43.サラ
私――サラは、今日の午前も普段通り働いていた。
バカ聖女のことは気になるが、わざわざ仕事を休むわけにもいかない。今の時間は昼食にするにはまだ早すぎる。空っぽの店内で、することもなく椅子に座っていた。
にわかに店の前の通りが騒がしくなった。
まーたバカ聖女が何かバカなことをやったのね。慣れたわ。もう驚かないわよ。
シルベーヌはパンを焼いている途中だったので、ひと声かけて私は店を出た。どうせ暇だ。たまたま近くにいた少年を捕まえた。
「ねえ、急に人が増えたけど何があったの?」
「せ、聖女がこの通りに来られるんだ! この近くにある家の人を治療なさるんだ!」
「はぁ? 聖女って誰?」
「君こそ知らないのか、赤髪と金髪の‥‥あ、来られた、来られた!」
この通りと交差する向こうの道に、人垣ができていた。
私は人垣をかき分け‥‥聖女とやらの姿を見た。おずおずと申し訳無さそうにしている市民に案内されて歩いているのは、確かにロゼールとフローラだった。
バカだね。あの2人、どうしようもないくらいバカだね。今ここで声をかけたらややこしくなりそうだから、後で手紙でも書くわ。いや、書かなくても来るかしら。
あ、フローラが私に気づいたわ。かすかに頷いて微笑んでるわ。ふん。私は鼻を鳴らして、2人に背を向けた。
店に戻ると、ブースで1人が待っていた。その人に売り終わると、後ろからシルベーヌが尋ねてきた。
「何があったの?」
「バカ聖女がそこを堂々と歩いてましたよ。なんても治療をするらしくてね」
「あら、正体を隠すのをやめたのね」
「そうとも言いますね。まったく、人に散々心配させといてばかばかしいです」
「ふふふふふふふふ」
シルベーヌは我慢しきれず吹き出していた。
「今度またここに招待しないとね」
こう言っていたのを私は抗議しようとしたが、いろいろ考えてやめた。
◇
その日の午後をいくらか過ぎた頃、役人が1人、店に入ってきた。
「もしもし、サラさんですか」
「はい、私ですが」
はー、またバカ聖女が何かやらかしたのね。期待してないわ。
「新聖女猊下が国王陛下と食事をともになさるのですが、陛下がぜひあなたにもご同席いただきたいとのことです」
「‥‥陛下はずいぶんと用意がいいのですね。分かりましたよ。どこに行けばいいんですか」
「のちほどロゼール猊下がみずからお迎えにあがりたいとのことです。店の営業終了より1時間早くなるのをご懸念なさっておりまして」
「分かりましたよ、もう」
私は役人が帰ったあと、シルベーヌに早退の許可をもらい、テーブルを激しく揺らしながらふきんをかけた。とにかくテーブルをきれいにしたい気分だった。
まったく、あんなに王都に行きたくないのに陛下の治療をしちゃって、仲良く食事なんてバカみたいじゃない。私は何のためにロゼールを守ってたのよ。いやこれからも守るけどね、矛盾した行動はとるんじゃないよ。人をひやひやさせるんじゃないわよ。やるならもっとしっかりやりなさい。バカなんだから。どうせ陛下助けたのも理由無いんでしょ。いい子ぶってないで、もっとうまく立ち回りなさいよ。まったく。
‥‥フローラが王女だと知るのは、もう少し後になってからだった。とりあえずバカと言っておいた。




