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絶対無理と思っていた学園一の美少女と付き合い始めたら、何故か甘々な関係になりました  作者: 延野正行
第1章

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11時限目 ぼくの未来。彼女の未来。

お昼に上げようと思っていたのですが、予定していたお話が夜のお話なので、

急遽このお話を作ることにしました。遅れて申し訳ないです。

おやつのお供に“あまあま”なお話をどうぞ堪能ください。

 光乃城学園では、1年生の頃から今後の進路について考えるように指導される。

 偏差値が高い学校だけあって、希望のほとんどが進学だ。

 けれど、さらにその先が重要と考えているらしく、様々な専門家を呼んで、職業についての説明会を行っている。


 生徒は興味ある職業をあらかじめ申告し、体育館に設けられたブースで専門家の話を聞く。ちょうどCMなんかで見る就職博と似たような感じだ。

 そのイベントの後、いわゆる進路希望調査書を書かされ、その日の学校は終わった。





 いつも通り、件の教室に行く。

 紅の夕日を見ながら、ぼくの恋人――詩子さんが座っている。

 相変わらず、絵になる光景だが、モデルはどこか物憂げな感じだ。

 珍しく頬杖を突いて、窓の外の校庭を見つめている。


「こんにちは、詩子さん」


「あ、はい。こんにちは、帝斗くん」


 詩子さんは慌てて振り向く。

 ふっと吐息をつく。


 なんか元気がない?


 教室にいた時からそうだった。

 なんか心ここにあらずという感じで、窓の外を見ていることが多かった。


 すると、詩子さんの方から話しかけてきた。


「帝斗くんは、進路をどうするんですか?」


「え? ああ……。悩んでるよ。一応、進路希望調査書には進学って書いたけど」


「進学ですか……。わたしもそうしようかな」


 やっぱり詩子さんの表情は冴えない。

 言動もいつもと違う。

 ひどく後ろ向きな感じがした。


「今日の職業説明会、詩子さんは何の職業の説明を聞きに行ったの?」


「フラワーコーディネーターの説明を聞きに行ってきました」


「どうだった?」


「はい。軽い実習があるんですけど、お花1つで周りの印象が魔法にかかったように変わる様を見て驚きました」


 詩子さんはまさしく花が開いたように明るくなる。

 職業説明会ではうまくいったようだ。

 むしろ、向こうも驚いていただろうな。

 きっと彼女の美しさは、どんな花よりも周りの印象を変えてしまうだろうから。


「帝斗くんは、どんな専門家のお話を?」


「……ううん。ちょっと照れくさい、かな」


「わたしがいったのに帝斗くんがいわないなんて、ズルいです」


 むくぅ、と膨れる。

 怒っているのに、やたら可愛い。

 ずっと怒っててほしいかも。


「笑わない?」


「笑いません」


 ぼくはかあと血管が開いていくような感覚を感じながら、意を決して告白した。


「えっと、ね……」



 小説家……。



「小説家の人の話を聞いてきたんだ」


「それって、つまり……。帝斗くんは小説家になりたいってことですか?」


「いやいや、その……。興味があったっていうか。漫画とかアニメが好きだけど、正直にいうと絵を描くのは苦手だし。でも、文章ならって安直に考えてるだけで。そもそもまだ書いてもいないし」


