表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
経験値貯蓄でのんびり傷心旅行 ~勇者と恋人に追放された戦士の無自覚ざまぁ~  作者: 徳川レモン
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

171/241

168話 鼠の頬袋が膨らみ戦士は玉を投げる


 ヘンゼルのおっさんが木箱を置く。

 現在は蛮族スタイルをやめ、鎧を着込んだ将軍らしい恰好だ。


「いでで」

「無理すんなおっさん」

「このくらいどうってことない。ドワーフの身体はヒューマンよりも頑丈にできているって知らないのか」

「知らん。つーか、あんまり動くと傷口が開くぞ」

「そんときはあのビーストのお嬢さんに頼むさ」


 彼は腹部に包帯を巻いていた。


 カエデのスキルで塞いではいるが、まだ完治したとは言えずダメージは残っている。

 タフなのは認めるが今は安静にするべきじゃないだろうか。


「じっとしていると余計なことを考えてしまう。頼むから放っておいてくれ」

「分かったよ」


 おっさんの真剣な目に俺は頷くしかできない。


 先ほどの戦いで少なくない犠牲者を生んだ。

 集落の場所も知られ、のんびりしていられない状況。


 国王は最後となるだろう、祖国奪還作戦を命じた。


 そして、現在。


 王都の近くへ物資を運び込み、着々と突入の準備を進めている。


「おい、若いの。注文されたとおりの品を作ったぞ」

「サンキュウ」


 武器屋の店主が馬車で運び込む。

 俺は荷台へと回り、木箱の中身を確認した。


「注文通り鉄の球を三百個ほど作った。しかし、こんなのが本当に役に立つのかね」

「立つんだよ。俺みたいな奴にはさ」


 木箱に入った鉄の球を確認しつつ、店主に返事をする。


 質は下の下、作りも雑。

 だが、これでいい。


「皆さ~ん、お食事ができましたよ~」


 カエデが俺達へ声をかける。

 五十人の兵は鼻の下を伸ばしてデレっとした。


 相変わらずウチの奴隷はどこに行ってもモテモテだ。





「――漫遊旅団には囮を頼みたい」

「派手に暴れろってことか」


 パンをちぎりつつ俺はヘンゼルの言葉へ応じる。


 王都へ攻め込む部隊は二つ。

 堂々と真正面から王都へ攻め込む部隊と、密かに内部へと攻め込む部隊だ。


 あくまでも俺達は保険であり、本命はヘンゼルの率いる討伐部隊。


「おっさんらだけで勝てるのか。魔王に」

「その為にガルバランへ遠出までして、遺物をこつこつと集めてきた」


 おっさんは袋をひっくり返し、テーブルに遺物をぶちまける。


 が、俺には何が何だかさっぱりだ。

 傍で控えていたエプロン姿のカエデが、鑑定で一つずつ効果を確認する。


「マジックシールドのスクロール、魔力封じの鎖、粘着玉、閃光玉、身体強化薬、魔力増強薬、それからスキル封じのスクロール」


 マジックシールドのスクロールは、一定時間魔法を防ぐ膜を作り出す。


 魔力封じの鎖は、縛った者の魔力を封じ込めることができる。


 粘着玉はべたべたした粘液が飛び出す玉で、閃光玉は破裂すると眩い閃光を発する玉だ。


 身体強化薬と魔力増強薬はその名の通り、筋力と魔力を一時的に増強するわけだが、副作用として肉体にかなりの負荷がかかる。

 二つ同時に使えばしばらく動けなくなるだろう。


 最後のスクロールはよく知っているので割愛する。


「よくこれだけ集めたな。金なんてほとんどなかっただろ」

「陛下の私物を少々売り払ってな。結婚指輪まで売っていただいたのだ、この作戦は必ず成功させなくてはいけない」

「本気なんだな」

「もう後はない」


 俺はマジックストレージを広げ、今まで集めた遺物をそれらに追加する。


 ハイポーション。

 最上級解毒薬。

 最上級解呪薬。

 身体強化薬。

 魔力増強薬。

 煙玉。

 速度上昇の指輪などなど。


 どうせ売っても大した金額にはならないものばかり。

 今の俺達には使いどころなくて死蔵していた。


 道具だって真に必要とする者に使われたいだろう。


「いいのか……こんなに」

「死なれたら目覚めが悪いだろ。俺は明日も明後日も、美味い飯を食って美味い酒を飲みたい」

「すまんな。恩に着る」

