20.ロゼール
私――ロゼールは、自分が考えていたことをフローラに打ち上げた。こんなことを言ってもフローラ、どうせ、私のせいじゃないとか、気にしていないとか言うんだろう。フローラもつらいはずなのに、私を気遣うんだろう。でも私は気にする。9歳の時、森の瘴気と戦った騎士を見殺しにした時の自分の気持ちは、今もはっきりと覚えている。私は聖女になりたくないけど、それ以上に、人を見殺しにしたくない。もし9歳のあの時に戻るとしたら、今度は騎士を助けていたと思う。
しかしフローラの返答は、意外なものだった。
「では、2人で一緒に聖女になりましょう」
「‥‥えっ?」
「イザベラ猊下は元公爵令嬢でしたが、権力を使えませんでした。わたくしは王族ですが、公爵すら無理でしたら自信は持てません。ですが、聖女同士、聖女や聖職者が会ってはいけないという決まりはないでしょう」
「‥‥っ」
「わたくしが聖女として、ロゼールをお守りします。何かあればいつでも甘えに来てください」
「‥‥でも、フローラは魔法が使えなくなったんじゃ‥‥」
「そもそも魔法が後天的に使えるようになる、ならないという話は聞いたことがありません。わたくしがなぜ聖魔法を使えるようになったか、から考えたいのです」
「‥‥うん」
なんだか話をうまくそらされたような気がするけど、確かにそれは私も気になる。
「ロゼール、わたくしが王城を抜けたのは8歳の直前でした。恥ずかしながら教育に欠けているところがございまして、教えていただきたいのです。魔力は先天的に授かるものですが、そもそも人間は魔力をどこからもらって生まれるのでしょうか?」
「確か、精霊の祝福だと思う」
イザベラの時、聖女になる前に学んだ知識を頼りに答える。
「精霊‥‥ですか。大聖女以外はお話できないのに?」
「うん。精霊はいつも人間たちを見ていて、赤ちゃんができるのを見るとたまたま近くにいた精霊が祝福を与えるの」
「後天的に祝福を与えるということはございますか?」
「‥‥聞いたことないなあ。ちょっと聞いてみるね」
フローラには分からないと思うけど、たまたま少し遠くから水の精霊の歌い声が聞こえたので、私は耳を軽く塞いで念じる。
私の質問に、精霊が私の頭の中に文字を書き込んでくる。
「‥‥そんなことはしないって」
「そうですか‥‥」
「そもそもどうして後天的って分かったの?」
「12歳の時の魔力検査では、聖魔法の反応はございませんでした」
「そうか‥‥」
魔力検査では、特別な水晶に触る。その水晶が出した色で、どの精霊から祝福を得たかが分かるようになっている。
決して1属性ずつ調べるとか、調べた属性に漏れが出るわけでもないので、魔力検査の時に気付かなかったとは考えにくい。
そこでフローラが尋ねる。
「火の精霊、水の精霊、風の精霊などは聞いたことがございますが、聖の精霊というのはないでしょうか? 聖魔法はどなたから祝福を受けるのでしょうか?」
「‥‥あっ、そういえば」
言われてみればそうだ。精霊はそれぞれの属性を持つはずだが、聖属性の精霊は‥‥いなかったはず。
じゃあ私の魔法は、誰から祝福を受けたの?
その精霊は特別に、後天的に祝福できるの?
どこかでフローラと接触したの?
どうして、世界でも数人しか聖魔法を使えないの?
どうして、私は前々世も前世もそろって聖属性の魔法が使えたの?
どうして、私には前々世と前世の記憶があるの?
考えてみれば不思議な話だ。




