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悪意のダンジョン  作者: 佐々木尽左
第2章 中層

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地下6層

 一夜を明かした翌日、ショウゴとクィンシーは地下6層の探索を始めた。そのやり方は上の階と同じであり、最近罠の配置について勘所がわかるようになってきたショウゴによって順調に進む。


 朝の間に通路を調べ上げた2人は昼から部屋の探索へと移った。調査済みの通路に囲まれた区域をひとつずつ明らかにしていく。その中でも、今回は変わった場所がいつもより多かった。


 最初に探索対象となったのは、他の部屋の扉よりも立派で遊戯場アミューズメントホールの印がある特別な施設だ。ここではチェスか双六をする場所なのだが、専用鉄貨が1人につき4枚必要になる。


「クィンシー、俺、専用鉄貨は今1枚しか持ってないから入れないぞ」


「オレも3枚だけだから入れん。ここは4枚必要だからな」


「ということは、後回しか」


「そういうことだ。専用鉄貨を稼げる他の場所があれば、そこで手に入れてから入ろう」


 ない袖は振れないということで2人はあっさりと引き下がった。どのみち、地下4層から下の階層に行くほどこの手の特別な施設は増えていくので困ることはない。専用鉄貨を手に入れられる場所もそれだけ多くなるのだ。


 ということで次の部屋へと移っていった2人だが、次の区域を探索しているときに更にもうひとつの特別な施設を発見した。美術館(アートミュージアム)の印がある場所である。


「クィンシー、美術館って絵画が展示されてるあの美術館のことか?」


「資料にはそう書いてあった。ただ、他の特別な施設があれだと、この中もどうだかわかったものじゃないがな」


「ここって専用鉄貨が2枚いるんだよな。俺はやっぱり入れないが、クィンシーはどうするんだ?」


「そうだな。念のために見ておこうか。ああでも、後でお前と一緒に入った方がいいか」


「いや、俺はさすがに入る気はないぞ。大体ここは絵が飾ってあるだけなんだろう? だったら見なくてもいいや」


「だったら俺だけ見てくる。お前はここで待っておけ」


 話がまとまるとクィンシーは1人で中へと入った。


 その後、ショウゴは1人扉の前で待つ。やることもないのでぼんやりと立っているだけだ。かなりの時間が過ぎ、途中で座ったり立ったりと繰り返す。警戒は怠らなかったが暇なのは夜の見張り番みたいだなと感じた。


 そうしてようやくクィンシーが出てくるとショウゴは声をかける。


「クィンシー、どうだった?」


「悪くなかったよ。思ったよりもまともだった」


「え、そうなんだ」


 てっきり酷評が返ってくると思っていたショウゴは目を丸くした。今までの特別な施設を振り返るとひどいものが展示してあると予想したからだ。しかし、どうも絵画は例外だったらしい。


 どうにも納得できない部分があったショウゴだが、それよりもクィンシー自身のことが気になった。入る前と微妙に雰囲気が違うような気がするのである。どこがと言われると具体的に指摘できないのだが、何となくわずかに嫌な感じがするのだ。


 戸惑うショウゴだったが、クィンシーは気にすることなく次の探索へ向かう指示を発した。元々そのつもりだったのでショウゴも承知して歩き出す。


 それからは淡々と部屋の探索を続けた。やがて別の区域へと移ってゆく。やがて調べられる範囲の区域はすべて調べ尽くした。そのため、再び通路の探索へと戻る。


 魔物と出会うこともなく順調に進んでいた2人だったが、ある場所までやって来ると通路の先から人の声らしきものが聞こえてきた。近寄って物陰から見てみると、開け放たれた扉の向こうにある部屋に多数の人々が集まっているのが見える。


「なんだあれ? 何の集まりなんだろう」


「資料にあった停滞者のたまり場じゃないか? 行って確認してこよう」


「え、行くんだ」


 意外な言葉を聞いたショウゴはクィンシーの顔を見た。今までのやり方だと、通路を調べているときは部屋の探索を後回しにしていたのだ。もちろん何事にも例外はあるものの、停滞者のたまり場は優先順位の高い調査対象ではない。なので原則を曲げてまで調べようとする理由がショウゴにはわからなかった。


 さっさと先に向かうクィンシーにショウゴは慌ててついて行く。そのまま部屋に入ると雇い主の方は周囲にいる冒険者たちと話を始めた。


 何の心の準備もしていなかったショウゴは人に話しかけるより、まず周囲へと目を向ける。なかなか広い部屋だが至って普通だ。集まっているのは冒険者ばかりで、どれだけ稼げたか、罠や魔物がどうだったかという話題が中心のようである。


