表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
訪問聖女と黄金の杖  作者: KMY
第8節 黄金の杖
48/50

47.ロゼール

ホリア村の丘の上にある一本木。ここから村全体が見渡せる。

風が草原をなでている。その音色が心地よかった。


「‥‥私が最初にメル市へ行くとき、ここでフローラが待ち伏せてたんだよね」

「はい。あの時はロゼール様の発作をよく理解しておらず、きつい冗談を言ってしまいました」

「気にしてないよ」


きつい冗談とは、私の秘密を村人たち全員にばらすと言ったことだ。

私が聖女になると村人たちに宣言した時、村人たちはずっと前から私の聖魔法のことを知っていたと言っていた。8歳の時、村の子供に聖魔法を使ったのがすぐ村中の噂になって、父が王国へ報告されないよう奔走していたらしい。

フローラもその時に私の力のことを知った。


「どうして私と一緒に活動したかったの?」

「‥‥はじめは、ロゼール様を利用して王都に戻ろうとしていたのです。ですがそう思っていたのははじめの頃だけでした。誓ってわたくしが今ロゼール様をお慕いしているのは、本心です」

「信じる」


私の赤髪が風に揺られる。フローラの美しい金髪が見れるようになるにはもう少し時間がかかるけど、いつかきっと見てみたい。

私は振り返って、フローラと体を向かい合わせた。


「‥‥フローラ」

「はい」

「フローラに告白したあの時は寝ぼけて間違って言ったと誤魔化していたけど、今はっきり言うね。私、フローラが好き。友達ではなく恋人として好きです。6年間ずっと隣で私を支えてくれて、本当に嬉しかった。これからも私のそばにいて欲しい」


フローラは私のところへ歩み寄ってきた。その顔は太陽よりまぶしかった。

そして、私の前でひざまずく。

私の手を取る。


「わたくしもロゼール様のことを心から愛しております。これから聖女として大変なこともございますが、わたくしが杖となり、必ずロゼール様のことをお支えします」


そうして、手の甲に口つけをしてくれる。

私は照れてなんかいない。ただやわらかな日光にあてられて、全身が暖かかった。

セレナやイザベラの時にはついにできなかった恋人が、今ここで私との将来を誓ってくれている。私はフローラのことを絶対大切にする。


「ありがとう。フローラ、大好き」


立ち上がったフローラに顔を近づける。

私の意思を、私の気持ちを、しっかりとフローラのそれに刻みつけるように押し付けた。


   ◇


「‥‥そろそろメル市に戻りましょう」

「あっ、フローラ、ひとつ聞き忘れていたんだけど‥‥」

「どうしましたか?」


一本木の幹を触っているフローラに、私は質問した。


「どうしてまた聖魔法が使えるようになったの?」


フローラは一時的に聖魔法を手に入れたが、そのあと私の一言で失ってしまった。その力がまた、フローラの手に戻ったのだ。


「ふふ、それはロゼール様がまたわたくしに告白したからですよ」

「えっ?」

「サラさんから逃げろという手紙を受け取った時、わたくしに言っておられましたね」

「ああ、あれ‥‥告白になるの?」

「ふふふふ‥‥」


フローラは木の幹に寄りかかって笑っていた。意地悪だ。


「わたくしはひとつの仮説をたてました。今のわたくしの力は、ロゼール様からいただいたものです。ロゼール様がわたくしに愛の告白をなさったとき、無意識にわたくしにプレゼントとして魔力をお送りになって‥‥そして、ロゼール様が望まないと宣言されたのでわたくしの力は奪われてしまった、と思っております」


私が魔力を無意識に? そんなことができるなら、誰でも魔力を送り放題だよね?


「もちろん、これが正しいとは思っておりません。今後調査する必要はございますね」


‥‥考えないようにしてたけど、私の前々世も前世も現世も聖女だった。それが関係しているのかな? 聖魔法って魂と結びつくのかな? でも今のフローラの説明だと、そうでもなさそう? 聖魔法って、他の魔法とは違う特別な力なのかな。その謎はまだ分からない。

私の来世がまた聖女になるかも分からないけど、後でゆっくり調べよう。


   ◇


王都へ行っていたシリル一行が帰ってきた。

司祭や数人の聖職者がまずは祝言を言うために、国王と一緒に、教会の奥の部屋にいる私とフローラのところに来た。仔細は、王都で長らく世話になっていた見知った顔だったが、ロゼールとしては初対面だ。「新たに聖女になったロゼールです、末長くよろしくお願いします」とフローラと一緒に挨拶してうやうやしく頭を下げた。司祭はひととおり挨拶したあと、「仕草がイザベラ猊下と似ておりますね」と言った。‥‥まあ、この司祭になら隠す必要はないか。


