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アビゲイル【下ネタ封じます】

「ついに真打登場だ!!」

「自分で言っちゃうか!! 二人素敵なアビゲイルゥゥゥゥゥゥ!! アビビビビィ!!」


 七三分けのしょうゆ顔の男と、丸刈りでロイド眼鏡をかけた男が出てきた。

 二人とも紺色の背広を着て、赤い蝶ネクタイをつけている。

 安部登志夫あべ としお後藤繁ごとう しげるだ。


「えー後藤君、今回は下ネタを封じますよ」

「ほう安倍君、思い切ったこと言うね。天気がいいからかな?」


 安部が言うと、後藤は腕を組みながら天井を見上げた。


「天気は関係ないだろ!! うちらコンビは下ネタ頼りと思われてますからねぇ。自分たちがやりたいのはこんなんじゃない!! 本当の漫才を見せてやると意気込み、観客にそっぽ向かれたいんですよ!!」


 安部は途中で怒り出した。


「なんだその具体的な案は!! 受けなきゃいみないだろうが!!」


 後藤が安部に切れた。


「それで今回は軍隊の話をしたいと思いまして」

「唐突だなー、なんでそんな話をしたいと思ったんだよ?」

「ワイチューブの動画で昭和のレジェンドが、軍隊の漫才をしていたんですよ。それに影響されました。えへへ」


 安部は右手で額を当て、ぺろりと舌を出した。


「まあ、いいでしょう。まずどんな話から始めますか?」

「そりゃあ、軍艦マーチでしょう。ちんちん、ころころ、コロコロコミック、コロコロ、チンチン、コロチンチン!!」


 安部はいきなり踊りだした。


「いきなり下ネタじゃないか!! しかもコロコロコミックの名前だすなよ!! コロコロに怒られるだろうが!!」

「怒られてレジェンドになろうぜ後藤様!!」

「なんでいきなり様付けなんだよ!! 意味わかんねーよ!!」


 安部がしたり顔でつぶやくと、後藤は切れた。


「というか軍隊とは関係ないだろうが!! いきなり脱線するなよ!!」

「えっへっへ、まずは軽いジャブですよ。ふんふん!!」


 安部はシャドーボクシングを始めた。


「では軍隊について話をしましょう」

「いきなりだな!」

「そもそも日本には軍隊はおりません。代わりに自衛隊がおるのです。でも規模は軍隊なんですよ。これってどういうことですかねぇ?」

「なんででしょうねー! 日本は戦争に負けたからアメリカに軍隊を解散させられたって、学校で習いましたわ」

「えっへっへ、それは文部省が作ったカバーストーリーなんですね。本当の狙いは自衛隊でないと自慰ができないんですわ、自慰したいってね」


 そう言って安倍は腰を低くし、右手でごしごしこするような仕草をした。


「無理やりすぎるわ!! つーか自衛隊の皆さんに失礼だろ!! うちの事務所に苦情を寄せられるぞ!!」

「そしたら悪徳社長が脂汗困りますな。いい気味です、うっしっし」


 安部は右拳を口元に当てて笑った。後藤はますます切れる。


「公共の電波で社長の悪口言うなよ!! というか悪徳じゃないだろ!!」

「うちの社長は見た目はハゲでデブでガマガエルのような顔で、救いようがないんですわ。でもカリスマ性に溢れるお方なのですよ。バニーが好きでキャバレーやファミレスを作る精力的な人なんですわ」

「まあ、見た目は怖いけど、カリスマはありますね。いやいやだから社長の悪口言うなよ!!」

「今回の台本、社長に見せたら控えめすぎるな、もっと私の悪口を入れろと書き直されたんですね」

「あーこれ社長が修正したんだった!! うちの社長は懐が広い!!」


 アビゲイルの二人は両手を広げ、右足だけで立った。


「というかますます軍隊から離れていったわ!! もうどうしようもないだろ!!」

「いやいや、軍隊というか自衛隊をけなすと左翼が喜ぶんですよ。なので私は自衛隊をほめちぎります!! 自衛隊の皆さん、日本を守ってくださりありがとうございます!!」

「お前は本当にへそ曲がりだな!! でも気持ちはわかるな。自衛隊の皆さん、感謝いたします!! 左翼どもよ、かかってこいやぶん殴ってやる!!」

「おう、後藤君もやる気だね!! しゅっしゅ!!」


 二人は互いに殴り合うようにふるまった。


「「ありがとうございました」」


 こうしてすべての出演者が出そろい、終幕を迎える。

 あとはアビゲイルが出演者に話を振って終わった。

 後日、田口エンタメ野郎こと、グチエンは語る。


『シンプルイズベストだった。アビゲイルだけでなく、蒼井企画のタレントが勢ぞろいで漫才をやる。目新しいところは何もないが、かえってそれがよかった。本来お笑いは面白い物なんだ。ところが近年のテレビはスポンサーの影響で、くだらないトークショーや芸には関係ない特技を見せつけられる。ダテケンが吉原興業を買収して失敗し、その影響というわけじゃないが漫才王になろうGPが開催された。漫才王GPは吉原以外出演してなかったが、なろうになったおかげで、アビゲイルが出演できるようになった。俺はあいつが嫌いだが、この功績は素直に認めているよ。この番組のアーカイブスはしばらく見れるそうだ。観てない人は観てほしい」


 これはグチエンがSNSで語ったことだ。この番組はSNSでは大絶賛と大批難に別れていた。

 漫才の内容ではなく、出演者に文句を言っているのだ。特にただいま不倫中の伴裕貴ばん ゆうきは30歳年下の妻をもらったロリコンとして攻撃されていた。対して妻の泉香菜いずみ かなは「私は彼を愛しています。関係ない人は引っ込めゴミクズ」と暴言を放ったため大炎上を起こした。

 それほど世間ではアビゲイルの番組で盛り上がっていたのだ。漫才王になろうGPと比べればセットも地味で、競い合うわけでもなく、賞金もない。それでもグチエンの言う通り、シンプルイズベストの内容にお笑いファンは幸福な時間を過ごせたのは事実だ。


 アビゲイルのごくらく天国は終わらない。蒼井企画だけでなく、日本各地にいるお笑い芸人たちをゲストに招き、お笑いを披露する。彼らが出演したCMの企業は株価が一気に上がったという。


「「ふたりすてきなアビゲイルゥゥゥゥゥゥ!! アビビビビィ!! 」」

 今回で最終回です。毎日21時に更新してますが、書き溜めてました。

 いでっち51号さんの漫才王になろうに影響されましたね。

 向こうは私を含めた作家さんたちが投稿していました。

 私個人で作りだしたものなので、地味です。

 

 読んでいただきありがとうございました!!

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― 新着の感想 ―
メチャメチャ面白かったです(笑)(笑)(笑) 個人的な好みを言えばワンダーボーイズが1番好きだったかな(*´ω`) 漫才王なろうで出世街道を開いたアビゲイル。同事務所の面々もそのステージにあげた功…
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