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経験値貯蓄でのんびり傷心旅行 ~勇者と恋人に追放された戦士の無自覚ざまぁ~  作者: 徳川レモン
後日談

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戦士と南方大陸1


 いよいよ本格的な南方大陸の調査が始まった。


 妻と子供は島に置いてきた。連れて行くのは限られた団員のみ。

 俺、タキギ、キアリス、ベナレに他十五名を加えた総勢十九名である。


 いずれも今日の為に準備を入念に行ってきた。俺を除く平均レベルは5万。異大陸なら古の魔王に一目置かれる強さである。だがこれでも不安を拭いきれないのが南方大陸だ。


 俺達は乗ってきた遺跡船『ルオリク号』を沖に停泊させ小舟で陸を目指す。

 先の浜辺では多数の冒険者が続々と小舟から下りていた。


「見覚えのある顔がちらほらあるな。いずれも名の知れた冒険者と記憶している」

「やる気なのはウチだけじゃないってことじゃんよ」


 ここは南方大陸の最北端だ。

 沖にはルオリク号の他に三十を超える船が錨を下ろして停まっている。あれらは全て何らかの目的を持ってこの南方大陸にやってきた連中だ。


 小舟から浜辺へ足を着けた俺は指示を出す。


「各自不要な物はストレージに収納しろ。抱える荷物は最低限にしておけ。万が一はぐれた場合に備えて一人につき一つ、メッセージのスクロールを渡しておく」


 目配せすると遊団長達がスクロールを配り始めた。


 ここにいる遊団長を除く十五名は精鋭中の精鋭である。別名『地獄漫遊隊』だ。俺を含めて全員、いつ死んでも良いように遺書を書いてある。もちろん死ぬつもりはない。最悪に備えてのことだ。


「ひやぁああああっ!? なんだこいつ!?」


 浜辺に悲鳴が響く。どうやら魔物が暴れているようだ。

 俺達は音のする方へ走った。


「あれは――魔物なのか?」


 暴れているのは身の丈十メートルはありそうな腕が四本ある一つ目の巨人であった。


 魔物は手当たり次第に冒険者を虫を殺すように手のひらで叩き潰す。

 外見からトロール系統の魔物だろう。


 俺が片付けるべきか、その一瞬の逡巡の間に二人の冒険者が動いた。


「一刀瞬殺でござる」

「あはっ、その首いただき」


 着物姿の男が縦に真っ二つにし、立派な防具を身につけた長髪の男が大鎌で首を切断した。

 ほぼ同時であった。俺には非常に遅く感じたが、周囲の様子を見るに恐ろしく速い攻撃だったのだろう。


 大鎌の男は髪を潮風になびかせながら顔に付いた血液を舌で舐めとった。


「俺様の獲物を奪うんじゃねぇよ。サムライ野郎」

「文句を言われる筋合いはござらぬ。貴殿が名前を書いていたのなら謝罪もやむを得なしであるが、見ての通りこの魔物に名前はないでござる」

「あぁ?」


 サムライと長髪の男がにらみ合う。


「あの二人、有名な冒険者じゃんよ。片方は極西出身の不思議な剣術を使うダイスケ・チバ。もう一方はあの有名なクリスナダムの『第六聖雄騎士団ゼックスナイツ』に所属するスパイク・スターズじゃんよ」

「ああ、どうりで」


 クリスナダムは十二人の勇者を抱える国として有名だ。特に勇者を中心に設立された聖雄騎士団は、騎士団でありながら冒険者の活動も行っており内外共に高く評価されている。かつて俺達に警告してくれた『第四聖雄騎士団ドライナイツ』も『十二聖雄騎士団』に所属していたそうだ。


 ふと、俺はサムライに強く意識が向いた。


 チバ・・・・・・チバ・・・・・・? どこかで聞いた名だ。どこだっただろうか?


