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悪意のダンジョン  作者: 佐々木尽左
第1章 上層

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意識の違い

「行くぞ、ショウゴ」


「わかった」


 雇い主に促されたショウゴはあまり気が進まない様子で歩き始めた。向かう先は先程見つけた臆病者のたまり場である。


 たまり場の様子を遠目で確認したショウゴとクィンシーはどんな場所なのか確かめることにしたのだ。その場所を見つけた以上は気になるというわけである。


 いつもの探索と同じ隊形で2人は進んだ。そうなるとショウゴが先に相手と接触することになる。広場の手前までやって来ると中にいた冒険者の1人に気付かれた。


 顔を向けてきたその冒険者にショウゴは声をかける。


「随分と賑やかだな。何の集まりなんだ?」


「この地下3層で活動する冒険者の集まりさ。あんた、見ない顔だな」


「最近パリアの町に来たばかりなんだよ。ここに入るのも今回でまだ2回目なんだ」


「へぇ、ということは新入りか。ようこそ、新人冒険者(ルーキー)!」


 嬉しそうに迎え入れてくれた冒険者の言葉に乗ってショウゴは広間へと入った。そのときちょうどクィンシーも追いついてきて後に続く。


 広間の中には割とたくさん人がいた。この広い迷宮の一部屋にこれだけの冒険者が集まっていることにショウゴは驚く。


「クィンシー?」


「少し周りの連中と話をしてくる。お前も誰かと適当に話をしておけ」


 立ち止まったショウゴをそのまま追い抜いたクィンシーが近くの冒険者に声をかけた。そこから会話が始まる。


 一瞬呆然としたショウゴだったが、自身も同じように周りの冒険者に話しかけた。誰もが気さくで気軽に応じてくれる。


 話をするとすぐにわかったが、ここに集まる冒険者は地下3層で稼いでいる者たちだった。ここを拠点にして活動していたり近くを通りかかったときに寄ったりとこの広間にいる理由はいくつかあったが、この階層より下には行かないことは共通している。


 それ自体にショウゴが言うことはなかったが、しかし話をしていると違和感があった。最初はそれが何かわからなかったが、何度も一緒に地下3層で活動しようと誘われて気付く。誰もが自分たちと同じように活動させようと迫ってくるのだ。その迫り方は穏やかだが何とも言えない居心地の悪さを感じる。


 次第にやりにくさを感じてきたショウゴが他の冒険者と何とか会話を続けていると、戻ってくるクィンシーを目にした。やがて側まで近づかれると一言告げられる。


「出るぞ」


 有無を言わさないその言葉に驚いたショウゴだったが会話を打ち切って雇い主に続いた。臆病者のたまり場が見えなくなったところで2人とも立ち止まる。


「クィンシー、どうしたんだ?」


「オレたちとは合わない連中だとわかったから抜けたんだ。お前は話しててどうだった?」


「俺までこの階層で活動するべきだとしきりに勧めてくるのが変だったな。別にあの人たちがここで金を稼ぐのは勝手だけど、俺たちまで巻き込もうとするのはね」


「乗り気でないのなら結構なことだ。オレたちの目的はもっと下に行くことだからな。ここで立ち止まるわけにはいかん」


「なんであそこまで誘ってくるんだろう?」


「仲間がほしいんだろうな。数を集めて自分たちが多数派だと言えるようになったら、それが常識、当たり前だと言って大きな顔をしたいんだろうさ」


「少数派でも好きにしてればいいのに。どうせ誰も干渉してこないんだから」


「それじゃ落ち着けないヤツってのがいるんだよ。まぁ、もうオレたち関わることはないがな」


「そうだ、あそこにブラッドたちっていたのか? あの運送屋(トランスポーター)


「いたぞ。他の連中相手に商売をしてた。あいつも同じか、似た者同士なんだろう。さて、引き続き地下4層へ続く階段を探すぞ」


 少々強い口調でクィンシーが会話を打ち切るのを見たショウゴは黙った。そして、雇い主の指示に従って歩き始める。


 その日はずっと階段を探し続けたが、ついに見つけられなかった。




 翌日、ショウゴとクィンシーはいつものように探索を再開した。探索済みの地域からひとつ外の一帯を巡り、魔物を排除し、罠を解除し、そして地図を埋めていく。


 そうして1日がそろそろ終わりそうだという頃になって、地下4層へ続く階段のある部屋をやっと発見した。


 部屋の奥に階下へと続く階段が目に入った2人だったが、同時にそろそろ見慣れつつあるものがいることに気付く。例の黒猫だ。階下へと続く階段のぽっかりと空いた穴の片隅に猫がちょこんと座っている。