 試しに1人と話をしてみると感じは悪くない。ただ、以前出会った冒険者ほどではないにしろ、どことなく何かがおかしいような感じがした。一見すると普通に見えるだけに裏側からにじみ出る違和感が地味に目立つのだ。


 その1人と話し終えるとショウゴは部屋の外に出た。自分には合わなかったからだ。しばらくするとクィンシーも出てくる。


「クィンシー、どうだった?」


「ある程度の実力で満足している連中だな。少なくとも下層に降りる気がないのはわかった。オレたちには用がない者たちだ」


「それじゃ、もう他に行くんだ」


「この地図を描き終えたら、通路の探索を続けるぞ」


 話をしながらクィンシーはここまでの経路を地図に描き込んでいた。


 さすがにいつもの作業は放り出さないということを知ってショウゴは安心する。やがて描き込みが終わった雇い主から指示を受けると探索を再開した。




 その後の探索は特に何事もなく進んだ。1度魔物に襲われたがそれも撃退する。クィンシーが容赦なく魔法で痛めつけた後だったのでショウゴの戦いは楽なものだった。いささか過剰ではと思うところがショウゴにはあったものの、魔物の強さと10匹程度という数の多さからこんなものかと思い直す。


 戦いが終わった直後、ショウゴは何気なく砂時計を見た。すると、砂が尽きていることに気付く。


「クィンシー、今日の探索はもう終わったな。俺の方の砂が尽きた」


「そうだな。今日はここまでだ。適当な部屋で野営をしよう」


 あっさりとショウゴの提案を受け入れたクィンシーは周辺の地図を描いてから踵を返した。ショウゴは小走りで雇い主を追い越すと前を歩く。


 指示を受けたショウゴが目的の部屋に向かって進んで分岐路を曲がりかけたとき、その先に誰かがいることに気付いた。手でクィンシーを止めてから分岐路の向こうを覗く。すると、見たことのある者たちがいた。酒場で銀髪紅眼の美女と同席していた冒険者たちだ。


 こちらに寄ってきたクィンシーも同じものを見た後、ショウゴに小声で話しかける。


「酒場で見かけた連中だな。ということは、あのローブとフードで正体がわからないのは例の美人か」


「恐らくそうだろう。確か依頼人らしいからな。どんな依頼かまでは知らないが」


「動き出したな。後を追うぞ」


「え、今から!?」


「怪しい連中だ。どこに行くのか知っておいた方がいい」


「別に俺たちに直接は関係ないだろう」


「いいから行くぞ」


 有無を言わせぬ調子で命じられたショウゴは仕方なく見かけた5人の追跡を始めた。なぜここまでこだわるのかがわからない。


 ともかく、ショウゴとクィンシーの追跡が始まった。専門の技術があるわけではないので遠めに距離を開けて後を追う。見失う可能性があったが、ショウゴからすると見つかったときの面倒さの方が厄介だ。


 幸い、相手は2人に気付くことがなかった。ローブの人物を先頭に進んでゆく。やがて、とある部屋に入っていった。


 一瞬躊躇ったショウゴだったがすぐにその部屋の扉まで近づく。


「クィンシー、この中に入っていったぞ」


「入るぞ」


「え、今すぐ!?」


「大丈夫だ。尾行が気付かれてなかったから、たまたまここを探索しに来ただけだと言えばいい」


 言い訳があるのならばと一応納得したショウゴは扉を開けた。すると、室内には人の姿がない。ただ、部屋の奥には階下へ続く階段があった。


「階段のある部屋だったのか」


「尾行して正解だったな」


「まぁ、そうだな。しかし、あの黒猫はいないんだな」


「猫はどうでもいいだろう。それより、地図を描いたら今日は一旦戻るぞ」


「わかった」


 羊皮紙とペンを取り出して地図を描き始めたクィンシーを尻目にショウゴは階段を見つめた。今までは必ず下に降りる階段では見かけた黒猫がいないことを気にする。姿を現す条件が元々わからないので、姿を見せない理由も想像できなかった。


 それともうひとつ、クィンシーの態度がやはりどこかおかしいとショウゴは感じる。今まで黒猫に相応の興味を示していたのに、先程はまったく興味なさげな態度だった。何かを急いでいるからかもしれないが、それにしても素っ気なさ過ぎる。


 美術館という特別な施設に入ってからクィンシーの様子がおかしい。ショウゴはそう強く感じだ。

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