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訪問聖女と黄金の杖  作者: KMY
第7節 命の天秤
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41.フローラ

わたくし――フローラは、父から婚約の承認をいただきました。女性同士の婚約で、後継ぎは見込めません。父も混乱している中でしたので、後で反故ほごにされるかもしれません。ですが、一度言わせたものですので後はどうにもなります。

父はわざわざ聖女の家までいらっしゃる平身低頭ぶりでしたね。父と普通に交渉することもできましたが、聖女にかかる制限が長らく解除されていないのを見るとおそらく裏で貴族が絡んでいます。最初の時期だけロゼール様の言う通りにして時の経過とともに制限を元に戻す可能性もございました。そうならないよう釘をさしておきました。ついでに父のあの面白い反応、ごちそうさまです。


それにしても、予想外はロゼール様でした。父の寝室に忍び込んだ時は平気そうでしたし、本日も事前に作戦のためにいったん離れることを合意しておりましたので大丈夫だと思いましたが、浅慮でした。ロゼール様のある程度の動揺は仕方ないと思ってましたが、まさか一言も喋れないレベルだったとは。

頭でわかっても体がついていけないのでしたら‥‥わたくしが一緒にいても無理なことは多そうですね。例えば、前世の記憶を思い出すようなこと‥‥王都へ行くとかですね。のちほどロゼール様と相談しましょう。


さて、わたくしにはまたやり残したことがあります。一通り終わったのに、父はまだ家から出ようとしません。


「これから2人をメル市へお迎えしたいのだが‥‥」

「わたくしたちは村への挨拶を終えてから自分で向かいます」

「ディアナ‥‥」

「わたくしはロゼール様のおそばから離れません」

「いや‥‥久しぶりに会ったのだ、少し話がしたい」

「明日の夜、メル市に参ります。その時でどうでしょうか」

「‥‥分かった」


父は力なく家を出ていきましたね。わたくしはロゼール様に「少しお待ち下さいね」と言ってから家を出ます。

案の定、家の周りには多数の村人が、わたくしたちを心配そうに眺めています。村から聖女を送り出すためには、村人たちも安心させなければいけません。わたくしは父の後ろ姿に向かって言い放ちました。


「お父様」


村人たちがぴくっと動きます。父は坂の下からゆっくり振り返りました。


「クローレン王国の第三王女、ディアナ・ベルハイムからおねだりが3つございます」

「‥‥言ってみろ」

「まず、王位の継承権をください」

「‥‥分かった。もともとディアナにあげるつもりだったのだ」


父は戻ってきて、服の中から短剣を取り出しました。この短剣は本来王位にあるものが持つのですが、跡継ぎと決めた人にいったん短剣を与え、崩御時に王冠を与えるというならわしになっております。わたくしが失踪したのでてっきり兄かと思っていたのですが、まだ渡していなかったのですね。

わたくしは衆人の眼前で跪き、それを拝戴します。手の上に置かれたそれは、見た目以上にずっしり重いものでした。


「‥‥わが国を頼む」

「当然でございます。お父様、ご安心ください」

「それで、残りの2つは何だね」

「今いただいたものは継承権ですが、今すぐ欲しいものがございます。教会の全権です」


それがあれば、たとえ父が反対したとしても、わたくしの一存でロゼール様を救うことができます。聖女になったロゼール様を一時的に休ませるのも、解任するのも自由です。ロゼール様と相性のいい方を側近にしてあげることもできます。

父はぴくっと体を動かしますが‥‥ふうっとため息をつきました。


「少し待ってくれ。教会にも伝統や貴族とのしがらみがある。様々な職業や制度もある。それを教えてからでもいいだろうか」

「明日教えて下さいね」

「難しいが‥‥善処はする」

「‥‥そして最後は、シリルを許してください」


その言葉と一緒に、シリルが家から出てきました。わたくしは父に頭を下げます。


「シリルはお父様にとっては長年の仇敵でしょうが、わたくしにとっては大切な使用人です。それに、わたくしの命の恩人でもあります。8歳の誕生日パーティーのときにわたくしを暗殺する計画を聞きつけ、悩んでいたところをシリルに救っていただきました。どうか自由に王都へ行けるようにしてください」

「‥‥分かった。誘拐はなかったことにしよう」

「お心配り、ありがとうございます」


頭を上げたわたくしは‥‥やっぱり、父の懐かしい顔から視線を離せません。父が「他には?」と尋ねると、わたくしは「‥‥最後に抱いてください」と言いました。

父はわたくしの頭を抱いて、撫でました。

顔は少し老けましたが、大きな手は、わたくしが7歳のときから何も変わらないものでした。


「ディアナには苦労をかけて申し訳なかった。大きくなったな」

「わたくしこそ、勝手にいなくなり申し訳ありません」

「‥‥どうだ、一緒に王都へ戻るか?」

「いいえ。わたくしはロゼール様のおそばにおります」


そんなわたくしを、父はもう一度抱いてくれました。


わたくしはうつむいたまま、丘を降りていく父を送りました。

私の顔がくちゃくちゃになったの‥‥ばれてないですよね。

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