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悪意のダンジョン  作者: 佐々木尽左
第2章 中層

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町での調べ物

 悪意のダンジョンの地下3層から約2日かけてショウゴとクィンシーはパリアの町に戻ってきた。夕方、町の郊外へとたどり着くと換金所へと向かう。


 2人は石材を使った無骨な平屋の建物に入り、室内の中央を東西に分断する買取カウンターの前に立った。クィンシーが業者に声をかける。


「奇跡のラビリンスで手に入れた魔石と道具を換金してくれ」


「あんたらか。こりゃまたたくさん持ち帰ってきたな。魔物部屋(モンスターハウス)にでも入ってきたのか?」


「そんなところだ。魔石は細かいのばかりだぞ。行ったのは地下3層までだからな」


 買取カウンターの上に置かれる麻袋と戦利品の数々を目にした業者が目を丸くした。麻袋の口を開けて中を覗くとわかったかのような顔をする。前回同様同僚に声をかけて集計と鑑定を同時に進めた。


 魔石はすべてが屑魔石なので数の割に換金額は少ないが、道具の売却金額と合わせるとある程度まとまった額になる。クィンシーが換金を承知すると金が支払われた。


 換金が終わると2人は換金所から立ち去る。向かう場所は酒場『天国の酒亭』だ。


 歓楽街の一角にあるその酒場に入ると今日も盛況だった。カウンター席がかろうじて2席連なって開いているのを見つけると2人は体を滑り込ませる。


「やっと落ち着けるなぁ」


「奇跡のラビリンスの中だとどこも危険だからな。やっぱり休むなら町の中だ」


「はぁい、注文を聞きに来たわよ」


 カウンターに肘を突いて話をしているショウゴとクィンシーは給仕女に話しかけられた。2人が注文すると笑顔で離れてゆく。


 その後は会話が中断されてどちらも黙って座っていた。ショウゴなどは何とはなしに周囲の声に耳を傾ける。大半は聞き取れないが近くの会話なら断片的に内容を聞き取れた。稼ぎ、罠、魔物、女、噂、悪態など内容は多岐にわたる。多くは聞き流せる内容だ。


 しかしそんな周囲の会話にも、ごくたまに耳を傾けたくなるものがある。


「いつになったら出発するんだろうな」


「さぁ、こればっかりは隊長様次第だしねぇ。まぁ、日当が出てるから文句はねぇけど」


「待ってるだけでカネがもらえるんだ。言うことねぇだろ」


「準備はあらかた終わっちまったもんな。で、応募してくるヤツはまだいないのか」


「らしいぞ。依頼料が安すぎるんじゃねぇかって話を聞いたな」


 耳にした話は大したことのない内容だが、ショウゴは隊長様という言葉が気になった。恐らく貴族率いる探険隊ではないかと推測する。


 尚も話を聞こうとすると、ショウゴはクィンシー共々給仕女に声をかけられた。ほぼ同時に料理と酒を目の前に並べられる。


「お待たせ。ゆっくり楽しんでいってね」


「ありがとう」


「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」


 食事を始めようとしたショウゴの隣でクィンシーが給仕女に声をかけた。それと共に少々の銅貨を握らせる。給仕女がそれを素早く懐にしまうのを見ると近くのテーブルへと目を向けた。それから口を開く。


「何かしら?」


「あそこにいる連中について少し聞きたいんだ。どんな奴らで何をしようとしてるのか」


「最近よく来てくれる人たちね。探険隊で偉大な手(グレートハンド)に雇われた人足よ。悪意のダンジョンの地下5層にある怨嗟の部屋の幽霊(ゴースト)を確保したいらしいわ。隊長の名前は確か、チャールズ・ヤングって言ったかしら」


「あそこか。何だってそんなものを欲しがってるんだ?」


「さぁ? それは知らないわ。貴族様の趣味か、それとも誰かに依頼されたのかも。ああ、依頼といえば、冒険者ギルドに予備調査っていうの? そのための護衛の依頼を出してるみたいよ。ただ、まだ誰も応募してこないらしいから、もう自分たちで直接行くっていう話になりつつあるみたいだけど」


「そうか。どうして怨嗟の部屋の霊体なんだ?」


「そこまでは知らないわよ。気になるのなら冒険者ギルドで依頼を引き受けたら?」


 最後にそういった給仕女は他の客に呼ばれてクィンシーの元から離れた。


 隣で話を聞いていたショウゴは雇い主も同じ話を気にしていたことに驚く。自分はたまたまだったが、クィンシーは何か引っかかったのかもしれないと思い直した。なので話しかけてみる。


