第9話(累計 第99話) ダムガール、次の作戦を練る。
「アミお姉さん。指揮お疲れさまでした。おかげで無事に犠牲ゼロで敵の撃退が出来ました」
「ティオさまも掃討戦、お疲れさまでした。すいません、戦場での悪夢をティオさまに押し付けてしまいました」
戦闘終了後、二日目の夜。
夕食後、今回の作戦における報告会が行われる。
コンビットスのティオさま別荘、会議室は防音結界で覆われている。
……夕食時にはティオさまとゆっくり話せるけれど、食事時に血なまぐさい話をしてしまうのは、ちょっと嫌。だから、報告会は別にしたの。わたしの秘密についても多くの人の前で口外しちゃうのは色々困るし。
会議には、わたしの『事情』を知る者が大半。
ティオさま、ファフさん。
わたし、ヨハナちゃん。
スノッリ親方にドゥーナちゃん。
ジュリちゃん。
そして、わたしの秘密をまだ話していないリナちゃんとディネリンドさん。
リナちゃんのお父さんについての対策を話し合う以上、リナちゃんは外せない。
「いえいえ。実際に戦って命を奪うよりは気が楽です。それより直接、敵を倒す命令を出したアミお姉さんの方が精神的負担が大きかったのではないかと……」
「ご心配頂き、ありがとう存じます、ティオさま。ですが、わたくしの作戦が成功していないと、今の時間的余裕があり得なかった訳です」
ティオさま、わたしの事をとても心配してくれる。
以前、血が流れる事に対し弱音を吐いてしまったのを覚えていらっしゃるからだろう。
「確かにその通りではあります。ですが、アミお姉さんはくれぐれもご無理はなさらないでくださいね」
「はい。では、今後の事をお話ししましょう。それにはリナ姫さまのお話しも聴かないとです」
「アミータお姉さま。今回の戦いは、わたくしにも責任があります。父の事は遠慮なく倒してくださいませ」
話をリナちゃんに振ってみるが、父親のゴブリン王を倒すのも構わないと言い出す。
……リナちゃん。さっきまではずっと黙っていたの。多分、遠慮しての事だと思うわ。
「それは最終手段としておきたいです。親子で戦うのは、わたくしで最後にしたいの、リナちゃん」
「お姉さま……。お心使い、ありがとう存じます。わたくし、出来得るのであれば父の説得を行いたいと思っております。公爵閣下にもお手伝い願えますでしょうか?」
「はい、喜んで。級友の頼みとあればいくらでも協力致しますね。それで流れる血が少なくなるのなら、大歓迎です」
……ティオさま、リナちゃんに気を使ったのね。公爵として公式発言しちゃうとリナちゃんに対し行動を縛ってしまうけど、友だちとして手伝うって言ってくだされたの。それなら、わたしだって只の友だちとして一緒に行動できるもん。
「もちろん、わたくし。いえ、わたしもリナちゃんがお父さまとお話しできるように努力しますわ」
「アミータお姉さま……。それにイグナティオさま。本当にありがとう存じます。我らがゴブリンの民を救ってくださっただけでなく、父とも戦わずにすむ方法を模索してくださるなんて……」
「リナ姫さま、良かったですね。公爵閣下、そしてアミータ姫。わたくしからも主に変わりまして感謝いたします」
わたしもリナちゃんの願いに協力したいと言うと、リナちゃんは大きな瞳からポタポタと涙をこぼしだす。
そんなリナちゃんを背後に控えていたディネリンドさんが背中を撫でながら、わたし達に感謝をしてくれた。
「ディネリンドさん。この場に貴女とリナちゃんの関係を知らない人はいないです。なので、ここでは姉妹として触れ合ってもいいんですよ」
「ありがとう存じます、アミータお姉さま。ディネお姉さま、わたくし、沢山素敵なお姉さまが出来ました」
「良かったわね、リナ。貴女が幸せであればわたくしも嬉しいわ」
抱きしめ合う腹違いかつ種族違いの姉妹。
しかし、お互いの間に深い愛情があるのが見えて、実に良い。
場に集まった誰もが、二人を微笑ましく見守った。
「話がまとまったところで、戦況報告から致しますね。ファフ、皆に資料配布を」
「御意、坊ちゃま」
「アタシも手伝いますね」
ファフさんとヨハナちゃんが会議室に集まった全員に資料を配る。
そこには、ガリ版印刷で書かれた簡略化された地図と戦況が掛かれている。
「では、ボクから説明します。今回、公爵領内に進行してきた魔族軍。主にゴブリン歩兵を主体とした混成部隊。魔王直属の暗黒騎士団や従来型砲兵隊も加えた部隊ではありますが、公爵領全てを占領するには数が少なく、おそらく威力偵察部隊だと思われます」
ティオさまが、まず進行してきた部隊について説明をしてくれる。
ドラゴン形態になったファフさんやワイバーン竜騎兵さんたちの航空偵察により分かった敵の構成及びおおよその人数が、表として配られた植物紙に印刷されている。
「父、ゴブリン王が率いる部隊。わたくしが原因で王国に送られてきたのでしょう。申し訳ありません」
「リナちゃんは何も悪くないよ。第一、いまのところ、こちらに人的被害はゼロだし。まずは説明を聞いて、後で作戦会議ね」
リナちゃんがすまなそうにするので、わたしは人的被害もゼロだから気にしないでと慰める。
本当に悪いのは、ゴブリン王をけしかけてきた魔王なのだから。
「はい、アミータお姉さま。しかし、この資料。実に高度な技術ですね。一見しましたところ、全てが同じ方の字で書かれていますし、薄くて丈夫な紙。学校でも試験用紙がおなじようなので、驚きましたの」
「これもアミお姉さん由来の技術ですね。詳しい事はお話しできませんが、植物から作った紙にとある方法で印刷、同じ文字を書き記しているんです」
……水力発電による塩の電気分解。次亜塩素酸ナトリウムだけでなく、水酸化ナトリウムも入手できたの。おかげで、植物紙の工業的生産にも取り掛かれたわ。アルカリ剤で木材を煮れば、パルプが入手でき、それを漉けば植物紙の出来上がり。情報戦や工事設計書なんかにも、植物紙があれば便利ね。
「やっぱりアミータお姉さまは凄い方なんですね。この街にも驚きましたわ。丈夫な漆喰作りの街ですし、道も同じく漆喰で舗装されてます。更に飲み水が流れる管を街中全域に繋ぎ、どこでも安全な水が呑める。魔族国家はおろか、王国首都でも出来ないことですの」
「ティオさまもリナちゃんも、わたくしをほめ殺ししないでくださいませぇ。全部、わたくしがゼロから考えた事では無く、借りものなんですし」
「いえいえ。アミちゃん姫さまはすっごいんです! えっへん」
「その分、スケジュールを緩めて頂けるとアタイらは、助かるんですけどねぇ」
作戦会議のはずが、わたしへのほめ殺しになるのは困った事だが、会議は賑やかに進行した。




