36.ロゼール
私とフローラは、昼食を食べたあと、いつもの長ズボンに変装して、マスクまでつけて一本木の前に立っていた。
かたわらにはジャックとシリルがいる。
私もフローラも、お互いの目を見つめていた。
‥‥その目つきを見るだけでも、考えることは一緒だと、嫌でも分かった。
逃げよう。そう言い合って集まったはずなのに、いざここまで来てみると足が重い。
「わたくしは残りたいです」
先にマスクを外してしゃべったのは、フローラだった。
「‥‥陛下に会いたいから?」
「いいえ、違います。わたくしは王族にもかかわらず、聖女を国に報告せず、多くの罪なき人を殺し、わが国を崩壊寸前まで追い詰めました。王族としてその責任があります」
そうはっきりした声で言って、‥‥それから「ですがロゼールがわたくしを必要とするなら、わたくしはあなたに従います」と付け加えた。
私はそれを聞いてから、自分のマスクを外した。自分の髪の毛をほどいた。
私だって怖い。でも、新しい国を作るという話をしたときに、フローラの顔を見られなかった。フローラは表情をひとつも代えなかったけど、内心では悲しんでいると思った。
私は聖女になるのも嫌だけど、フローラの悲しんでいる顔も見たくない。それにここから逃げるということは、私が世話になった人たち、そして私が手を差し伸べた人たちを見捨てることになる。そっちのほうが嫌だった。
「それは私の罪でもあるよ。自分だけがよければと思って、数え切れないほどの人を殺したのは私だよ。治せるのは私しかいないのに、彼らの未来を奪ってしまった。私は自分の罪にしっかり向き合いたい。そしてここに残って、私の大好きなホリア村やメル市の人たちを守りたい。‥‥でもそばにフローラがいてくれると嬉しい」
「もちろんです。どこまでもお供いたします」
私はフローラをしっかりと抱きしめた。私の体もぎゅっと絞られる。大好きだよ、フローラ。
「‥‥私は、もう逃げも隠れもしない」