「クィンシー、今の探険隊の話の何が気になったんだ?」


「地下2層にも悲鳴の部屋があるのに、なんでわざわざ地下5層に行くのか気になったからだよ。肝心なところは聞けなかったが」


「もしかしたら、悲鳴の部屋の霊体は触れないからなんじゃないか?」


「ああなるほど、怨嗟の部屋の方は触れたんだよな。そうか、その違いか」


 特に深く考えずに答えたショウゴはクィンシーが妙に感心して少し不思議に思った。2つの部屋の差異をどうも見落としていたらしい。


 気になることをある程度解決できた2人はその後食事に集中した。




 翌日、ショウゴとクィンシーは冒険者ギルド城外支所へと向かった。一番の目的は悪意のダンジョンで手に入れた硬貨を両替することだ。やたらと銀貨と銅貨を持っていても重いだけである。


 扉が開け放たれたままの出入口から建物の中に入ると多くの冒険者がいた。暴力的な雰囲気が漂う活気に汗と革の臭いが重なる。


 前回教えてもらった通り、2人は受付カウンターの端にある折り畳みの仕切りが立てかけてある場所に向かった。そうして両替用の行列へと並ぶ。


 結構な時間をかけて受付カウンターまでたどり着くと2人は袋を取り出した。そうしてクィンシーが告げる。


「両替してくれ」


「調子良く稼げて結構なことだな。別々に両替すればいいのか?」


 どちらもうなずくと職員がすぐに両替の作業に入った。硬貨の数が多いので少し時間がかかる。それでも2人の硬貨を数える速度は他に比べて圧倒的に速いが。


 両替が終わるとクィンシーがショウゴに話しかける。


「オレは2階の資料室に行ってくる。お前はこの後好きにしろ。晩飯もだ」


 伝えるべきことを伝えたクィンシーはその場を離れた。2階に続く階段を登る途中で姿が見えなくなる。


 雇い主を見送ったショウゴは受付係に正対した。それから話しかける。


「悪意のダンジョン関連の依頼はあるか? 2人組でも受けられるようなやつだ」


「いくつかあるぞ」


 そう言って提示されたのは次の4つだった。


 1つ目は、悪意のダンジョン遊周の案内依頼だ。ダンジョンに入る貴族のための先導と護衛の仕事である。前回別の受付係に教えてもらった内容と同じだ。


 2つ目は、運び屋の荷物輸送依頼である。地下6層の『停滞者のたまり場』と呼ばれている場所までの荷物運びを依頼者と共にする仕事だ。危険回避能力が高い者は歓迎ということである。


 3つ目は、探険隊の調査護衛依頼だ。これは地下4層から地下6層に存在する『競技場』型の特別な施設に関する調査の護衛である。この悪意のダンジョンには地下4層よりも下の階には通常の部屋以外に特定の目的のための空間があり、この『競技場』型の特別な施設もその中のひとつだ。


 4つ目は、『饗宴場』への同行者依頼である。これも特別な施設のひとつだ。地下7層の『饗宴場』で共に討論してくれる者を募集しているという。


 受付係の話を聞いていると、ショウゴは前に出ていた依頼のいくつかがなくなっていることに気付いた。酒場で話を聞いた探険隊の予備調査の護衛依頼や、悪意のダンジョンで依頼を引き受けた冒険者パーティと遭遇した黒猫の捜査協力依頼などだ。恐らく依頼を引き受けた冒険者パーティがいたり依頼人が依頼を撤回したりしたのだと推測した。


 黙って話を聞いていたショウゴに受付係が更にしゃべる。


「概要はこんなもんだ。それで1つ目の依頼だが、これは悪意のダンジョン遊周の案内依頼だな。ダンジョンに入る貴人のための先導と護衛の仕事と書いてある」


「ああ、それは前に別の受付係から聞いたことがある。受けなかったけど」


「なんだそうなのか。それじゃ次は2つ目だな。こいつは水や食料、それとその他の消耗品を運ぶ仕事だ。報酬は低いが倒した魔物から手に入る魔石は自分のものにできるぞ。3つ目は一緒に競技場型の部屋を攻略しようというやつだ。これはたまにちょくちょく依頼が出されるやつだな。常時応募というわけじゃないが。最後の4つ目はこれも変わった依頼だな。一緒に討論に参加してくれっていう仕事だ」


「色々とあるなぁ」


「まぁな。護衛の依頼が一般的だが、それ以外でも変わったものはあるんだよ」


「うーん、でもどれも今ひとつだな。また次の機会に引き受けるよ」


 話を聞いたショウゴは肩をすくめる受付係との話を終えた。中層以下は変わった依頼が多いことを知る。まだ地下3層までしか行けていないのでそもそも引き受けられないものばかりだが。


 そのことは隠したままショウゴは受付カウンターから離れた。

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