「無理だと判断したならすぐにでも煙玉をあげろ」


 ヘンゼルの部隊が失敗した場合、赤い煙玉をあげることになっている。

 その後、彼らは撤退し、表にいる俺達にルドラ討伐の任が移る。


 ま、おっさんらが宮殿へ着く頃には、俺達も敵の軍を壊滅させてるかもな。


 よほど強い敵が出ない限り。


「そう言えば、フラウはどうした。パン太も」

「おかしいですね。先ほどまでこの辺りにいたのですが」

「ぢゅ」


 岩鼠が両頬を膨らませていた。


 ……まさかな。


 しかし、フラウ&パン太とよく遊んでいるのはこの鼠だ。


 一応聞いてみるか。


「お前、フラウとパン太を知らないか?」

「ここよ、主様フラウはここよ!」

「きゅ!」

「ぢゅう?」


 鼠の頬がモコモコ動き、中から声が聞こえる。


 鼠がぺっ、と吐き出したのは一人と一匹だった。


「あんた、助けてあげたのに恩を仇で返すなんて!」

「きゅう、きゅきゅ!」

「ぢゅ~?」


 鼠は露骨に馬鹿にしたような表情を浮かべ、俺の方へと近づき顔を擦り付ける。


 こいつふわふわしてて気持ちいいな。

 顔つきも鼠よりも太ったリスに近い感じだしさ。


「可愛らしいですね」

「だな」

「ぢゅ」


 カエデと一緒に頭や背中をさすってやる。

 鼠は顔を前足でくしくししてリラックスしていた。


「だまされないで、そいつは敵よ!」

「きゅう、きゅう!」


 フラウとパン太がなにやら訴えていたが、食事会は滞りなく進んだ。



 ◇



 俺達は足を止める。

 前方には目的地のビックスギアの王都があった。


 だが、ルドラの兵が横に展開し行く手を阻む。 


 兵数はおよそ三千。


 たった三人に向けて放つ数ではない。


 待ち構えている点には引っかかりを覚える。

 こちらの動きが読まれていたか。


「ずいぶん警戒しているみたいね」

「ご主人様へ敵意を向けるなんて、とても正気とは思えません。本来ならば即時降伏し投降するべきなのです」

「そうよね、投降すれば生き延びることもできるのに」

「何をおっしゃっているのですかフラウさん。ご主人様に刃向かった時点で万死に値する愚行です。たとえ降伏しても死は免れませんよ?」

「あんた時々、怖いわよね」


 フラウもカエデも戦いを前にして緊張はしていないようだ。

 いい意味でリラックスしている。


 魔王と戦うのはこれが初めてではない。だからだろう。


「きゅう!」

「お前は戻れ」

「きゅう、きゅう!」


 パン太がいやいやと身体を横に振り、自分も戦う的な訴えをする。


 気持ちは嬉しいが人には向き不向きがある。

 特に眷獣は明確な目的があって作られた存在、戦闘用ではないパン太では荷が重すぎる。


 頭を撫でて「分かってくれ」と強引に刻印に戻した。


「ロー助、チュピ美、クラたん出ろ」

「しゃ!」

「ちゅぴぴ!」

「くら~」


 三体の眷獣が出現し、即座に戦闘態勢へと移行する。


 まだ敵とは距離があるが、すでに向こうはこちらに気が付いているだろう。

 王都から続々とワイバーンが飛び立っている。


 向こうも油断はない、ということか。


「じゃあ始めるか」

「はい」

「りょーかい」


 よっこらしょ、とマジックストレージから鉄の球が収められた木箱を持ち出す。


 俺達はそれぞれ球を掴んだ。


 球は三百個ある。

 これだけあればそこそこ数を減らせる。


「せーのっ」


 俺はかるーく球を敵へと投げた。


 どぉおおん。


 敵のど真ん中で土煙があがった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 いよいよ始まったビッグスギア戦。トール達は三千の兵達へのおとりか。300個、いや300発の大砲がうなる!? [気になる点] ルドラ軍がトール達の進軍を予測してきたので今…
[気になる点] ネズミに食われたり共に戦えなかったりと、パン太が可哀想だと思いました。 [一言] 主人公のパワーなら、鉄球を水平に投げてもかなりの数を倒せそうですね。 後は、ワイバーンを撃ち落とすとか…
[一言] どっかの海賊漫画の中将みたいな事し始めたw
2021/05/30 03:40 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