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悪意のダンジョン  作者: 佐々木尽左
第3章 下層

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たどり着いた『真実』

 地下8層に降りたショウゴとクィンシーは提供してもらった情報通りの経路をたどった。珍しく魔物と遭遇することもなく、目的地である図書館(ライブラリー)の印がある扉の前に立つ。


 先頭を歩いていたショウゴはとうとうやって来てしまったという感情を抱いていたが、逆にクィンシーは口元に薄らと笑みを浮かべていた。静かに興奮しているようである。


「ついに来たぞ。ここに入れば何かわかるはずなんだ」


「それはいいことなんだろうけど、専用鉄貨は足りるのか?」


「幸いオレは2枚持ってるからな。お前は持ってないんだったか?」


「お前に1枚やったからな。どうせ持っていたところで入れないが」


「ということは、ここはオレが入って調べるとしよう」


「俺の分の専用鉄貨を手に入れて一緒にはいるっていう方法を検討するって前に聞いたことがあるんだが」


「お前、中に入りたいか?」


 雇い主から端的に聞かれたショウゴは黙った。入りたいかどうかと問われると入りたくない。ならばはっきりと返答すれば良いのだが、それはそれでまずい気がした。なので黙ったのだ。


 そのショウゴの態度を見たクィンシーがにやりと笑う。


「なら、オレ1人で入ろう。どのみち、お前は古い文字を読めないからな」


「解読っていう意味では役立たずなのは自覚してるよ」


「決まりだ。オレが入って調べている間、お前はここで待ってろ」


「かなり時間がかかりそうな気がするんだが。一晩その中で過ごすって可能性はあるか?」


「あるな」


「だったら、あそこに扉が見えるだろう。あの部屋を調査して問題なしというのを確認してから入ってくれないか? 一晩かかるときはあそこで野営するよ」


「それはいい考えだな。そうしてくれるとオレも気兼ねなく調べられる」


「さすがに数日間ずっとこもりっぱなしっていうのは勘弁してくれよ」


「はは、善処するよ。さぁ行こう」


 話がまとまると2人は最寄りの部屋へと向かって罠の有無を調べた。ここでは珍しくクィンシーが張り切り、しっかりと魔法を使って罠がないことを確認する。


 前準備が終わるとクィンシーはいよいよ『図書館』型の特別な施設へと入った。扉が閉まるとショウゴは1人になる。本当に残って良かったのか今になって不安になってきた。しかし、今更もうどうにもできない。


 雇い主のことを信じて待つことにしたショウゴは壁にもたれかかった。




 結局、ショウゴは翌朝まで待つことになった。何となく予想はしていたので驚きはないが、本当にそこまで調べるんだなという呆れとも感心ともつかない感情が胸の内に渦巻く。時間に見合った成果があるのならば相当なことが判明しているはずだが、ともかく本人に会わないことには確認しようがない。


 朝食を食べ終わったショウゴは図書館(ライブラリー)の印がある扉近くに座った。通路は視界が利くので不意打ちは難しいことから立ち上がって対応する時間はあるのだ。


 そうして鐘の音1回分の時間が更に過ぎたとき、ようやくクィンシーが中から出てきた。一見すると前と同じように見えるが、その目の輝きは明らかに違う。この悪意のダンジョンでたまに見かける冒険者たちに近くなっていた。


 なんと声をかけようか迷いながらショウゴは立ち上がる。しかし、その心配は必要なかった。クィンシーの方から話しかけてきたからだ。笑みを浮かべてまくしててくる。


「ショウゴ、聞いてくれ! やったぞ! ついにこの奇跡のラビリンスに関する重要な手がかりをオレは掴んだんだ。元々ここは善意のラビリンスと呼ばれていたところで、人間が神々を喜ばせるための施設だったんだ。ここでは、陸上競技や格闘技、演劇に舞踏、美術、音楽、文学など、人間の娯楽や遊戯なんかが広く行われていたんだよ。神々はそれを見て楽しんでいたらしい。しかし、やがて神々がこの地上から去るときに今まで楽しませてくれた礼として、あらゆる願いを叶える水晶を与えたそうだ。ただし、そんな簡単に願いが叶えられるわけにはいかないと、善意のラビリンスを迷宮化し、地中に埋めて、試練を乗り越えたものだけにその資格を与えるようにここを造り替えた。以来、ここは奇跡のラビリンスと呼ばれるようになったということなんだ!」


