第3話「放課後の図書室で(2)」
放課後の図書室には意外にも人がいない。
今日もこの広い空間にはちらほらとしか人の影がなかった。
まぁ、その方が都合が良かったりするんだけど……
私は一通り貸し出しの記録をまとめ終わると、読みかけの本を鞄から取り出した。
人が少ない方がゆったりと静かな雰囲気で読むことが出来るのだ。
私が今読んでいるのは天音夜椰さんの『星屑』というシリーズの本の三巻目。
意地っ張りだけど根は優しい主人公の少年が、冒険をしながら少しずつ成長していく話だ。
恋愛要素も含まれていたりしている。
ありきたりな話だけど、読み始めたら止まらない。
今まで結構本を読んできたけれど、この本は中でもお気に入りの一作となっている。
確か全八巻だったと思うけれど、残念な事に学校の図書室には三巻までしかなかった。
今度本屋さん行ってこのシリーズの続きを探さなきゃなぁ〜……
そんな事をぼんやりと考えながらも、私はいつのまにか本の世界へとのめり込んでいった。
***
ふと気がつくと辺りは暗くなり始めていた。
暗い図書室に赤い夕陽が細くなって、窓から幾筋も差し込んでいる。
先ほどまでいた生徒達の姿もいつのまにか見えなくなってしまっていた。
図書委員の活動時間は一応、4時から6時までということになっている。
今は5時45分。
そろそろ職員会議も終わる時間のはずだ。
美智子先生ももうすぐ図書室に戻ってくるだろうか?
開いていた本を閉じて鞄の中にしまう。
本の整理を始めようとカウンターの席から立ち上がろうとしたその時―――……
《ガラッ》
図書室のドアが勢いよく開けられる音に、私は振り返った。
「美智子先生?貸し出し記録って―――」
私は口を開きかけながらそのまま停止してしまった。
こんな時間に生徒…?
図書室に入ってきたのは美智子先生ではなく、背の高い男子生徒だった。
顔を俯けているためか、表情がよく見えない。
訝しげに思いながら私ははっと我に返ると、慌てて男子生徒に尋ねた。
「えっと……返却ですか?」
顔を上げた少年と目が合う。
その途端、私はまたもやフリーズしてしまった。
黒い無造作な髪にシャープで鋭い目元。
鼻筋も綺麗に通っていてなんとも精巧な顔立ちをしていた。
すっ、すごい……!
きれい……男の美人ってこういう人の事言うんだろうなあ〜……
思わず少しの間見惚れてしまった。
すると私の声を無視しているのか単に聞こえなかったのか、美少年は無言のまま本棚へと向かっていった。
その様子に顔をしかめる。
……なんだか感じ悪いな、この人。
先輩かな?大人びている顔してるしちょっと偉そうだし………
私は改めて本棚に目を走らせている美少年をまじまじと見つめてみた。
ん〜…と、どっかで見た感じの顔なんだよね。
なかなか思い出せないんだけど……
ちらちらと頭の中を掠めていくものを必死に掴みとろうと頭の中で格闘していると、いきなり目の前が影で暗くなった。
顔をあげると、美少年が本を私に向かって突き出していた。
「早くしろよ。お前、図書委員なんだろ」
目の前の顔を見た瞬間、頭の中でピントが一致した。
一気にぶわーっと視界が開けるような感覚が広がっていく。
あぁ〜っ!
お、思い出した…!!




