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悪意のダンジョン  作者: 佐々木尽左
第2章 中層

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競技場にこだわる者

 良いことと悪いことがそれぞれあった翌日、ショウゴとクィンシーはいつも通り探索を続ける。前日に隠し部屋を発見できたことから今の目標は地下6層へ続く階段のみだ。


 地下5層自体は合計でもう4日ほど探索しているが今のところまだ下へ降りる階段は発見できていない。もうそろそろ発見できても良い頃合いなのだが、この点は難航していた。


 もどかしい思いをしつつも探索していると、2人はとある通路の先で10人の男の集団と出会う。探険隊であることはすぐにわかったが、それにしては護衛の冒険者以外も体つきがとても良い。


 2人がその集団を眺めながら近づくと相手の1人が声をかけてくる。


「やぁ! この辺りを探索しているのかい?」


「ああそうだ。そっちも探索してるんだよな」


「もちろんさ! ただ、僕たちの目的は他の人たちとはちょっと違うけどね!」


 随分と暑苦しい態度にクィンシーが多少困惑していた。それを見ていたショウゴは雇い主を見守る。押しが強そうな人物なのであまり前に出て話したいとは思わない。


「僕は探険隊の筋肉質な体(マッスルボディ)のリーダー、ジェラード・ヴァーノンだよ。『競技場』型の特別な施設に関する調査をしているんだ」


「オレはクィンシーだ。隣はショウゴ、どっちも冒険者だ」


「それは都合がいい! 君たち、もしかして2人なのかい?」


「そうだが、どうしたんだ?」


「だったら、この競技場(トラック)の競技に一緒に参加してくれないだろうか? 実は、ここの競技はリレーというものでね、1組4人が必要なんだ。ところが、こちらで雇っている護衛のうち2人が怪我をして出場できないんだよ」


「2人が怪我をしてもまだ8人いるじゃないか。どうして全員で参加しないんだ?」


「荷物番だよ。少しでも身を軽くするために、競技をするときは荷物を置いて中に入るんだ。さすがに怪我人だけで荷物番をさせると誰かが来たときに対応できないからね。それに、少しでもいい記録を出したいんだ」


「いやちょっと待て、記録? 死なずにクリアすればいいだけじゃないのか?」


「ただクリアするだけじゃつまらないから、色々と目標を立てているんだよ」


 何か理解できないようなことを聞かされたショウゴとクィンシーは顔を見合わせた。どういうことか最初から説明してもらう。


 特別な施設の中でも競技場型は地下4層より下の各階層にある。中でやる競技はそれぞれ異なるのだが、それを調べるためにジェラード率いる探険隊は各階層の競技場型の特別な施設に出入りして調査していた。今回はこの地下5層の所に来たわけだが、直前で魔物との戦闘で2人が怪我として競技に参加できなくなってしまったのだという。尚、この調査は既に何度も繰り返しているのだが、次第に競技自体にのめり込むようになり、現在ではジェラードの他の面々も日々体を鍛えて競技に臨むようになったらしい。今でも町で少しずつ同志を募ってその数を増やしているのだそうだ。


 非常に明るい調子で説明されたショウゴとクィンシーは絶句した。この悪意のダンジョンで頭のおかしい冒険者は何人か見て来たが、このジェラードたちも間違いなくその中に入ると確信する。確かに今までの狂人とは方向性が違うが、おかしいことに変わりはない。


「どうだろう、ぜひ協力してほしいんだが」


「あー、確かにオレもこの特別な施設に興味は持ってるんだが、なんと言うか、あんたらとはその方向性が違うんだよな」


「興味はあるわけか! ではぜひ一緒に完走しようじゃないか!」


「いや話を聞いてくれ。方向性が違うと言っただろう。大体、競技場型には既に1度入ってるんだ。さすがに何度も入りたいとは思わない」


「む、そうか」


 やんわりと断ろうとするクィンシーの言葉にジェラードが残念そうな表情を浮かべた。その仲間たちも悲しそうな顔をする。


 こう言うのを見ると、ショウゴはなんだかジェラードたちがかわいそうに思えて来るのだから不思議だった。何とか助力できないかと考えてしまうのは変に感化されてしまったからかとぼんやり考える。