 あまりの熱量にショウゴは圧倒された。危害を加えてくるわけでもないはずなのに恐怖を感じる。狂人を相手にするということがどういうことなのか初めてその一端を知った。


 ただ、今はそんな感想で終わってしまって良い状況ではない。ショウゴはクィンシーは雇い主なのだ。どこまで付き合うのかという問題はあるものの、このままにしておくのはあまりにも危ない。


 どこに逆鱗があるかわからない恐怖を抱きながら、ショウゴはクィンシーに話しかける。


「話は一応わかった。善意のラビリンスと奇跡のラビリンスというのは同じものを指していたんだな。それがわかっただけでも大発見だ。一応今現在に至るまでの経緯で矛盾するところもなさそうだな」


「そうだろう! やはりここに奇跡を起こせるものがあったんだ!」


「それで、神様から与えられた大きな水晶というのはどこにあるんだ?」


「この迷宮の一番奥に決まってるじゃないか。地下9層の奥さ!」


「書物にそう書いてあったのか?」


「書物には迷宮の最奥と書いてあったな」


「神様が人間に大きな水晶を与えたっていうけど、今まで娯楽や遊戯を見せていただけの人間にいきなりそんな大層なものをくれるものなのか?」


「どういうことだ?」


「神様がやってもらったことに対してのお礼としては、不釣り合いなくらいに大きすぎるお礼じゃないのかって思うんだ。例えば、道を教えてくれたお礼に金貨が詰まった革袋を渡されたら、いくら何でももらいすぎだと思うだろう?」


「その例えは間違っていないか? それに、神の感覚は人間とは違う。人間同士のやりとりを例に持ち出すのは不適切だろう」


 若干不機嫌になったクィンシーに反論されたショウゴはこれは駄目かなと感じた。結論を守るように反論しているように思える。


「わかった。どうせ何があるのか突きとめるために一番下の一番奥まで行く契約だったんだから、実際に見てみた方が早いな。ここで話し合っていても仕方ない」


「そうだな。オレもそう思う」


「ということは、これからはもう、その最奥っていう場所を目指すだけってわけだ」


「ああ。早速行くぞ。まずは地下9層へ続く階段のある部屋を探し出す」


 説得を諦めたショウゴは話を打ち切って行動に移るよう仕向けた。クィンシー側もそれは望むことだったようで乗ってくる。


 話が終わったところで2人は探索を再開した。




 これは幸運なのかそれとも不幸なのか、ショウゴにはわからなかった。少なくとも、クィンシーにとっては幸運なのは間違いない。


 図書館前で議論をした後、2人は地下9層へ続く階段のある部屋を探した。まだ地下8層に降りてきて充分に探索したわけではないので見つけられるのは当分先だと考えるのは妥当だろう。


 しかし、余程勘が冴えていたのかそれとも運が良かったのか、2人はこの日の内に下に降りる階段を発見した。とある部屋の扉を開けると、その奥にあったのだ。


 2人は地下9層へ続く階段のある部屋に入る。そして、階段の側にあの黒猫がちょこんと座っていた。


「あの黒猫、やっぱりいたな」


 黒猫をじっと見つめながらショウゴはつぶやいた。隣のクィンシーは若干不機嫌そうである。


 ここで立ち止まっていても仕方ないので、ショウゴが部屋の中程まで歩み寄った。すると、黒猫がショウゴの前までやって来て腰を下ろす。ショウゴが片膝をつくと加えていた透明な玉を床に置いた。


 水晶を拾い上げたショウゴはそれを見る。やはり中に何らかの文字が刻まれていた。しかし、それが何かはわからない。


「にゃぁ」


 可愛らしい鳴き声を上げると、その黒猫は背を向けて階段に向かって歩き始めた。そして、そのまま歩みを止めずに階段を降りていく。後にはショウゴだけが室内に残された。


 ショウゴは階段に近づく。他と同じ石造りで寸分の狂いなく正確に積み上げられた階段の階下を覗いが、黒猫の姿は見えない。


「やっぱりどこにもいないな。クィンシー」


 振り返ったショウゴは扉の辺りに立っているクィンシーに目を向けて呼ぶと近寄ってきた。そして、隣にやって来たところでクィンシーに問いかける。


「クィンシー、今黒猫からもらったこの水晶の中に刻まれてる文字って何かわかるか?」


 今までなら答えてくれた質問を無視されたショウゴは呆然とした。そのまま見ているとクィンシーは階段を降り始める。なぜそんなに機嫌が悪いのかまったくわからない。


 水晶を懐にしまったショウゴもその後について行く。雇い主の背中を見て階段を降りつつも小さなため息をついた。

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