37.ガストン
儂――ガストンは、その日の調査を終えた。暗くなったのでメル市に戻る。明日からはさらに遠くの村の調査だ。ここから往復するには効率が悪い。陣を作ったほうが早い。
頭が痛い。まだ瘴気は残っている。瘴気があるかぎり増悪し続けるだろう。儂に残された時間がのびただけだ。王都や他の都市にいる民を思えば、猶予などない。
市長の家まで戻った儂の前に、神妙な顔つきをした市長がいた。
「‥‥お疲れのところ申し訳ございませんが、報告いたします」
言いたくないというのが顔色からすぐ分かった。つまり儂にとって嬉しいものであることに気づいたが、儂は市長が口を開くのを待った。数分ほど突っ立ち続けて、市長は重苦しい口を開いた。
「‥‥‥‥パン屋の店員の名前はサラ。ホリア村出身です」
「ホリア村‥‥あの最も遠くにある村か」
あんなメル市周辺で最も不便で危険なところにディアナがいるとは思えんが‥‥。2人の聖女はそれぞれ別の村に住んでいるのか? しかし‥‥‥‥いや、今は我が娘よりも国のほうが大切だ。私情は捨てるべきだ。まずは赤髪の聖女と会う。
「ホリア村まではどれくらいかかる?」
「ここを朝出発した馬車が夕方に到着します」
「‥‥今すぐ兵たちを集めよ。徹夜で向かう」
「で、ですがご無理なさっては‥‥兵も疲れているでしょうし‥‥」
それは気遣いなのか時間稼ぎなのか分からないが、とにかく儂には時間がない。
「1日経つごとに大勢の人が死ぬのだ。猶予など、もとから無いのだ」
兵士たちが動員された。夜中のうちにメル市を出発した。途中の村を振り切り、ただ一点、ホリア村へ向かった。
到着は夜が明け、日が少し上がった頃であった。




