38.ロゼール
私――ロゼールの家には、フローラ、シリル、父、ジャックの5人が集まっている。
私とフローラは、すでに上着に長ズボンの衣装に着替えている。私は髪の毛を結んで、後ろ頭に大きく赤いボールをつけている。マスクはしていない。かわいらしさはないけど、いつも訪問聖女をしていた時の衣装だ。これは私の覚悟の印。
朝食は無理にでも急いで食べた。
丘の上にいた村人が、遠くの方から兵隊が向かってくるのを認めたのだ。
それが村長に報告され、村長から全村民に通達された。
それが何の兵隊かは分かっている。
でも私は逃げない。フローラもそばにいてくれる。
「‥‥これ食べたら、丘を下りるよ」
このホリア村はなだらかな丘の斜面に形成されている。そして、集会所や村の出口は下の方にある。
兵隊は丘の下からのぼってくるだろう。
村人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。私から出向こう。
‥‥しかしフローラは、私の言葉を否定した。
「いいえ、ここで待ちましょう」
「えっ、でもそれだと村に迷惑がかかっちゃう」
「ロゼールも、長い間住んでいた家を少しでも離れたくないでしょう」
「それは‥そうだけど」
でも、別れなければいけない。私が言い淀んだところで、フローラはにこっと微笑みかけてくる。
「こんな時くらい、贅沢を言いましょう。住み慣れたところを1秒でも長く心に刻みつけましょう。大丈夫です、わたくしがついています」
「‥‥うん」
私はフローラと会えてよかった。恋愛として付き合うことは無理でも、そばにいてくれるだけで心強い。ずっと私を支えてきてくれた。嬉しかった。
これから私は、罪を償うために、セレナやイザベラのように孤独で気が狂いそうな人生を送らなければいけない。孤独が50年も60年も続くかもしれない。でも今、フローラがいてくれることが私にはとても嬉しかった。
「わたくし、考えました。ロゼールの暮らしが少しでも良くなるよう、一芝居打ちます」
「芝居?」
「ふふ‥‥お楽しみです」
こんなときでもフローラは余裕綽々だった。動揺しないのはフローラのいいところだ。‥‥でも。
「兵が来るまで、ロゼールはこの部屋でお待ちになりますよね。わたくしは寝室に隠れていますね」
「‥‥怖いからずっと一緒にいて」
「来る直前まででいですか?」
「それでもいい」
フローラには何か考えがあるのだろう。
食器とテーブルを片付けて、私は椅子に座って、閉まっているドアに正面を向けて、すうっと深呼吸した。
大丈夫。今はフローラが隣りにいてくれる。
たとえ離れることになっても、私を守ってくれる。
大丈夫。
私は、フローラの手を握りしめた。




