14時限目 お兄ちゃんの――。
2017年10月18日
タイトル「絶対無理と思っていた学園一の美少女【姫騎士】と付き合い始めたら、何故か甘々な関係になりました」変更しました。
度々申し訳ないm(_ _)m
「大久野くんの妹さん、なんですか!?」
円卓の会議室で素っ頓狂な声を上げたのは、詩子さんだった。
朝の騒動で円卓の兵隊さん達に取り押さえられたぼくの妹は、そのまま連行される。
その後、厳しい取り調べを受け、すっかり灸を据えられた理采の処分は、円卓の長である会長に委ねられた。
会長は人払いをし、ぼくと詩子さんを呼び出したのだ。
ぼくは事情を話すと、詩子さんの絶叫につながったというわけである。
「す、すすすすすいません! 未来の旦那さんの妹さんをわたし――」
詩子さん、落ち着いて。
話が飛躍しすぎ!
それにいつもの姫騎士無双も、理采にはまるで通じていないらしい。
「キャアアアアアアア!! 姫崎先輩だぁぁぁぁあああ!!」
叫ぶや否や、目をピンク色にさせて近づこうとする。
ギシギシと音を立て、円卓の人たちによって施された拘束から逃れようとしていた。
今にも飛びかかって、靴を舐めさせてくださいといわんばかりに興奮している。
「姫崎先輩! 靴を舐めさせてください!!」
本当に言うな!
比喩でいってるのに。
「はっはっはっ。なかなか愉快な妹さんじゃないか。一体どうやって、こんな風に調教したんだい!」
「ぼくが吹き込んだみたいにいわないでもらえますか!!」
そもそも妹が詩子さんのファンだと気づいたのは、今朝なのだ。
もちろん、ぼくは混乱していた。
今日、妹の部屋で見たもの。
それは壁一面に貼られた詩子さんの写真だった。
さらに熱烈な愛の言葉も書き殴られた紙もあって、もはやホラーの域に達していた。
「なるほど。そういう事情か」
ぼくの心の声から事情を察するのはやめてもらえませんか。
「同じことを2度も説明しなくて済むじゃないか?」
「微妙にメタい発言しないでください」
「大丈夫。君がいきなり心の声に下ネタをぶっ込んできても、私は寛容な心で受け止めるつもりだよ」
「いいませんよ! そんなこと!」
ぼくが会長と馬鹿なやりとりをしている間も、理采は腹を空かせた野犬のように息を切らし、詩子さんにねっとりとした視線を送っていた。
その間に入ったのは、他ならぬ姉である会長だった。
「やあやあ、大久野くんの妹殿。私の名前は、姫崎亜沙央。この円卓の長にして、光乃城学園の生徒会長をしている。ついでにいうと、君が盛大に告白してくれた姫崎詩子君の姉だ。よろしくね」
「姫崎先輩のお姉さん……。じゃあ、つまり義姉さんですか!」
「う、うん。そっちの義姉さんはまだ気が早いと思うので、将来にとっておこうか」
「お願いします! 姫崎先輩と結婚させてください!」
「無垢な少女の願いを聞き届けてあげたいのは山々だが……」
「今なら、可愛い系の妹がついてきますよ!」
…………………………………………………………………………………………。
「悪くないなあ」
「あっさりほだされないでください」
一体、その長い間にどれほどの思考が巡ったのだろう。
そもそも会長には、詩子さんっていう宇宙最強の美少女がいるというのに。
「いやあ、可愛い系の妹というのは、色々コンプしたくなるもんなんだよ!」
トレーディングカードか!
ぼくと会長が不毛なツッコミ合いしていると、詩子さんは言った。
「あの……大久野さん」
「どうか理采と! もしくは雌ブタとお呼びください、姫崎先輩。わたしもご主人様と呼ばせてもらっていいですか?」
「めんどくさいので、全却下でいいですか」
詩子さんはどん引きしていた。
少しぼくの方を見る。
あれはきっと「妹さんにどんな教育をしているんですか?」という目だ。
誤解なんだ、詩子さん。
ぼくも今さっき知ったんだ。
家でこんなモンスターが育っていたことを。
「実は、わたしとお兄さんは付き合っています」
詩子さんは告白した。
この世でぼくと詩子さん、会長、一部の関係者しか知らない事実を。
ちょっとびっくりしたけど仕方がない。
こうでも言わないと、理采の想いは止められそうにない。
「知ってますよ、我が兄が泥棒猫なのは」
理采がぽつりと呟く。
その一言に、ぼくたちは同時に目を剥いた。
あと、前にもいったけど、その泥棒猫の使い方おかしくない?
