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訪問聖女と黄金の杖  作者: KMY
第8節 黄金の杖
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本編 エピローグ

メル市からホリア村までは、馬車で約1日かかる。浮遊魔法で移動すれば約1時間である。だから普通は浮遊魔法で移動する。

しかし今日の私たちは、乗合馬車で移動していた。


馬車に居合わせた人たちは、全員が聖女と一緒に乗れてラッキーと喜んでいた。御者には、聖女からは代金を受け取れないと言われている。そんな中、隣のフローラが私の背中をさすっている。


「大丈夫です、少しずつ慣れていけばいいですから」

「‥‥うん」


私――ロゼールは、馬車に揺られて、猛烈に落ち込んでいる。理由は簡単だ。聖女就任式で失敗したのだ。


つい昨日、メル市で新しい聖女が国を守ることをアピールするための就任式があった。これは本来王都でやるべきものだが、まずメル市で就任式を行い、王都がある程度復興したタイミングでこれとは別に披露式をやることになった。王都でやらない理由は、式を開くほどの体力が王都にはないからなどといろいろ理由はつけられているものの、それらが全て後付けであることは言うまでもない。


そして私は、新しい聖女になるとアナウンスがあった瞬間、前世の嫌なことを思い出して過呼吸を起こしてしまったのだ。大勢の目の前で、頭がキーンとなるくらい意識が薄れてきて、人前でフローラに介抱してもらった。これほどの式なのでさすがにフローラがつきっきりというわけにもいかず、父と兄が飛び出してきて私を運んでくれた。そのあとフローラは聖女として、そして王位継承者として演説したが、私の分の演説は、用意していた原稿をフローラが代読する形になった。


「‥‥恥ずかしい‥‥頼りない聖女って思われたかなあ」

「イザベラ猊下が自殺したという話はすでに市中に広まっていますから、今更ですよ。もう一度聖女をつとめることになっただけでもすごいと尊敬を集めておりますから」

「‥‥そんなものかなあ」


と、その時、向かいに座っている少年が両隣の友達っぽい少年から「ほら、お前言ってみろよ」と背中を叩かれているのが見えた。おとなしそうで影の薄い少年だった。


「あ、あの! 質問いいですか?」

「はい」

「お二人が結婚なさるのって、本当ですか?」


ん? 待って。私はフローラを見た。「はい、本当です」とにこやかに答えていた。私が介抱されている間のフローラのスピーチはほとんど聞けていない。


「フローラ、そんなことまで話してたの?」

「はい。本来原稿にはございませんでしたが、アドリブで付け加えました」

「‥王都で初めて発表するって話だったんじゃ?」

「父からはそう言われておりましたが、‥‥女性同士の結婚では子供ができないので、父への攻勢が重要なのです。ふふふふ‥‥」


天使のような黄金の微笑みの中に、何か黒いものを感じた。寒気を感じたが、きっと馬車の向かい風のせいだろうと私は自らを納得させた。


   ◇


「あら、馬車なんて珍しいねえ」


村に降り立って、そばにいた主婦からそう声をかけられる程度には、私もフローラも村をおざなりにはしていない。

村長たちもまたメル市の就任式に来ていたが、私たちより少し先に帰っている。乗合馬車が、ホリア村専用の臨時便を出してくれたのだ。

すでに夕日が沈みかけ、あたりは薄暗くなっている。そして、村に入ってすぐのところに、明かりのついた集会所がある。


「ロゼール様、機嫌は直りました?」

「うん、ありがとう、フローラ。行こう」


集会所の中ではすでに料理でぎっしりのテーブルがいくつも置かれ、村人や家族たちが私を歓迎してくれている。聖女就任パーティーだ。昨日のメル市でのパーティーもよかったが、私は顔見知りばかりのホリア村でのパーティーのほうが楽しみだった。セレナの時は故郷に帰ることはかなわなかったし、こんな気楽に話せる人たちだけのパーティーなんてなかった。あのときとは違う。今の私は、ロゼールは、本当に幸せだ。


「ほら、主役の登場だ、なんか言えよ」


村人がどんと私の背中を強打する。もう、いくら村生まれだからってやりすぎだよ。‥‥が、フローラには遠慮してか、にこにこしながら手で促すだけだった。やっぱり遠慮しているのかな。フローラは表情一つ崩さない。一緒に、ステージにあがる。


「改めて、新しい聖女になったロゼールです。今まで村くるみで私を守ってくれていたと聞きました。本当にありがとうございました。みなさんのおかげで国からかなりいい条件を用意してもらいましたので、1人でも多くの人を助けていきます。みなさんの希望になりたいです。よろしくおねがいします」


村人たちは一気に盛大な拍手を入れた。会場全体が盛り上がるようだった。対してフローラが前に出ると、盛り上がりは一気にぶつりと鎮まってしまった。トーンが下がるのがあまりに早すぎだった。それでもフローラは顔色一つ崩さない。


「‥‥わたくしはフローラです。新しく聖女になりました。最初にみなさまにお伝えしなければいけないことがございます。みなさまはロゼール様を王国から守るために戦っておりましたが、わたくしがその王国側の人間であったことを今まで隠しておりました。‥‥ですが、誓ってロゼール様を裏切るようなことはしておりません」


「そして、わたくしは8歳のときから7年間、この村で平民として生活しておりました。わたくしは確かに第三王女ディアナですが、この村にいる間はただのフローラです。平民の日常はよく分かっております。ここの食事もおいしいし、みなさまも暖かい方ばかりで大好きです。タメ口でお気兼ねなく話しかけてください」


フローラの腰には、短剣が取り付けられている。こんなときにも短剣を身から離すわけにはいかないのだ。‥‥フローラの希望通りにするのは無理な人もいるだろうけど、ホリア村の人の半分以上はきっと問題ないと思う。


「そして、ロゼール様を1番にお守りするのはわたくしです。ロゼール様のお父様、お兄様にも1番は譲りません。これまでロゼール様をお守りいただいた村人のみなさまにもご安心いただけますよう邁進してまいりますので、よろしくお願いします」


聖女としてではなく、私を愛する人として。私を一番理解する人として最高の挨拶だった。村人たちは猛烈な拍手を送った。


   ◇


「俺と張り合うなんて、度胸あるなあ!」


早速酔った父にフローラが肩を掴まれて、揺らされている。父は周りの村人に、これみよがしに見せているのだろう。私が前世で会ったテランスも、周りを見れる優しい人だった。フローラのところに次々と村人が寄ってくれる。楽しそうに話している。私はそれを隣のテーブルで見ながら、ジュースを飲んだ。

そんな私に、隣の青年が声をかけてきた。


「君、本当に聖女になってよかったのか?」


‥‥そうだね。絶対聞かれると思った。でも答えは決まってる。


「うん。フローラがいるから大丈夫! 私、フローラがいないとダメみたい」

「ははは、王族は腹黒が多いと言われるけど頑張れよ」

「ん、それってどういうこと?」

「そうでもなきゃ貴族の泥臭い争いは乗り越えられないだろ」


青年は返答をぼかすように酒を飲んだ。私は改めて向こうのテーブルのフローラを‥‥「腹黒ってどういうことですか?」いつの間にか私の隣りに座っていたフローラがにこにこ笑っている。


「うわ、地獄耳かよ!」

「ふふふふ、夜道は魔物に気をつけてくださいね」

「脅しかよ!」


フローラは笑い声をたてるだけたてて、「それではロゼール様、飛んで帰りますからお酒はお飲みにならないよう」と言い残して元の席に戻っていった。




【訪問聖女と黄金の杖】

【本編 完】

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