ホワイトエンジェル【だまし討ち】
『悪人顔は俺たちに任せろ!!』
『ホワイトエンジェルの登場だ!!』
「どうも~、松本薫で~す」
黒いモヒカン頭に日焼けした肌。鋭い目に分厚い唇、出っ歯が特徴的だ。40台を超えたところか、黒い背広に黒いシャツ、白いネクタイを締めていた。前は開けている。両手はポケットに入れており、だるそうに答えた。
「どぅふ、本庄、ゆたか……」
こちらは松本より頭一つ低い男だった。全体的に丸く、髪の毛はわかめのようにもじゃもじゃで、腫れぼったい目、豚のような印象で、猫背で陰気臭かった。こちらも黒い背広を着ているが、きっちり着こなしている。
「なぁ、お前。目の前にいい女がいたらどうするよ」
「どっ、どうって……」
「口説くに決まってんだろ!! お前相変わらず馬鹿だなぁ!!」
松本は右手の人差し指で自分の頭をくるくる回しながら、げらげら笑っていた。
本庄は言い返せず何も答えない。
「そうだお前、女を口説けよ」
「ええ…」
「ああ、やれっていってんだよ!!」
言いよどむ本庄に、松本は怒鳴り声を上げた。本庄は嫌々ながら女性を口説こうとする。
すると本庄は背筋をピンと伸ばし、髪の毛を後ろにあげた。
「お嬢さん、あなたこれから流行りのお店に行き、スイーツの写真を撮ってバズらせたいのですね? ええ、言わなくてもわかりますよ。あなたはSNSで有名なインフルエンサーだ。目当てはマスクメロンソーダ!! 昔ながらのメロンソーダにきめ細かいマスクメロンの模様を描いたスイーツが目当てなのでしょう!! え? なぜわかったって? 私は女性の事ならなんでもわかります!! よぅし、お連れのお嬢さんたち3人まとめて勘定を払いましょう!! さらにバズりそうなスイーツも案内してあげます!! そしてその夜はホテルで5人休みました」
「ってはっきりしゃべれるのかよ!! というか5人で!? お前はしゃぎすぎだろう!!」
本庄は陰キャラどころかはきはきとしゃべりだした。驚愕する松本。
「というかこれが私の芸風じゃないですか。普段は陰気そうに見せて、陽キャらに変貌する。それが私なのですよ」
「それは知っているけどさ。でも5人で何をしたんだよ」
「病気のお母さんのために内職をしてました。4人ともインフルエンサーとして入院費を稼いでいたんです。私は彼女たちが安定して稼げる仕事を紹介しましたよ」
うらやましがる松本だが、本庄はきりっと答えた。
「というか女の子たちにそんな設定あったのかよ!! もうちょっと色気のある内容にならないのかよ!!」
「例え作り話でも私には愛する妻と娘がおりますからね。女性と遊ぶなど言語道断ですよ」
「真面目過ぎるわ!!」
松本がまくしたてても、本庄はけんもほろろであった。
「そういう君は道で困っているおばあさんがいたらどうします? 蹴りを入れてカバンを奪いますか?」
「誰がそんなことをするか!! 助けるに決まっているだろう!!」
「君はそういう人なんですよ。顔は悪人面、でも心は聖人。悪魔の皮を被った天使なのですよ」
本庄が真面目に言うと、松本は照れ臭くなった。
すると本庄は再び猫背になる。
「…だから、いつもはこうする…。悪い人、よってくるから…」
「そして相手をだまし討ちにする!! 水戸黄門や遠山の金さんみたいなもんだな!!」
「こちらには権力はないけどね。その代わり大学時代弁護士の資格は取りましたから、法律には強いですよ」
再び背筋を伸ばす本庄。
「「それが俺たちホワイトエンジェル!!」」
松本と本庄は両腕を広げ、右足を上げてポーズを取った。
「「ありがとうございました!!」」
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SNSの声『ホワイトエンジェルは普段ドラマで悪役が多いよね。面白かった』
『二人とも週刊誌では大嫌いな芸能人ベスト5に入っているけど、現実では人に好かれてるよ』
『ADやスタッフには気づかいのできる人なんだけど、SNSで書いたら営業妨害だと注意された。真面目だね』
ダテケン『この二人は吉原興業時代の僕の後輩だよ。当時は取り柄が一切ない凡人だった。それが整形して悪人顔になったらブレイクした。俳優としてだけどね。蒼井企画に移ってから彼らは大魚になった。人生は何が起こる変わらないね』
松本薫。41歳。本庄ゆたか。39歳。中学生の子供がいる。
名前の由来はダンププロレスラーのダンプ松本とクレーン・ユウの【本庄ゆかり】本名をもじったもの。
ロニー自動車はボディービルダー、ロニー・コールマンからとりました。