「理采、いつから?」
「昨日……。夜中に手をつないでいるのを見た」
あちゃー。
見られていたのか。
じゃあ、今日の唐突な告白は、ぼくと詩子さんの関係を知ったのが、トリガーになったのだろうか。自分の好きな人が、親族と付き合っているなら、焦る気持ちはわかるけど。
気まずい雰囲気になる中、理采の大きな瞳は詩子さんを捉えた。
「あの……なんで、お兄ちゃんなんですか?」
「なんでって……」
「はっきりいって信じられません。控えめにいっても、顔はよくないし、胴長いのに、足は豚足だし、頭もよくありません。時々、豚の方が賢いんじゃないかって思う時があるし。全体的に豚にしか見えないんですよ」
り、理采!
控えめが控えめになってない。
あと、豚を押しすぎ!
いや、自覚はあるよ。
確かにデブだよ。
でも、なんか無理矢理「豚」っていおうとするのはやめよう。
お兄ちゃん、泣いちゃうから。
「あとメンタル弱いし。すぐ泣くし。あと豚だし」
謎の豚押しやめろ!
「お金だってありませんよ、うち。……一体何を企んでいるんですか。うちのお兄ちゃんをからかっているなら、今すぐ理采と――」
マシンガンのように射出されていた理采の言葉が切れる。
妹は詩子さんの顔を見ながら、表情をこわばらせていた。
小さな肩がかすかに震えている。
「なんで笑っているんですか?」
その通り、詩子さんは笑っていた。
さぞかし恋人を馬鹿にされて怒っているのかと思いきや、穏やかに微笑んでいたのだ。
思わず手を合わせたくなるほど、穏やかに……。
「理采ちゃん、本当はお兄さんが好きなんですよね」
「な、なな! なんでそんな! 理采が好きなのは――!
「だって、さっきからお兄さんのことばかり心配してるじゃないですか?」
「ふえ!!」
豆鉄砲をくらった鳩のように理采は固まる。
「それにいつもお兄さんにお弁当を作っているのは、理采さんだと聞きました」
「あ、あれは、自分の分と一緒に作ってるだけで」
「朝食からちゃんこ鍋が出てくるぐらい、気合いが入ってるっていってましたよ」
「なんでそんなこと――」
「お兄さんから聞いてます。すっごく働き者で助かってるって」
理采はぼくの方を睨んだ。
半泣きになりながら、「なんで余計なことを喋るの!」と目で訴えていた。
「本当はお兄さんがわたしに騙されているって思って、心配してるんじゃないですか?」
「なるほど」
会長はポンと手を打つ。
「大久野くんと詩子が付き合っていることを知った理采ちゃんは、いても立ってもいられず、学園に乱入してきたというわけか。詩子の真意を聞くために」
なんか無理ないですか、その推理。
「恋は盲目というじゃないか。過大な愛は時に真実の愛を見誤らせるものさ」
会長が珍しくいいこといったような気がする。
「気がするんじゃない。事実、いいことをいったんだよ」
得意げに鼻を鳴らした。
ぼくは妹に向き直る。
「理采、本当か? 本当だったら誤解だ。お兄ちゃんと詩子さんは――」
「違う! 違うもん!」
大きく頭を振り、妹は顔を上げる。
その瞳は少し涙に滲んでいた。
「お兄ちゃんのぶたぁぁぁぁぁああああああああ!!」
そこはせめて馬鹿だろぉぉぉおおお!!
妹は教室を飛び出していく。
てか、いつの間に拘束を解いたんだ。
ともかく追いかけないと!
「やめたまえ、大久野くん。今は当事者間で話し合ってもこじれるだけだ」
「で、でも――」
「妹を思う気持ちはわかるが、ここは私に任せたまえ。悪いようにはしないから」
会長が……?
