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訪問聖女と黄金の杖  作者: KMY
第6節 王国の執念
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25.ロゼール

「これ、どうするんだ?」


せっかく母にカミングアウトして、手紙が来たのに‥‥その中身が、訪問聖女を休めというもの。私――ロゼールは、フローラ、ジャックとともに我が家の1つのテーブルを囲んで、父の顔色を伺っていた。


「それでも私は行きたい」


時はすでに日曜日の夕方である。もし行くとしたら考える猶予はない。


「サラが訪問聖女も来るなと言ってんだろ、行くな行くな」

「でも‥‥私を待っている人がたくさんいるの。たとえメル市で何かあったとしても、人の命は関係ないよ!」

「お前にそれができるなら、今頃とっくに王都で聖女になってるだろ」

「‥‥っ」

「とにかく、メル市に住んでるサラの言葉だ、言う通りにしとけ」


それから夕食前だというのに、ひとつあくびをかました。


「ああ、日曜日に寝るのがくせになっちまったみたいだ。ちょっとくら料理すっか」

「‥‥‥‥私、手伝うね!」

「俺が手伝う、お前はじっとしとけ」


ジャックは椅子から立ち上がった私の腕を引っ張って、代わりに流し台へ向かった。あたしがため息をついていると‥‥フローラが「それでは、少し散歩に行きませんか」と言ってくれた。


   ◇


メル市で手紙の検閲があるという噂は聞かないけど、私の秘密は万が一にも漏れてはいけないので、検閲があることを前提とした書き方をしている。それを踏まえても、来てはいけない理由を書かないなんてひどい。本当は母、私に会いたくないのかな‥‥。

何人かの村人とすれ違って、ふうっとため息をつきながら坂道を登っていると、傍らのフローラが尋ねてきた。


「行きますか?」

「え?」

「普通の人間は空を飛べませんよ。上空から様子を見るくらい、問題ないでしょう。危ないと思ったらすぐ引き返しましょう」

「確かにそうだね、そうしよう」


理由を知るために近づくくらいなら問題ないのかな。助けられる命が目の前にあるのに助けられないかもしれないけど‥‥それでも私は知りたい。


   ◇


父が寝たのを見て、私とフローラはいつもよりちょっと遅い時間に一本木へ来た。ジャックももちろん来た。


「やっぱり行くのか」

「うん、見るだけなら大丈夫だと思って」

「確かに母さんも悪いな、理由教えてほしいよな」

「うん」

「‥‥俺も黙っておくから、うまくやれよ」

「分かった」


そうやって見送るジャックに手を振りながら、私はいつも通り自分とフローラに浮遊魔法をかけ、地面から離れる。メル市まで浮遊魔法なら1時間で着く。


‥‥そして到着したメル市は、上空から見ても明らかに様子がおかしかった。真夜中だというのに街灯に照らされる人間が多い。いや、あれは兵士か。兵士たちが空を見上げている。やばい。

‥‥でも今日は新月なのも手伝って、私とフローラの姿はほとんどよく見えないはずだ。真っ暗だと動けないので月明かりが欲しいものだったが、今日ばかりは新月に感謝した。

民家にはところどころ明かりのついている部屋があったが、そこを覗き込むとベッドで横になっている人、家族らしい人と一緒に衛兵がいるのが見えた。いくつか部屋を覗いたが、どこも同じ。

私はさらに高いところへ避難して、フローラに相談する。


「‥‥今日、兵士ばかりだね」

「はい。苦しんでいる人の部屋にまで乗り込んできて、かなりの本気を感じます」


何が何でも私たちを見つけようとしている。今まで静かだったのに、どうしていきなり今日。


「こんなこと、初めてだよね‥‥今日は諦めるしかないのかな」

「そうですね‥‥っ!」


フローラが何かを見つけたようだった。「ちょっと南の方を見たいです。高度を下げてください」と言っていた。

下から見つからない程度に慎重に慎重に高度を下げていくと‥‥南端の大きな門のすぐそばにある建物の屋上に、うっすら旗が見える。紫色の旗の中央に白い円があり、その中に模様が書かれている。

私の手を握るフローラの手が、震えていた。


「父が‥‥ここにいます」

「えっ?」

「あの旗に描かれているものは、王家の中でも国王しか使えない紋章です」


そう興奮気味に説明するフローラは、私の目を見ていた。悲しそうな顔だった。何かを言いたげに、必死でこらえていた。こんな顔は、5年間一緒に活動していて初めて見た。いつもは余裕を崩さないその美しい顔が、ぼろぼろと崩れていた。‥‥言いたいことは分かるけど、そんなことをするとばれてしまうかもしれない。兵士が待っているかもしれない。そうでなくても、王だ。あの時私が見殺しにした騎士とは違う。聖女がここにいることを国王陛下に直接宣言してしまう。言い逃れができなくなる。

フローラが堰を切ったように、尻が見えるほど深く頭を下げた。


「申し訳ございません、ロゼールの事情は理解します。‥‥ですが、父が‥病気なのです」


‥‥そうだね。知ってしまった以上、助けに行くしかない。私も、フローラの魔力を奪ってしまったかもしれないのをもう気にしていないといえば嘘になる。


「どうか‥‥お願いします」

「‥‥ミルクは無し、応急処置でいい?」

「はい、もちろん!」


王都に行く必要はなくなった。国王陛下がここへ来た。フローラのために、これ以上の機会はない。

陛下がいるなら、この市の中で一番高貴な建物‥‥市長の家だろう。


ミルク無しで、精霊に祈らず聖魔法で治すこともできる。むしろそれが本来の治療だ。

しかし魔法を使うと、祈るときより強い光が出てしまう。特に暗い夜だと、光で相手が目覚めてしまう可能性が高い。そして、時間もかかる。ミルクを使って精霊の力を借りたほうが早く終わる。

この訪問聖女活動を始めたてのころ、家の人に見つからないようミルクを探したほうが早いといつも使っていたのが、いつしかミルクを使うのが当たり前になっただけで、使わないのが本来の姿だ。


私の応急処置の意味するところは、途中までしか治さないということだ。光を出したまま長居すると国王に見つかるし、この状況下でミルクを探すほうがリスクが高い。だがそれでも十分、延命だけはできる。

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