「イザベラ・ド・デンゼーの生まれ変わりです。前世ではお世話になりました」


そう言うと司祭は口を横に広げて目を丸くして、ぱちくりさせていた。国王も「何だと!?」と驚いて、背を壁にぶつけていた。そういえば国王にもまだ言っていなかったんだった。聖職者たちも身を引き攣らせていた。横にいたフローラはくすくす笑っていた。

私と少し世間話をして、司祭は半分くらい信じてくれたようだった。


「晩年のご様子を一同心配しておりましたが、まさか自殺なさるとは‥私どものどこが足りなかったのか‥‥」

「その節はごめんなさい。それについて、これから詳しくお話します」


普段の私はタメ口だけど、前世で聖女になったあと聖職者と話す時は敬語だった。この司祭にも、いつも敬語を使っていた。

国王は「前世の記憶がおありならどうりで、聖女の内情を理解して、あそこまで拒否なさっていたわけだ」と腑に落ちていた。


私は前世のことを詳しく説明した。途中でどもることも多かったが、フローラが私の手を握ってくれた。このテーブルを囲む椅子で、私とフローラの椅子だけ異様に近いのを誰も何も言わなかった。

司祭が神妙な顔で返事した。


「まずイザベラ猊下には大変不快な思いをさせ、申し訳ございません」


その謝罪から始まり。


「私どもの立場をお話させていただきたく存じます」


目を伏せながら、手元のメモを見ながら説明を始めた。


「その前に認識を合わせます。まず、ご友人がおられたとのことですが、ご友人との面会はデンゼー公爵より強い要望があったため許可していたものです。本来は交友も禁止されております。そのためご尊父様がお亡くなりになったあとは、友人との面会を制限させていただいておりました」


私は前世でデンゼー一家の生まれだった。前世の父‥‥直接の面会は無理だったけど、私のためにそこまで頑張ってくれていたんだ。


「交友、恋愛、家族との面会を厳しく制限させていただいているのは、2つ理由がございます。ひとつは、聖女は誰に対しても平等であるべきで、親しい人の治療を優先することがあってはならないとの宗教的な考えによるものです。もうひとつは政治的な理由です」


1つ目は前世や前々世で散々言われたことなので、あまり驚きはない。しかしもう1つが気になる。


「これより500年ほど前に、貴族が聖女の権力を利用して王家転覆をはかった事件がございました。聖女に手が届く前に未遂で終わったのですが、このときに聖女の権力が問題になったのです」

「聖女って権力あるのですか?」

「ありますよ、まさに今のような状況で発生します」


隣のフローラが教えてくれた。


「聖女の政治的な権力について法律では認められていません。しかしディアナ殿下が仰せになったとおり、特に大きな災害が起きた時、聖女なしには国が存続できないと多くの人間が強く意識することによって権力が発生するのは避けられないことです。それに備え、聖女と貴族の癒着を避けたいとの意図がございます」


そこでフローラが小さく手を挙げ、「聖女は権力を持たないとのことですが、聖女と国王を兼任する時はどうなりますか?」と聞いた。「王族が聖魔法をお持ちになった前例はございませんが、もとは国王とは独立した権力の発生を防ぐのが目的ですので、国王自身が聖女になるのは問題ないと思われます」と返事が来た。国王も頷いていたので、知っていた上でフローラに王位継承権を渡したのだろう。


「でしたら、今は王太女であるわたくしも聖女ですので、ロゼール様がお辞めになっても代わりが務まります。ロゼール様を利用しようとする人間が出てもわたくしが止められます。わたくし自身が盾になります」

「暫定的に、それでいいかと思われます。本格的な対応は改めて話し合いましょう」


‥‥失礼な質問だと思うが、私は「信じてもいいのですか?」と小さめの声で聞いた。


「もちろんです。我々一同、イザベラ猊下の自殺にはたいへん心を痛めており、ロゼール猊下をお守りさしあげたいというのが総意でございます」


私はテーブルを囲む人達の顔を見回して、「ありがとうございます」と応えた。フローラが私の目にハンカチをあててくれた。背中をさすってくれた。

会議が終わっても私は長いこと泣いていたと思う。気がついたらこの部屋は、私とフローラと国王の3人だけになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