27.サラ
私――サラは、憔悴していた。
表向きは平気であるかのように振る舞った。しかしその実、店の前の通りを歩く兵士が増えているのを肌で感じていた。
と、兵士がパン屋のドアをノックした。
「‥‥どうぞ」
店主シルベーヌが重苦しい顔で応対した。兵士が中に入ってきた。
‥‥兵士にしては妙に図体が大きく、そして金髪は身分に見合わぬシャンプーでも使っているようで、妙にきれいだった。
「‥‥赤髪と金髪の女の子を探している。どこにいるか知ってるか?」
私はすぐ、それが誰なのか分かった。しかし自分の顔色を極力変えないよう、歯を食いしばる。
「分かりません」
「あなたは?」
「いいえ、私も誰のことだか」
私やシルベーヌに確認し終わったあとも、兵士は引き下がらなかった。
「2階を見ても?」
「‥‥なぜそこまでされるのでしょうか? 赤髪と金髪の子が何か罪でも犯したのですか?」
我慢しきれなくなった私がつい声を張り上げてしまった。しかし兵士は私を不審に思うこともなく、頭を下げてきた。
「この国が‥‥いや、世界が滅ぶかどうかの瀬戸際なんだ。頼む、このとおりだ!」
「‥‥‥‥」
この店の主人は私ではなくシルベーヌだ。シルベーヌの希望通りに‥‥「行かせてあげな」と言われたので、私は「どうぞ」と返事した。兵士は礼を言って、2階にのぼって、しばらくして戻ってきた。
「協力、感謝する」
力なくそう言って、店をあとにした。それを確認すると、私はシルベーヌに尋ねた。
「どうして2階に行かせたのですか?」
「あら、2階へ行っても何も無いでしょう。怪しまれないのが一番よ」
シルベーヌはにっこり笑って、余裕を見せてきた。私は「‥‥ふふっ、そうですね」と、久しぶりに笑った。
◇
材料の買い出しのために、大通りへ出た。
やはり、異様に兵士が多い。まるで戒厳令かなにかだ。おちおち買い物もできない。
「ご協力お願いします!」
そんな青年の大きい声が聞こえた。見るとあちらの街路樹のそばで、何人かの兵士がかぶとを地面に置いて、通行人たちに頭を下げていた。
「どうか聖女捜索にご協力をお願いします! 赤髪、金髪の女の子の目撃情報だけでも十分です! この国の存続のためにどうしても必要なんです! 王都に来られるのを嫌がっていたとのことですが、陛下は対等に話したいと仰せになっています!」
通行人は気に留める様子もない。あの様子だと、メル市の市民からろくな協力は得られなかったと容易に想像できる。
まったく、一気にいろいろやったら聖女も逃げるに決まっているだろうに、何やってんのよ。やるならもっと早く、そしてうまいことやりなさいよ。と心の中で思った。
煮えきらない気持ちを心に秘めながら歩いていると、ふと向こうの街路樹で、さっきの金髪で体の大きい兵士が子供をあやして、そばの老婆に頭を下げていた。
「まったく、そんなだから聖女が逃げていったんだよ」
「聖女について何かご存知か。陛下は、対等な立場で話をしたい、聖女のためなら何でもするとおっしゃっていた」
「だったらさっさと帰ってくれんかねえ、そっとしておきなさい」
老婆は罵声を金髪の兵士に浴びせながら、子供を連れて去っていった。このメル市以外の壊滅的な惨状を考えると、さすがにあのさまは不憫だ。だが一人の自殺と引き換えの繁栄など、私は親として認めない。




