片足棺桶【クリスマス】
「70歳の夫婦漫才だ!!」
「片足棺桶の登場です!!」
「「どうも~、片足棺桶です~」」
男は泉飛鳥。猫背でだぶついた服を着ていた。頭に手ぬぐいを巻いている。
女は泉千草。こちらも猫背でだぶついた服を着ている。こちらは麦わら帽子をかぶっていた。見た目は弱弱しい雰囲気がある。
「ええ、今日はクリスマスの話をしたいと思います。お母さんはクリスマスと聞いたら何を思いつくかな?」
「やっぱりクリスマスツリーですねぇ。日本人は宗教に関係なくクリスマスが好きですから」
「クリスマスツリーですかぁ、やっぱりクリスマスはそれがないとね~」
「クリスマスツリーは小さくてもわくわくしますわ~」
すると飛鳥は服を脱ぎだした。飛鳥の体は筋肉ムキムキであった。日焼けした肌に禿頭が光っていた。
飛鳥は背中を向けると、バック・ダブルバイセップスのポーズを取った。
「どうだいお母さん。私のクリスマスツリーは?」
「きゃー素敵!! お父さんの背中にクリスマスツリーが立っているわ!!」
「そうだろう、そうだろう」
次に千草も服を脱いだ。金ビキニを着ており、日焼した肌に筋肉がムキムキであった。
彼女もバック・ダブルバイセップスのポーズを取った。こちらは両手を広げている。
「お母さんのクリスマスツリーも最高だよ。これでクリスマスツリーは問題ないな!!」
飛鳥は千草の背中を見て満足していた。
「次はごちそうね。何がいいかしら?」
「まずはメロンだね!!」
飛鳥はサイドトライセップスのポーズを取った。上腕三頭筋を強調している。
「きゃー、素敵なメロン!! おいしそう!! 私のバームクーヘン見て!!」
そう言って千草は後ろを振り向き、バック・ダブルバイセップスのポーズを取る。こちらも手の平を広げていた。
「お母さんのケツのキレがバームクーヘンだね!! とてもおいしそうだ!! 次は板チョコを見せてあげるよ!!」
飛鳥はアドミラブルアンドサイのポーズを取る。こちらは腹筋を見せるポーズだ。
「きゃー、お父さんの腹筋板チョコおいしそう!! ちぎりパンにも見えるわね!!」
「そうだろう、そうだろう!!」
「でもクリスマスらしい食べ物じゃないわね。」
「それはわかる」
二人は急に冷めた。
「筋肉といえばプロテインとか鳥のささ身とかあるけど、こだわりはありませんね」
「一日に少ない量を数回に分けて食べてますね」
「ボディビルダーの筋肉は見掛け倒しとよく言われるけど、そりゃあ格闘技とボディビルダーの筋肉は違いますよ」
そう言って飛鳥は千草を軽々とお姫様抱っこした。そしてくるくるとステージを回る。
回り終わると千草を降ろした。
「このように重い物を持ち上げる力はあるのですよ」
「それって私が重いってこと!! 失礼ね!!」
「君の場合は脂肪ではなく筋肉が重いんだよ。体が引き締まってていいじゃないか」
すると千草はぷいっと飛鳥に背を向けた。膨れ顔になっている。
「なんだいお母さん。ふてくされなくてもいいじゃないか」
「知らない!! 女の子はいつでも体重を気にするんだから!!」
「おいおい、私がお母さんをないがしろにしたことがあったか? 二人で筋肉を鍛え続けた時間が嘘だと思っているのか?」
飛鳥は千草の耳元でささやく。千草は女の顔になった。
「二人で過ごしたクリスマス…、部屋でチンニングマシンで懸垂した日は本物だったろう?」
飛鳥は千草の耳に息を吹きかけた。あんとあえぐ千草。
「私たちは死が分かつまで一緒だ!! これからも筋肉を鍛え上げようじゃないか!!」
「ええ、お父さん!!」
二人は抱き合った。そして離れる。
「「ありがとうございました!!」」
二人は頭を下げた。
CM。丼キング。処理した外来生物をどんぶりにしたよ! アライグマの大和煮丼、アメリカナマズの天丼など勢ぞろい!! 出演:片足棺桶。
SNSの声。『片足棺桶って40年も漫才やっていたのか。テレビに出たの初めてだな』
『筋肉に転身したのは30年前だよ。それ以前は子供が三人夭折してたらしいね』
『泉香菜が二人の子供だよ。かわいいから老後の面倒を見ないよう、遺産はあげないみたいだな』
ダテケンの声『この二人はベテランだけど、ぱっとしないこんびだ
たな.』




