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経験値貯蓄でのんびり傷心旅行 ~勇者と恋人に追放された戦士の無自覚ざまぁ~  作者: 徳川レモン
第六章

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221話 戦士はクソ野郎を地獄へ蹴り戻す4


 二百人のザウレス。


「レベルは1000程度だが能力は同等だ。油断しない方が良い」


 こんな攻撃手段もあるのか。

 どうなってんだあいつの体。


 二百対三人の戦いが始まる。


 本体であるザウレスはその場から動かず眺めていた。


「フラウはカエデを守れ。俺は一人でなんとかする」

「ですがご主人様!」

「カエデ、よそ見している場合じゃない! こいつら思ったより素早い!」


 ザウレス(複製)は言葉を交わすことなく攻撃を繋げてくる。

 斬っても斬っても即座に再生しきりがない。まるでゾンビのよう、再生しない分ゾンビの方がまだ可愛げがあるかもしれない。


「私の魔法で一網打尽にします!」


 敵を引き連れながらカエデに合流する。


 カエデが濃密な魔力を集中させる。

 どうやら広域魔法を撃つようだ。


 上空を黒い雲が覆う。


「終月白降殿!」


 一気に気温が氷点下まで低下し、雲は九つの渦を巻いて螺旋を描きながら地上へ達した。極寒の風が大地を凍らせ純白の世界に変貌させる。


 ザウレス(複製)は残らず氷像と化した。


 とんでもない魔法だ。

 超広域魔法とでも呼べばいいのか。


 本体であるザウレスは炎のドームを創り攻撃を防いでいた。


「抵抗値を無視した魔法、私を倒す可能性のある力か。排除を最優先にしなければ」


 カエデを狙ってザウレスが動き出す。

 首を狙った横への一閃に俺は縦の一閃で阻む。


「させるか」

「退け」

「フェアリィフラッシュ!」

「なっ!?」


 至近距離でフラウが体から光を放った。

 前もって知っていた俺は目を閉じてやり過ごし、視覚が麻痺している奴へ刃をたたき込む。


「まだ理解できないか。私には勝てないと」

「俺だけならな」

「葬炎装束鬼狐!」


 蒼い炎に包まれたカエデがザウレスを殴る。

 タマモが使っていた魔法だ。殴る度に肉体は凍り付き拳はさらに加速する。


「ようやく顕現できた、私が! 女!」


 ザウレスが魔法を放とうと手を伸ばす。


 だが、俺は刹那に腕を斬り飛ばした。


「おとなしく、しんでろっ!」


 フラウが強烈な一撃をたたき込む。

 ザウレスは真っ直ぐ地面に叩きつけられた。


「驚いたよ。ここまで追い詰められるなんて計算外だ」


 ぴきぴきとカエデの魔法がその肉体を凍り付かせて行く。

 もう間もなくこいつは身動きすらとれなくなる。


 ずががががが。

 地面から次々に触手が飛び出し俺達を絡め取る。


 なんだとっ!?


