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悪意のダンジョン  作者: 佐々木尽左
第2章 中層

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地下5層

 地下5層で探索を始めたときの最初の印象は地下4層と変わらないというものだった。ショウゴとクィンシーは降りてきた階段の周辺の通路を調べて回ったのだが、仕掛けられた罠の頻度や種類に違いがなかったからである。この辺りは地下1層から地下2層に降りたときと同じだ。


 ということは、遭遇する魔物は上の階と同じ種類でもその強さはかなり強化されているはずと2人はすぐに気付いた。出会った豚鬼(オーク)4匹の姿にまったく変化がないことからそれを確信する。


「我が下に集いし魔力よ、()の者を絡め取れ、拘束(バインディング)


 直線の通路の奥から突っ込んで来た豚鬼(オーク)たちに対し、クィンシーが魔法を放った。長杖(スタッフ)を突き出した瞬間、2匹が体の動きを止めて床に転がる。


 残る2体にショウゴは襲いかかられた。錆びた戦斧(バトルアックス)と棍棒が左右から迫ってくる。やはり明らかに地下4層の同種よりも速い。この様子では腕力もかなり強くなっていると見るべきだろう。


 そう判断したショウゴは前に転がって同時攻撃を避けた。立ち上がるとすぐに戦斧(バトルアックス)を持った豚鬼(オーク)の背中を切りつける。悲鳴を上げて倒れ込んだそれを一旦無視すると、次いで自分へと振り向いた豚鬼(オーク)に踏み込んで棍棒を持つ右手を切り落とした。


 これで大勢は決したわけだが、それでも豚鬼(オーク)は諦めようとしない。右手を切り落とされた方は怒りの形相を浮かべながらショウゴに掴みかかろうとする。


 迫られたショウゴは一歩退いて片手半剣(バスタードソード)でその首を切り裂いた。血を撒き散らしながら倒れる豚鬼(オーク)を避ける。次いで目を向けたのは背中を斬りつけられて倒れた方だ。立ち上がろうとしているので近づいて首を切り落とした。


 戦いが一段落するとクィンシーがショウゴに声をかける。


「まだ余裕そうじゃないか」


「結果的にはそう見えるだろうな。でもこいつら、やっぱり上の階の同種より強くなってる。何て言うか、しぶとくなった感じだ」


「やはり確実に厄介になってるということか。これは魔物部屋(モンスターハウス)は避けた方がいいな」


「金稼ぎが目的じゃないならそうした方がいい。そこにかかる労力を探索に費やすべきだな」


「オレもそう思う。ああそれと、残りを片付けておいてくれ」


 雇い主に指示されたショウゴは魔法で拘束されている豚鬼(オーク)2匹へと近づいた。体を動かそうともがいているそれらに対して剣で首筋を切り裂く。すると、絶命した後に姿が消えて魔石が現われた。