「なんだ、その猜疑心に満ち満ちた目は」
「べ、別にぃ……」
「いつかの女優じゃあるまいし。そもそもこういうことはな。同性同士、腹を割って話した方がいいと思うのだ」
一理あるけど、やっぱり不安だ。
「大丈夫ですよ、帝斗くん。お姉ちゃんは、詐欺師で、狡猾で、悪魔みたいなクズ野郎ですけど、場を整えるという点では天才ですだから」
さらっと真顔で、実の姉をディスらないで下さい、詩子さん。
そんなこというと、会長が地の底まで落ち込んじゃいますよ。
ずぅぅうう~~~~んん……。
ああ! 会長が廊下の隅で三角座りしながら、1人で〇×ゲームを始めちゃった!
「と、ともかくだ。妹さんに2人の関係がばれたのは、我々円卓と、姫崎家の失態でもある。大船に乗った気持ちで任せてくれたまえ」
会長はドンと大きな胸を叩くのだった。
◇◇◇◇◇
家に戻ると、理采が帰ってきていた。
それどころかダイニングの方から良い匂いが漂ってくる。
おそらく理采の十八番料理の1つ「豚肉と秋野菜カレー」だろ。
靴をポンと脱ぎ散らかし、早速ぼくはダイニングに進んだ。
エプロン姿の理采が、カレーの味見をしていた。
「あ。おかえり、お兄ちゃん」
「うん。ただいま、理采」
「もうすぐ出来るから、ちょっと待っててね」
満足そうに微笑む。
やがて、御飯とカレーがてんこ盛りの皿をテーブルに並べた。
まるでエッフェル塔のように盛り付けられたカレーを見ながら、ぼくはホッとする。
ああ、いつもの理采だ。
ぼくを肥え太らせることに躊躇のない妹の姿があった。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「なんでもない。部屋に鞄を置いて、着替えてくる」
ぼくは申告通り、鞄を置き、部屋着に着替える。
ダイニングに戻ると、あのエッフェル塔カレーと対峙した。
「「いただきます」」
ともに手を合わせ、声を重ねる。
早速スプーンで掬った。
美味い。
やっぱり、ぼくの妹が作るカレーは最高だった。
すると、理采は唐突にスプーンを置く。
「今日はごめんね」
やや俯き加減に、謝罪を口にした。
ぼくは首を振る。
「いいよ。お兄ちゃんこそごめん。心配させて」
「お兄ちゃんが謝ることない。理采が悪いの」
沈痛な表情を崩さない。
ぼくもまたスプーンを置いた。
「詩子さんと話してみて、どうだった?」
「え? うん。すっごい素敵な人だったよ!」
「理采は今も、詩子さんのことが好きなんだよね」
「う、うん。もちろん……」
「良かった」
ぼくは笑った。
対して理采はキョトンとする。
「ぼくは嬉しいんだ」
「え?」
「自分の妹が、同じ人を好きになってくれたことが……」
「お兄ちゃん……」
「兄妹で同じ人を好きになったんだ。それは多分、運命だと思う。だから、理采が好きな人は、お兄ちゃんの恋人だけど、それでも詩子さんとは仲良くしてほしい。ダメかな?」
「あのね。お兄ちゃん!」
理采の声には、何か切実なものを感じた。
やはり辛いのだろうか。
だよな。
ぼくも逆の立場なら……。
「理采ね。考えを改めたの。理采は、もう……。詩子さんの恋人になるのを諦める」
「い、いいの? それで」
「だから、お兄ちゃんは詩子さんを幸せにしてね」
「うん。もちろん……」
「結婚して、この家に3人で暮らしましょう」
…………へ?
「そしたら、理采は詩子さんの小姑ってことでしょ! つまり、詩子さんを思うがままにすることが出来るってことじゃない!」
ちょっと待って!
小姑って、そんな奴隷商人みたいな権利ないからね。
「その時にはお兄ちゃんは、社会人になって会社にいってるから……。真っ昼間から詩子さんのあれをあーして、げへへへへ……」
完全にうちの妹がエロ親父になっているんだが!
誰だよ、理采に変なことを吹き込んだのは!!
「え? 会長さんだけど……」
生徒か――いや、姫崎亜沙央ぉぉおおおおおおおお!!
おぼえてろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!
夜集計でジャンル別4位でした。
でも、まだ頑張って更新します。
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