35.サラ
私――サラは、心の中で常に神に祈り続けていた。兵士たちがいなくなって店はすっかり空っぽになったが、私の心まで空っぽになるようだった。
「大丈夫、大丈夫よ、少し早いけどお昼にしようね」
シルベーヌが焼き立てのパンの入ったバスケットを私の前に置いたが、気は晴れない。私の心はずっと冷たいままだ。
ロゼール。無事でいて。
「いったん休むかい? 今日は人が少ないから、私1人でも回せるわよ」
「‥‥結構です。掃除くらいならできます」
私はパンをスープにもつけず、そのまま口に入れた。‥‥いくつかを食べたところで、ドアのノックがする。販売ブースではなく店内に直接入ろうとしている時点で、兵だ。私は今、機嫌が悪い。
シルベーヌは私の頭を撫でてから、入り口の方へ向かった。やっぱり兵士たちだった。シルベーヌは私の頭を抱いてくれた。その初老の女性は、おばあさんのように温かかった。それが気味悪くも感じられた。
‥‥だが今日の兵士たちは様子が違う。一人の貴族のような男が現れた。口ひげを生やしており、いかにも高貴な服を着ているが国王を名乗るほどではない。その男は申し訳無さそうな顔をしていたので、私は肩の力を抜いた。
「お食事中失礼します。私と2人で、別室でお話しいただけませんか」
「主人さんも一緒ならいいです」
「もちろんです」
狭い事務室の中に固まって、みずからの手でドアを閉めてから市長は丁寧に頭を下げた。
「私は市長です。誠に申し訳ございません。あなたがホリア村の出身であることが分かりました。私はこれから陛下に報告しなければいけませんが、報告よりもこの店の調査が先だということにしています。この店を3日ほど調査させていただけないでしょうか?」
こんな小さい店のために3日も。私はため息をついて、シルベールを見る。「好きにしてちょうだい」と言われたが、私は目を伏せながら首を振った。
いつかこうなる日が来るかもしれないと思っていた。あのバカ聖女たちもおそらく想定はしているだろう。手紙も送った。もう私ができることは何もない。あれを読んでもし逃げないのなら、それは2人の意思だ。
「‥‥無理にのばす必要はありません。あとは娘次第です」
運命の時は迫っている。