 魔石を拾ったショウゴがクィンシーに話しかける。


「クィンシー、次はどうする?」


「今日はこの辺りで探索を終わろう。近くにある部屋をひとつ調べてその中で休むぞ」


「やっとかぁ。前みたいな変な部屋はもう嫌だぞ」


「安心しろ。たぶん普通の部屋だ」


 にやりと笑うクィンシーに対してショウゴは胡散臭そうな目を向けた。しかし、何も言わずに指示通り歩く。


 指定された部屋は確かに普通の部屋だった。部屋の一部に落とし穴(ピットフォール)などという罠があったので驚いたが、それ以外は何もない。


 罠を避けて座り込んだ2人は持ってきた保存食を食べ始める。


「さっきの落とし穴、あれの底って下の階層だったよな?」


「そうだな。あの高さだと落ちた時点で死にそうだが、生きていたとしてもかなり厳しいだろう。何しろまったく知らない階層を怪我を抱えた体で回らないといけないからな」


「事実上の死亡じゃないか、それ。魔物だって強くなってるか数が多くなってるんだぞ」


「即死しない可能性が割とあるというところに悪意を感じる」


「あんな罠を知ったら迂闊に動けなくなるな」


「まったくだ。オレも明日からは適宜魔法で探っていくことにする」


 神妙は面持ちでしゃべる雇い主を見たショウゴは改めて悪意のダンジョンの意地の悪さを実感した。真正面から敵とぶつかるのとは違ってわかりにくいだけに神経がすり減る。


 嫌な感じに少し顔をしかめたショウゴは干し肉を囓った。




 翌日、目覚めたショウゴとクィンシーは準備を済ませると部屋を出た。朝の間は通路の探索に費やす。たまに遭遇する魔物が面倒だったが、それ以外は順調だった。


 昼休憩を挟んだ後は調査済みの通路に囲まれた区域の部屋の探索である。ここもいつも通り順番に調べて行くのだが、今回は様子が少し違った。


 他の部屋の扉よりも立派で闘技場(コロシアム)の印がある扉の前に立つショウゴが振り返る。


「なぁ、またここに入るのか?」


「前にも言ったろう。オレたちには専用鉄貨が必要なんだ」


「俺には必要ないんだけどな」


「それに、今日は他にもまだもうひとつあるからな。ぐずぐずはしていられん」


 残酷な事実を突き付けられたショウゴは肩を落とした。しかし、そんなことで雇い主は考えを改めてはくれない。仕方なく扉を開く。


 扉の向こうには円形の闘技場が広がっていた。割と大きい。観客席はすり鉢状の側面に座席が段上に連なっている。出入口はその最上段にあった。


 どこからともなく聞こえてきた声によると、今回はここで格闘技の試合をするらしい。もちろん殺し合いである。参加者であるショウゴとクィンシーはすべての武器を手放した状態で小さい踊り場に1人ずつ立つよう指示された。


 最初はショウゴが挑戦する。荷物と武器をクィンシーに預けると小さい踊り場に立った。すると、闘技場の中央に転移する。目の前にはマネキンのような人形が立っていた。合図と共に試合が始まる。


 素手だと人形相手にどこまで通じるのか気になっていたショウゴだったが、思った以上に人間と変わりがない反応だと感じた。感触からして冒険者か傭兵のような相手である。


 それならばとショウゴは寝技に持ち込んだ。殴り合いで時間をかけると自分も殴られて痛い目を見るからである。それに対して、こちらの世界では関節技などはあまり発達していなかったので、意外に柔道技などが有効だったりするのだ。


 この狙いは当たり、ショウゴが寝技を仕掛けると人形はあっさりと絡め取れた。そのまま首を折って試合を終える。


 観客席に戻って来たショウゴはクィンシーから預けていた荷物を受け取った。次いでクィンシーが自分の荷物を預けてくる。


「ショウゴ、どうだった?」


「普通の人間と戦うのと同じ感覚でいけた。が、お前はどうやって戦うつもりなんだ?」


「もちろん魔法で身体強化をして戦うぞ」


「それはわかってる。で、殴るにしろ関節を極めるにしろ、格闘技の経験がないと難しいんじゃないのか? それとも、魔法で攻撃できるのか」


 何気ない質問をしたつもりのショウゴはクィンシーが呆然としているのを見て顔を引きつらせた。どうやらそこまで考えていなかったらしい。魔法の使用は自分自身に対して使うのは良いが攻撃手段として使うのは禁止だという。そのため、クィンシーの場合は魔法を使っても格闘技的には身体能力がやたらと高い素人にしかならない。


 一体どうするつもりなのか急に不安になってきたショウゴだったが、この部屋に入った以上はもう逃げられない。悲壮な覚悟を決めたという表情をのクィンシーが身体強化の魔法を自分にかけてから闘技場の中央へと転移していった。ショウゴとしては見守るしかない。


 結論から言うと、クィンシーは勝った。試合内容はまさに泥仕合である。身体能力がやたらと高い素人と普通の格闘技経験者の戦いは酒場で披露すれば盛り上がったかもしれない。だが、格闘技の経験者や専門家からすると苦笑いするしかなかった。勝てて生き残れたので良しとする。


 戻って来たクィンシーは疲れ果てていた。そして、2人揃ったところで専用鉄貨を手に入れる。ショウゴもそうだが、特に今回のクィンシーはとても割に合わないものだったに違いない。


 これで懲りてくれたらという淡い希望を持っていたショウゴだったが、残念ながらクィンシーの精神はそこまで弱くなかった。


 次に入ったのは舞踏場である。舞踏会を催す会場(ホール)だ。ここでは流れる音楽に合わせて踊るわけだが、当然まともではない。参加者は自分たち以外が人形か魔物で、衣服に仕込んだ刃物や手にした武器で踊るように殺しにかかってくるのだ。尚、こちらは反撃が許されず、ひたすら踊りながら避け続けなければならない。


 正直ショウゴはやっていられなかったが、それでもクィンシーと一緒に踊りながら避ける。学芸会以上に経験のない舞踏など人形や魔物を真似て見よう見まねで踊るしかなかったが、床にこける度に笑われたのが何より腹立たしかった。人形はまだしも、ドレスを来た豚鬼(オーク)などに嘲笑されるのだからたまらない。


 ようやく舞踏から解放されたときのショウゴは疲れ果てていた。精神がごっそりと削られた気分である。これで参加費として専用鉄貨を5枚も取られるのだから詐欺だと言いたかった。尚、対価は怪しい羽根ペンである。


 ショウゴは更に特別な施設を嫌いになった。

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