「またいたな。なんでいつも階段なんだ?」


「そんなのオレが知るわけないだろう」


「前に見た黒猫なのかな」


「ショウゴ、そこは重要じゃない。あれが上の階で見かけたのと同一個体であれ、そうでなかれ、階段に黒猫がいること自体に意味があるんじゃないのか?」


「あれも悪意のダンジョンの仕掛けのひとつということか。ということは、魔物なんだ、あの黒猫」


 扉の所で立ったまま2人は顔を見合わせて黒猫について語り合った。3度目ともなるとさすがに偶然だとは思えない。何かしらの必然性があってここにいるということで意見が一致する。ただ、それ以上のことはわからない。


 どうしたものかと2人が動きあぐねていると黒猫が先に動く。


「にゃぁ」


 可愛らしい鳴き声を上げると、その黒猫は背を向けて階段を降りていった。それきり、室内は再び静かになる。


 ショウゴとクィンシーは階段に近づいた。それ自体は通路や部屋と同じ石造りで寸分の狂いなく正確に積み上げられている。その階段の階下を2人して覗いてみた。しかし、ずっと続く階段が見えるだけである。


「やっぱりいないな」


「ただの猫ではないということか」


 ショウゴもクィンシーもしばらく階段を見つめた。まるで階下へと誘っているかのような黒猫の態度にどちらも難しい顔をする。というのも、階下に行くのは予定通りなのだが、同時に誰かによって誘われているような気もするからだ。これが罠だった場合、取り返しがつかないことになる可能性がある。


「クィンシー、あの黒猫って毎回階段で出会うものなのか?」


「町で情報を集めていたときにはそんな話を聞いたことはないが」


「これ、たぶん次の階段でも会うよな?」


「もしかしたら特定の条件が揃ったときだけ姿を現すのかもしれんぞ」


「他のパーティは毎回こうやって黒猫と会ってなかったよな」


「会ってたら、黒猫を探してた連中がとうの昔に捕まえてるだろうさ」


「それもそうか。だったらどうして俺たちだけなんだろう」


「わからん。オレは出会う条件より、出会った結果どうなるのかの方が気になる。これが不吉な出来事の前兆だったらたまらんぞ」


「気になるよな。何かこう、説明でもあったら嬉しいんだが」


「隠し部屋にこの奇跡のラビリンスの取扱説明書が置いてあればいいんだが」


「なんでそんなとこにそんなものがあるんだよ」


「いいじゃないか。夢は持とうぜ、ショウゴ」


 最後の方は冗談の方が強くなって2人はいつの間に笑い合っていた。緊張の糸が切れたようである。


「クィンシー、地図はまだ描かないのか?」


「おっとそうだった。すっかり忘れていた。これも全部あの黒猫のせいだな」


 ショウゴに返答しつつもクィンシーは羊皮紙とペンを取り出して階段のある部屋を地図に描き加えた。これで地下3層での活動に区切りが付く。


「これで終わりだ。残り時間は、もうあまりないな。ショウゴ、今日はここまでにしよう」


「わかった。やっと終わったかぁ。ということは、戻って野営だな。行くか」


 踵を返したショウゴが階段のある部屋の外に出た。クィンシーも後に続く。


 野営地として選んだのは調査済みの部屋だ。中に入ると奥の隅へと向かう。荷物を下ろし、座ってしまえば野営準備は完了だ。


 2人は荷物から保存食を取り出して夕食を食べ始めた。力任せに噛みきっては咀嚼する。しばらく黙って食べ続けた。


 やがて、クィンシーがショウゴに声をかける。


「ショウゴ、明日は地下4層に降りて少し探索してから町に引き上げるぞ」


「明日のことは俺も考えていたんだが、下には降りずにそのまま外に出ないか?」


「降りずにか? なぜ?」


「次の地下4層は中層だろう。今までとは全然違うだろうから、一旦町に戻って万全の状態にした方がいいんじゃないかって思ったんだ」


 自分の考えを披露したショウゴは黙ったクィンシーを見た。別に焦っているようには見えない。単にもう1日くらいは探索しても大丈夫だと考えたように思える。


「そうだな。町で気になることを調べてから臨んでもいいか」


「ということは、明日はすぐに上へ向かうのか」


「ああ、そうしよう。別に急がなくてもいいからな」


 考え込んでから返答したクィンシーは何度か小さくうなずいた。自分の意見が通ったショウゴは少し喜ぶ。


 翌日、2人は出発の準備を整えるとすぐに地上目指して歩き出した。

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