死者と生者の心を繋ぐ
ある世界では様々な種の人型の生命が共存していた。
種が異なれば生きる時間も異なる。百年を生きることのできない短命の種もあれば、千に届く年輪を重ねることのできるような長命な種もあった。
それでも彼らは同じ人であった。時に交わり、時に別れ、時に合いの子にして愛の子たる新しき種を生み落とすこともあった。
しかし、常に最良の結果をもたらす訳ではない。生きる時が違う者たち同士による営みは悲劇を呼ぶこともあったのだった。
森沿いの小さな村に短命種の夫と長命種の妻という一組の男女がいた。小さなころから互いを良く知っていた彼らは、長じるとそれが当然のことであるかのように契りを交わした。周囲も二人を祝福し、二人は幸せな家庭を築いていった。
夫が老衰で亡くなるまでは。
妻は悲しみに暮れた。毎日墓の前に行っては泣き、墓石は乾くことがないほどだった。
初めこそ周囲の者たちも心配して慰めの言葉をかけたり気分転換に別の場所へと連れ出そうとしたりしていたのだが、頑なに拒むその姿に次第に打つ手なしと一人、また一人と離れて行ってしまったのだった。
そして今日もまた彼女は愛する者が眠るその場所へと足を向けていた。
「分かっていたことのはずなのに……、こんなに悲しいだなんて。あの頃の私たちは理解していたつもりになっていただけなのね……」
思い出はいくらでも蘇ってくる。甘美な夢に微睡みながら、ふと意識がはっきりした際にそれがもう失われてしまっているという事実を突きつけられるということの繰り返し。
彼女は目に見えてやつれていた。
いっそ本気で自らの命を絶ってしまおうか、そんなことすら考え始めるようになった頃、墓地に彼女以外絶えて久しかった来訪者が現れたのだった。
その人物は全身黒づくめの姿で、右手の中指にはシンプルながらも不可思議な光沢を放つ指輪がはめられていた。
「呼ばれたような気配がしたので来てみたのですが……。ああ、これは心配だったでしょうね」
「……あなたは?」
その怪しげな風体もさることながら、見たこともない顔だったことに彼女は警戒を強めながら尋ねた。
「おっと、挨拶もせずに失礼しました。私は旅の死霊術師です。あなたはそちらにお眠りの方の……?」
「……妻よ」
「そうでしたか。実はあなたの旦那さんに呼ばれたようなのですよ。何でも話しておかなくてはいけないことがあるそうで」
そう言うと、黒づくめの男はどことも知れない世界の言葉で、この世界をも形作っている理に働きかける。
死者と生者の心を繋ぐために。
おわり
お読みいただきありがとうございました。
今後の作品作りの参考にしたいので、できましたら感想など頂けるとありがたいです。
もちろん強制などではありませんので、お気軽に書いてもらえればと思います。
それではまた、別の作品で。