「素敵じゃないですか!」


 詩子さんの声が弾ける。

 無意識だろう。

 ぼくの手を握ると、身を乗り出し、顔を近づける。

 オニキスの瞳は、爛々と輝いていた。


「わたし、応援しますよ。帝斗くんの夢」


「あ、ありがとう」


 予想外の反応だ。

 まさかこんなに食いつかれるなんて思わなかった。

 でも、ごめんね、詩子さん。

 半分は、たまたま知ってた超マイナー作家さんが、説明会に来てて、生で会ってみたいっていうミーハーな心から聞きにいったんだ。


「帝斗くんは凄いです。ちゃんと夢を持ってて」


「たいそうなものじゃないよ。本当に実現出来るかどうかも怪しいし」


「わたしにはないから」


「ないって……。フラワーコーディネーターになりたいんじゃないの?」


 詩子さんは首を振る。


「あれは、ちょっと興味があっただけです。本当に仕事にしたいかというと」


 また物憂げな表情だ。

 そうか。詩子さんは将来の目標が持てず、悩んでるんだ。


 ぼくの声に思わず力が入る。


「詩子さん!」


「は、はい!」


「ほんのちょっとでもいいんだ。興味があれば、どんどん飛び込んでいけばいい。ぼくたちは若いんだ。やり直しはいくらでもきく。迷うぐらいなら、恐れるぐらいなら、前に飛び込んで、嫌なら逃げればいい」


 詩子さんはちょっと驚いていた。

 その顔を見ながら、ぼくは微笑む。


「――て、その小説家の人がいってた」


「小説家の――」


「ごめん、ぼくじゃなくて。でも、ぼくもそう思う。新しいことに踏み込むことって怖いよね。ぼくもそうだ。けど、詩子さん。忘れないでほしい」



 詩子さんには、ぼくがいるから。



 ぼくは決めた。そして誓った。

 詩子さんを幸せにすると。

 彼女を守ると。


 すると、詩子さんは笑う。

 今までの不安を一蹴するような会心の笑顔だった。


「ありがとうございます。わたしを励ましてくれて」


「ど、どういたしまして」


「けれど、帝斗くんは少し勘違いしています」


「ふへ?」


「学園を卒業するということは、それぞれの道を歩むことです」


「う、うん」


「でも――」



 わたしは、帝斗くんと離れたくない。



 あ……。

 呆然とした。

 そうか。詩子さんはずっとそのことを悩んでいたんだ。

 ぼくと離ればなれになるんじゃないかって。


「大丈夫だよ。卒業したって、ぼくたちは一緒だよ」


 そうだ。

 折角、こうして奇跡のように巡り会えたんだ。

 卒業なんて言葉で、ぼくたちの関係まで卒業したくない。

 ずっといたい。

 ずっと、ずっと側にいたい。


「わたし、決めました。自分の進路」


 詩子さんは唐突に宣言する。

 やがて、机の中から1枚の紙を取り出す。

 それは白紙の進路希望調査書だった。

 どうやら、まだ出していなかったらしい。


 詩子さんはおもむろに記入を始める。

 静かな教室に、ペンを走らせる音だけが響いた。

 やがてペンを置く。

 調査書をぼくの方に向けた。



 帝斗くんのお嫁さん。



 …………。

 はう――――!


 血液が一気に沸騰する。

 汗が一気に揮発して、白い湯気がぼわりと上がった。


「ダメ、ですか?」


 調査書で半分顔を隠しながら、詩子さんは尋ねる。

 隠してはいるけど、白い肌は赤くなっているのがわかった。


 ぼくは全力で首を振る。

 ダメじゃない。

 それが出来れば、どんなに幸せだろうか。


「ダメじゃない。ぼくも詩子さんと家庭を築きたい!」


 1時間といわず。

 ずっと――一生、彼女と一緒にいたい。


 詩子さんの顔がますます赤くなる。

 まるで撃沈した戦艦みたいに、調査書の裏に完全に隠れてしまった。


 茜色が教室を染める。

 ぼくたちはいつも通り、顔を真っ赤にしながら、大切な1時間を過ごした。




 ◇◇◇◇◇




「じゃあ、早速進路希望調査書を出してきますね」


 詩子さんは席を立った。


「あ、うん」


 え? あれ?

 もしかして、調査書にはまだあの文字が書かれているんじゃ。


 首を傾げるぼくの横を、詩子さんが側を通り抜けていく。

 鼻唄を歌いながら、なんとも嬉しそうだ。


 まあ、彼女が楽しそうなら、ま――いっか。


 …………。

 …………。

 …………。


「よくねぇよ!」


 詩子さん、ちょっと落ち着いて!

 詩子さぁぁぁぁぁぁぁああんん!!


 ぼくは教室を出て行った詩子さんを追いかけるのだった。


次のお話に合わせて午後10時に投稿しようと思います。

よろしくお願いします。

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