12.フローラ
わたくし――フローラは、寝室を出るとテランスさんに向かって首を振りました。
「今日は無理、か」
寝室の物音はテランスさんにも聞こえていたのでしょう。実は今日、テランスさんがロゼールの正体に気づいたという話をする予定でした。まずわたくしとシリルが話しているところをテランスさんに聞かれて、それでばれた‥‥という設定のつもりでした。ですが過呼吸を起こした直後にショックを与えることはできません。
わたくしに続いて、袋を握ったロゼールが顔を出しました。
「お父さん、昼寝したら寝すぎちゃった」
「しょうがねえなあ。今夜はちゃんと寝ろよ」
「うん。ごめん」
親子が会話したあと、ロゼールが私を向きます。先程の狼狽ぶりはもうなく、表情も平然としたものに戻っていました。
「フローラはどうしてここに来たの?」
「特に理由はございません、友達ですからお話をしたいと思い、参りました」
本当はテランスと一緒に話をする予定でした。‥‥‥‥ロゼールの心情を考慮して、わざわざ「友達」と付け加えました。
「あ、ああ‥‥うん、私たち、友達だよね」
「突然どうなさったのですか?」
「いや‥なんでもないよ」
ロゼールは少し肩を落としています。‥‥わたくし、自然に反応できたでしょうか。とっさに言葉を選ぶのは、大変難しいものです。
すると、ジャックが家の中に入ってきました。
「フローラ、シリルが迎えに来てるぞ」
「あら、もうこんな時間でしたね。ロゼール、また参りますね」
「うん、フローラ、寝ていてごめんね」
「いえいえ。嫌な夢を見ても、わたくしがおそばにいますから」
「ありがとう」
挨拶を済ませて、わたくしはいつもの足取りで家を出てシリルと顔を合わせます。出会い頭に、シリルがわたくしの顔を心配そうに覗き込みます。
「‥‥フローラ様」
「どうかなさいましたか?」
「顔が赤いですが、ご気分は悪くないですか? 家に帰ったら検温いたします」
夕日のせい‥‥にするには厳しいですね。夕日の赤らみはもうすっかり引っ込んでしまってますから。




