ、おい」


 別の騎士が俺の両腕を掴み、女王の前へと強制的に戻す。


 話を聞くまで逃げられない状態らしい。

 ここは女王の腹の中だった。


「ふふ、落ち着いてお話ができそうですね」


 女王は嬉しそうに目を細めた。



 ◇



 グリジットの首都より、二つの街と三つの村を越えた先に山脈が存在する。

 隣国グレイフィールドへ行くには、その山脈を越えなければならない。


 だがしかし、二週間前より魔族が、国をまたぐ街道を占拠しているそうなのだ。


 すぐに女王はこの魔族の掃討作戦を開始した。


 結果は壊滅。


 敵は魔王直属の幹部率いる少数精鋭部隊だった。


 これに頭を抱えた女王は、勇者のいるバルセイユへと助力を求めた。

 だが、その勇者が一向に来ない。

 すでにここへ着いていなければならないはずなのに。


 またもや頭を抱えていた女王の前に、都合良く俺達が現れたというわけだ。


「王子と女王にはめられた感じだな」

「いいじゃないですか。人の為世の為は漫遊旅団の為ですし」

「お前はほんと、俺には勿体ないくらいの奴隷だよ」

「えへへ」


 隣を歩くカエデの頭を撫でる。

 さりげなく俺のお尻に尻尾がすりすりされる。


 そう言えば遺跡から出た、シャンプーとリンスとやらを使っているおかげなのか、ずいぶんと髪艶が良くなった気がする。

 さらりとしていて撫でるこちらも気持ちが良い。


 狐耳もふわふわしてて撫でると、ぺたっと垂れ下がる。


「あっ」


 カエデが小石に躓き、咄嗟に俺の服の裾を掴んだ。


「すいません! うっかり!」

「気にしてないさ。足下には気をつけろよ」

「はい」


 なぜかカエデが裾を離さない。

 俺の目をじっと見ていて、何かを言いたそうだ。


「あの、しばらく握ってて良いですか」

「構わないぞ」

「ごしゅじんさま!」


 ぱぁぁ、花が咲いたように笑顔となる。

 彼女はモジモジしながら、裾をつまんだまま少し後ろから付いてくる。


 やっぱり俺の奴隷は可愛いな。


「いいなぁいいなぁ、フラウもカエデサイズで生まれたかったなぁ」

「きゅう?」

「あんたには関係ない話よ。白パン」

「きゅう!」


 頭の上ではフラウとパン太が今日ももめている。

 仲が良いのはいいことだ。


 だが、後方から呆れたような溜め息が聞こえた。


「なんでこんな奴らに付いていかなきゃいけないんだよ」

「団の為にゃ。嫌なら一人で帰るにゃ」

「はっ、さらに最悪だね。オルロスの怒鳴り声を聞かなきゃならないんだ」

「じゃあ黙って同行するにゃ。良い男は余計なことは喋らないにゃ」


 ポロアが舌打ちする。


 今回の魔族討伐には同行者がいる。

 それが炎斧団フレイムアックスのポロアとリンである。


 彼らはグリジット王室とも懇意らしく、俺達の協力者兼監視者として派遣された。


 何故この二人なのかは簡単な話で、比較的俊敏性が高く、魔族相手でも逃げられる可能性が高いからだ。


「トールとか言ったっけ? お前本当に強いのか?」

「どうしてそう思う」

「実はさ、こっそり鑑定のスクロールでステータスを見たんだよ。なんだよレベル50って、相手は100を越えているかもしれないんだぞ」


 俺は偽装の指輪でレベルを50に誤魔化している。

 スキルだって、ダメージ軽減、肉体強化、スキル効果UPしか表示していない。


 過去の英雄クラスと比べれば鼻で笑われるレベルだ。


「俺達は個人ではなくパーティーに英雄の称号を授かっている。できれば個の力じゃなく全体で見てもらいたいな」

「言っちゃ何だが、それくらいだったら炎斧団フレイムアックスの方がふさわしいね。多くの英雄を輩出してきたアルマンもとうとう地に落ちたかな」

「言い過ぎにゃ。そりゃあわたしだってちょっと不思議には思ってるけど」


 ポロアは「だろっ! 絶対おかしいって!」などと声を荒げる。


 金を積んだだの、知り合いの貴族に頼んで称号をもらっただの、本人達がいる前で言いたい放題。

 まぁ、俺からすればどうでもいいことだが。


 言いたい奴には言わせておけ、が昔からのスタンスだ。


 ちなみに現在、俺達は断崖絶壁の細道を進んでいる。

 どうやらここは近道らしい。


 がらっ。


 真上から大きな岩が転がってきた。


「あぶないっ!」

「早く避けるにゃ!!」


 いち早く気が付いた後ろの二人が声を発する。


 べしんっ。


 俺は蝿を叩くように、岩を軽く手で弾いた。

 岩は空の彼方へと消える。


 そうか、こんなところだと岩が降ってくるんだな。


 一応気をつけておくか。


 その後、後ろの二人は恐ろしいほど静かになった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 女王の手のひら返しの酷さもそうだけど、せっかくステータスを隠蔽してるのにその意味が無いような気が⋯⋯。
[一言] まぁ、大岩を蝿を叩くように軽く叩いただけで空の彼方へと吹っ飛ばしていくのを見たらなにも言えないわな
2022/02/21 21:11 退会済み
管理
[一言] この国の将来が心配だが、それ以前にそもそも国王が市長さんレベルの威厳しかないのが・・・ ムコーダさんやお孫さんとこの国王だって、もっと威厳あるのに
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