「おい、そろそろ出発するぞ。団長ならちゃんと指揮をしろ」

「悪い」


 キアリスに怒られた俺は、慌てて仲間の元へ駆けた。



 ◇



 南方大陸は想像を遙かに超えたまさしく地獄のような場所であった。


 1万レベルを超えていなければ太刀打ちできないような怪物がそこら中にいて、保有する能力も厄介極まりなかった。その分得られるものも大きくもあった。


「――後ろ、警戒しろ! 双頭フレイムウルフの炎が来るぞ!」

「心配無用。防ぐ」


 ベナレが三節棍を棒状に変化させ、双頭フレイムウルフの吐き出す炎を防いだ。

 間髪入れずキアリスがすれ違いざまにウルフを斬る。


 相変わらず奇声を発しているが、あれは直る見込みのない癖だ。個性的で俺は好きだが。


 現在、俺達は溶岩が噴き出す遺跡を攻略中だ。

 位置的には最初に上陸した浜辺からそれほど遠くない。


 他の上陸者達もすでに各地の遺跡を挑戦中とのことだ。


 ただし、尋常でない敵の強さから苦戦しまくっているとも聞く。すでに二つの遺跡を攻略しているウチは一歩も二歩も先を行っていると思われる。


 俺も手刀で溶岩蜘蛛を斬りまくる。

 こいつらの吐く糸は強靱で熱に強い。


 遺物もそうだが得られる素材も非常に価値がある。島の開発と今回の遠征で漫遊旅団の財布はカツカツ状態であったが、この調子なら黒字になるのも時間の問題だ。


「麻痺煙を使うじゃん。全員息を止めてるじゃんよ」


 タキギが試験管を地面に叩きつけ、麻痺性の煙を放つ。


 煙は奥から吹く風に流され一分もたたず消えた。

 だが、それだけで効果絶大だ。魔物は動きが鈍くなり動けなくなる個体も出てくる。こうなればあとは片付けるだけだ。


「休む暇もないじゃん。死人が出てないのが奇跡じゃんよ」

「確かにそろそろ休みが欲しいところだ。遊団長である我々はともかく団員の多くは疲労で思考力も落ちている。ここを攻略したあとは本隊の合流に備えるべきだろう」


 キアリスが『団長だろ。ちゃんと状況を見て決断しろ』と目で訴えていた。


 こうして遺跡攻略をしているが、俺達の役目は上陸地近辺の調査と拠点の建設である。あくまで先遣隊のようなものであって、一ヶ月後に控えた本隊合流に向けて準備しなければならない。


 しかしながらすでに拠点建設は終え、近辺の地図も作成済みだ。食糧と水の備蓄も数週間分ありすでにやることがなくなっていたのだ。俺としてはもっと大陸の奥へ行きたいところなのだが、団員に止められたので近辺をうろつく程度で我慢している。


 地獄と言ったが俺にとってはかなり楽しい場所だ。全てが謎に包まれていて冒険心をくすぐられる。


「団長、遺物を見つけたじゃん」


 タキギが部屋らしき空間から顔を出して呼んだ。


 部屋の中には石で作られた箱が無数に置かれていた。

 箱を開けると初めて見る遺物がぎっしり詰まっている。


 目の付いた壺なんかは最近見たばかりだ。生けた花を一年以上保たせられる遺物である。比較的よく見つかるレア度の低い遺物ではあるものの南方製というだけで高額で取引される。


「これ、すごい遺物みたいですよ」

「どれどれ」


 鑑定スキル持ちの団員から渡されたのは心臓の形をした品であった。


 毒々しい紫色をしていて金属のように硬質だ。だが驚くほど軽い。

 聞くところによれば所持するだけで得られる経験値を二倍にできるそうだ。


 一人しか効果が得られないのが欠点であるが、驚くべき品であることは間違いない。


 他にも一時的に人狼になることができる品や毒を完全無効化を付与できる品など大収穫であった。


「貴様ら、ぎゃ!?」


 団員の一人が悲鳴をあげる。


 振り返ると大鎌に血を滴らせた『第六聖雄騎士団ゼックスナイツ』のスパイクがいた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。新たな舞台登場? かの三鬼衆、本人かそれとも縁者か?真団長として団員達を指揮しているトールが新鮮、よく考えると元々パーティーリーダーだから問題ないか。 キアリスがトールの…
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