「クィンシー、そういえば、あの専用鉄貨っていうのを使わないと中に入れない特別な施設もあるんだよな」


「そうだな。前の舞踏場型みたいなやつのことだろう」


「なら、専用鉄貨を集めるために何度かそれをもらえる特別な施設に入る必要があるんじゃないのか? それとも、競技場型以外の所で専用鉄貨を集めるつもりなのか?」


「そう言われると確かにそうなんだが、お前、嫌だったんじゃないのか?」


「嫌だよ。できればもう入りたくない。でも、どうせ専用鉄貨を集めるために何度か入らなきゃいけないんだったら、他の人を助けてあげてもいいんじゃないかと思ったんだ」


「素晴らしい! そちらのショウゴは随分と素晴らしい精神の持ち主じゃないか! 僕は感動したよ! それじゃこれでどうかな? この競技に参加してくれたら、この階層のことで僕たちが知っていることを教えようじゃないか」


「地下6層へ続く階段がどこにあるのか知ってるのか?」


「もちろん! そちらにも行くことがあるからね」


「まぁ、それならいいか」


「決まりだ! ありがとう、2人とも!」


 随分と暑苦しい笑顔でジェラードがショウゴの助言とクィンシーの決断に礼を述べた。それを受けた2人は何とも言えない表情で小さくうなずく。


 ともかく、2人はジェラードたちと一緒にリレー競技に参加することになった。とはいっても、この悪意のダンジョンで行われる競技なので命懸けである。


 このリレー競技では4人一組で一定の距離を走りきらないといけない。そして、第一走者から第四走者までがひとつのバトンを次の走者に渡す必要がある。やることは前の世界のリレー競技とほぼ同じだ。


 では、命懸けというのはどの点なのかというと、走者1人1人はあの徒競走、2人が地下4層で参加した100レテム(メートル)走と同じ条件で走るのである。


 ここで走るリレーの規則についてジェラードやその仲間たちに教えてもらいながら、2人は荷物を下ろし、武具を体から外した。体が身軽になったが悪意のダンジョン内では逆に不安になる。


「さて、それではチームを発表しよう! 実は君たち2人以外はもう決まっているんだ!」


 ジェラードの説明で、ショウゴがジェラードの組、クィンシーがもう1組に入ることになった。そして、自分たちの身体能力や魔法の有無でどこを走るのか決まる。その結果、ショウゴは第三走者、クィンシーは第一走者と決まった。


 すべての準備が整うと組ごとに別れて扉の向こうへと入る。すると、例の声が聞こえて準備を要請された。ジェラードともう1人が各走者について申告するとそれぞれの待機地点へと転移される。


 第三走者であるショウゴは待機地点に転移していた。はるか後方の開始線へと目を向けるとクィンシーともう1人がいる。雇い主は身体強化の魔法を使ったらしく、準備運動の時点ですでに超人的な動きをしていた。


 例の声がどこからともなく聞こえてくると競技が始まる。第一走者が走り始めた直後、天井から人間大の鉄球が落ちてきた。地響きを立てて床に落ちると走者に迫らんと転がり始める。


「ああ、今回はあれに追いかけられるのか」


 実物を見たショウゴはものすごく嫌そうな顔をした。事前に説明を受けていたとはいえ、やはり実際に目の当たりにしたときの圧迫感はすごい。


 さすがに魔法を使ったクィンシーは早かった。もう1人を突き放して早速第二走者にバトンを渡そうとしていた。そして、それを手渡して自身も手放すとクィンシーの姿が消える。到達線側へとショウゴが振り向くと、そこにクインシーが立っていた。


 ショウゴ側の第一走者もバトンを手渡して消えると第二走者が走り出す。クィンシーからバトンを受け取った走者との差は大きいが少しずつ縮まってきているように見えた。そして肝心の鉄球だが、次第にその速度が速くなっているように思える。走者との距離が次第に縮まってきているのだ。


 隣で待機していた走者がバトンを受け取って走り去るのをショウゴは見た。次いでショウゴの番である。軽く助走しつつ第二走者からバトンを受け取る。しっかりとそれを握ると全力で走った。


 迫る鉄球から逃げるような形でショウゴは駆ける。余計なことは考えない。背後から迫る鈍い音が近づいて来るが気にしない。走る距離は徒競走の2倍、その間速度は一瞬も落とせない。


 第四走者が迫ってくる。無事に手渡すまでがショウゴの仕事だ。残り数歩のところで相手が助走を始める。ショウゴはそれに追いつくべく最後の力を振り絞る。相手が伸ばしてきた手のひらにバトンを乗せ、握ったことを確認すると手放す。


 その瞬間、ショウゴは到達線の向こうに転移し、壁にぶつかった。

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