「私は人のようだが人ではない。この形状は扱いやすさの他に騙しやすさもあってとっているのだ」


 ザウレスは凍り付いた部分を全て切り捨て元の形状を復元する。


 起き上がった彼の背中からは大量の触手が伸びていた。

 地中へ密かに張り巡らせたのか。


「あわわ、これってめちゃくちゃヤバい状況じゃない?」


 ばちち。どこからか発生した稲妻が触手を焼いた。

 しかし、触手の数が多すぎて解放されるにはほど遠い。


 俺達に管が突き刺される。


 肉体は弛緩し、自分の中にある何かが吸い取られる感覚があった。


「レベルを下げ、それからゆっくりとスキルを奪うとしよう」

「や、めろ」


 力が抜ける。


 ステータスを開くと、レベルが下がり続けていた。


 カエデとフラウが懸命にもがくも、触手がほどける気配はない。

 このままでは経験値を残らず吸い取られてしまう。


 シュッ。ドシュシュ。


 触手がちぎられ俺達は地面に落ちる。


「ぐぉおおおおおおおおお!」


 大きな塊が降ってきて、ザウレスは反射的に後方へと飛び下がった。


 重い音を響かせ着地したのは、見上げるような獣だ。

 その背中に乗るのは三人。


「敵、なのでしょうね。あれは」

「トール達がいるデース!」

「見たか、我が弓の腕前を」


 マリアンヌ、モニカ、アリューシャだ。

 俺達は麻痺していることもあって動けないまま。


「薬を、頼む」

「ストレージをお借りしますわね」


 マリアンヌが薬を取り出し飲ませてくれる。

 なんとか体は動くようになったが、レベルはちょうど3000になっていた。


「そのレベルで戦うつもりか」

「ハンデだよ」


 大口を叩いてみたものの、まったく勝てる気がしない。


 どうすればこいつを倒せるんだ。

 唯一可能性があるのはカエデの魔法だが。


「もう魔力が」

「魔力貸借を使えば――」

「そうではなく、総量が減少してしまったのです。これでは九尾の魔法がほとんど使えないことに」


 あの蒼い炎の魔法はかなりの魔力を消耗するそうだ。今のカエデでは氷結葬火を撃つだけで精一杯らしい。通常の氷魔法ではあれには効果も薄いだろう。状況はますます厳しいものに。


 いっそのこと逃げるか。いや、奴が見逃すとも思えない。


「最後の手段が残っています」


 彼女の覚悟を決めた目を見て嫌な予感がした。


「大婆様に使うなと堅く禁じられましたが……」

「待て、カエデ!」

「約束を破ることになり申し訳ありません。ですがご主人様を救うにはこれしかないのです。今日までの楽しい日々は私の宝物です。貴方に会えて本当に良かった。私はトール様が大好きです」


 やめてくれ。

 最後の言葉みたいじゃないか。


「氷滅界!」


 ザウレスへとカエデが向かう。

 次の瞬間、二人を蒼い球体が包み込んだ。


「これはまさか!? 自爆するつもりか!」

「ご主人様をやらせはしません。地獄までお付き合い願います」


 周囲に稲妻が発生し、強い風が吹き荒れた。

 そして、激しい閃光が発生し、二人は跡形もなく消える。


 二つの鉄扇が落ちてきて地面に突き刺さった。


「あ、ああ……」


 俺は脱力して両膝を地面に突いた。


「主人を助けたつもりだろうが完璧な死に損だ」

「!?」


 ぐにょりと真っ黒いスライムが瓦礫の陰から姿を見せる。

 それはザウレスの形となった。


「保険として体の一部を潜ませていた。レベルは2万とずいぶん落ちたが、それでも君達を殺すには十分だろう?」


 ばちっ、ばちち。

 俺の激しい怒りに同調し、稲妻が迸る。


「いやぁぁああああああ! カエデ、カエデが死んじゃった! なんで!? どうしてこんなことになるの!?」


 フラウは泣き叫び取り乱していたが、俺には気遣いをする余裕などなかった。


 怒りだけが俺を現実に引き留めていた。


 大剣から蒸気が噴き出す。

 身につける全ての聖武具から黄金の光が放出された。


 お前も怒ってくれるのか。

 そうだよな、ずっと一緒に旅をしてきた仲間だもんな。


 力を貸してくれ、相棒。


 カエデの鉄扇が光となって俺の聖武具に吸収される。

 フラウの手元にあったハンマーも光となり吸収。


 遠くから8本の光が軌跡を描き俺へと落ちる。


 ここに十二の聖武具が揃った。


 聖武具は俺の右手に集まる。


『聖波動極大霊滅機二十七式、解凍』


 どこからか声が響く。

 俺の右手には神々しい大剣が握られていた。


「馬鹿な、内側から強制解除したというのか!? そんなことできるはず――まさか最初から権限を!?」


 ザウレスはひどく怯えていた。

 これの力を知っているのなら当然だ。


 俺のレベルは聖波動極大霊滅機二十七式によって一時的に30万に達していた。


 大量の魔力が吸い取られる感覚があった。

 俺から発生する稲妻は強力になり、無差別に何もかもを焼いていた。


 優しく殺して貰えると思うなよ。クソ野郎。


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