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鎧乙女【女の子になりたい】

『鎧のようなマッチョに乙女の心を秘めてます!!』

鎧乙女がいがーるずの登場です!!』


「どうも根本美鶴ねもと みつるです」


 オールバックにミラーグラス、ひげを蓄えたマッチョな男性で、白鳥の湖に使うクラシックチュチュを着ていた。


「どうも増田啓介ますだ けいすけです」


 禿頭で日焼けした顎髭を生やしたマッチョ男性が答えた。こちらもクラシックチュチュを着ている。

 二人は腕を組んで頭を下げた。


「「ふたり揃って鎧乙女がいがーるずです!!」」


「さてと私たちはこう見えても心が乙女なんです。本当は女物の服を着たいんです」

「なのに、マッチョな体に皆さん疑問を抱いているでしょう。まずはそれから説明します」


 すると美鶴は両手を天高く上げて、くるくると回りだした。


「私は女~、なのに体は男~。子供の頃から、違和感抱いてました~~~」


 次に啓介もくるくる回りだす。


「だから私は~、鍛えました~。筋肉ムキムキ、女を捨てました~」


 次に二人はぴたりと止まり、満は左手を、啓介は右手をぴたりと合わせた。


「「でも違和感は、ぬぐえません~。髭伸ばしても、女は消えません~~~」」


 二人は手を合わせたまま、くるくる時計回りに回る。スキップを踏みながらしばらく回っていた。

 やがて二人は止まる。


「子供の頃からバレエを習っていました。その際に筋肉が身についたのです」

「本来、この格好は白鳥の湖しか着ません。バレエは体を鍛えないといけないので、これくらいがいいのです」


 二人はぺこりと頭を下げ、一気にジャンプ。そして身体を独楽のように回転させた。


「なので私は女物の服を着たいのです。でも私のことを変態だと思う人がいるでしょうね」

「それでも日本はマシだそうですよ。外国だと自由に見えて差別されているそうですから」

「あと男を襲いたいと思ったことはありません。そもそも人を襲うなんて人面獣心ではありませんか」

「私たちが男を肉食獣のように狙うなんてありえません。むしろ私たちは男に狙われるのが怖いです」


 ステージの外からスタッフが、氷とブロック塀を用意した。

 美鶴が空手チョップで氷を真っ二つに、啓介はブロック塀を空手チョップで粉砕した。

 スタッフはすぐに片付けると、ふぅとため息をついた。


「私たちは心が乙女です。氷を割っても男を割るのは怖いです」

「その通りです。私たちは肉体を鎧のように鍛えても心だけはガラスのように脆いのです」


 よよよと二人とも顔を手で隠して泣く仕草をした。

 次にスタッフが角材を二本カートに乗せて持ってきた。美鶴が一本手にすると、啓介の胸めがけて振り切った。角材は見事に折れた。

 次に啓介が美鶴の胸に角材を当てる。それを美鶴が両腕でつかみ、力を入れると角材はべきべきと折れた。

 折れた角材をカートに乗せるとスタッフが運んでいった。


「肉体の痛みは我慢できても、心の痛みは何年、何十年過ぎても癒せません」

「でも世間は私たちを口汚く罵ります。その度に私たちは心が削られていくのです」


 二人は両手を握って祈った。


 次に二人は組手を始める。かなり本格的だ。突きから蹴りなど華麗に決めていく。

 一通り終わると、息を吐いた。


「体を鍛えても空手を習っても男になれません。ひどくむなしいですね」

「でも女性でも体を鍛えている人はいますし、私たちの行為も無駄とは言えませんね」

「それね。女になれないなら、女を守る側に回りましょう」

「それが鎧の肉体を持つ私たち鎧乙女の使命!!」


 美鶴と啓介は右腕を天高く上げた。

 そして二人は拳を伸ばして突き合わせる。次に二人は観客席に頭を下げた。


「「ありがとうございました!!」」


 CM。スポーツジム浜口。みんな気軽に身体を鍛えよう!! トレーナーが親切に指導してくれます!! 出演:鎧乙女。


 SNSの声。『気持ち悪い!! ホモ二人を出すな!!』

『女性を自称する男ほど質が悪い、自〇しろ!!』

『この番組、不快な芸人しか出さないのかよ!!』


 グチエン『とてもわかりやすい漫才だ。蒼井企画では新人らしいが漫才の基本ができている。将来有望だな』

 スポーツジム浜口はアニマル浜口氏から取りました。

 鎧乙女の元ネタはピンクレディーの根本美鶴代と増田啓子から取りました。

 蒼井企画では一番の新人です。さすがにバニー衣装は恥ずかしくて着用出来ないようです。

 普段は女性服を着て、事務を担当しています。

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